ホラー作品における“サウンド効力”とは? 『呪怨:呪いの家』から考える音の仕掛け

『シルビアのいる街で』を彷彿とさせる街のざわめき

 ホラー作品には「ジャンプスケア」という定番の驚かし方がある。突然、ものが割れる音や大きな効果音を鳴らしたり、幽霊が出てきたりするアレだ。ブライアン・デ・パルマ監督『キャリー』(1976年)、 ウィリアム・ピーター・ブラッティ監督『エクソシスト3』(1990年)ほか、ゲームでは『バイオハザード』シリーズ、あとWEBの恐怖動画などでも広く使われている。日本映画でも中田秀夫監督『リング』(1998年)、清水崇監督『呪怨』(2002年)など、この手法を使った怖がらせ方は多い。

 『呪怨:呪いの家』も窓ガラスがいきなり割れたりして驚かせるところはある。が、そこまで極端ではない。むしろ同作は、当たり前の日常の音の方が不穏だ。なかでも筆者が好きなのは、街のざわめきである。誰にとっても当たり前な光景から聞こえてくる会話、物音の数々。

 第3話では、妊娠中の妻の不倫を疑い、街中で相手男性を尾行する夫(松嶋亮太)の姿が描かれる。そこで聞こえてくるのは、すれ違う人たちの足音、エスカレーターに乗る際の注意を促すアナウンス、時刻を告げる鐘の音など。カメラが不倫男性の背後にまわって夫視点になるとき、街のリアルなざわめきもあいまって、実際に相手を尾行しているような錯覚に落ちた。

 この場面で思い出したのが、ホラー映画ではないが、ホセ・ルイス・ゲリン監督の『シルビアのいる街で』(2007年)だ。フランスの古都・ストラスブールでひとりの青年(グザヴィエ・ラフィット)が、かつて出会った女性の面影を求めて、偶然見かけた美女(ピラール・ロペス・デ・アジャラ)の後をひたすらつけていくという物語。

 この作品でも、時刻を告げる鐘の音、路面電車が走る音、自転車の走行音、路面を転がる瓶の音、鳥の鳴き声など、さまざまな街の音で作品が構成されている。そのざわめきを聞いていると、映画を観ている自分がストラスブールの街のなかに溶け込んでいる感覚になった。『呪怨:呪いの家』はホラーでありながら、『シルビアのいる街で』に近い、現実的な音の魅力を持っている。そして、鑑賞者の日常と物語が地続きであるように感じさせる。

 『呪怨:呪いの家』にはほかにも猫の鳴き声、コップを倒して水がこぼれる音、肉体を裂く音、踏切の警告音など、いろんな音が仕込まれている。そのすべてが、どれも意味深で気味悪く聞こえる。ストーリー自体かなりおもしろいが、作品をかたちづくるサウンド面にも注目してほしい。

■田辺ユウキ
大阪を拠点に、情報誌&サイト編集者を経て2010年にライターとして独立。映画・映像評論を中心にテレビ、アイドル、書籍、スポーツなど地上から地下まで広く考察。バンタン大阪校の映像論講師も担当。Twitter

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