あいみょん、無人の日比谷野音に響かせた歌声 “最初で最後”の弾き語り配信ライブを観て

 梅雨時の少し気だるさを感じるムード、東京のビル群に囲まれた野音というシチュエーションにハマっていたのが「風のささやき」。フィルムのような質感で捉えられたあいみょんの横顔にビルの映像がオーバーラップし、夢を追うけれど日常に押しつぶされそうなこの歌の主人公の心が、画面越しではあるけれど空に放たれる感覚を得た。現場で聴いたら刺さりすぎたんじゃないか? と容易に想像できる。

 人心地ついた表情で語り出した彼女。心配していた雨も止み「鳥も鳴いています」とようやく笑顔を見せる。そして「みんなと会える時間もなかなかなくて。おうちにいる中でも新しい曲を出せてありがたいなと思う日常を過ごしてました。そんな曲を次にやります」と、まるで壊れ物のように繊細に弦を爪弾いて、「裸の心」のイントロを奏ではじめた彼女。音源もシンプルなアレンジだが、さらにむき出しの歌とギターだけのアレンジはサビの切なさをさらに強調する。繊細であるがゆえに強い、これまでの彼女とも違うこの曲の表現はこの日のライブの白眉だった。さらに「マリーゴールド」ではサビで、夏の扉が開いていくニュアンスを表し、野外の空気を目一杯吸い込んで全身で歌っている様子にいつどんな場所でも堂々と自分の歌を伝えるあいみょんらしさを見た。

 初めての無観客ライブも自分なりに楽しみ始めたように映ったところで意外な選曲「君がいない夜を越えられやしない」。『生きていたんだよな』弾き語りバージョンのカップリングに収録されていたこの曲。死んでもいいぐらい素敵な夜を知ると、人はとても弱くなってしまうのかもしれない。日常が美しいことは一瞬かもしれないのだからーーでも、だからこそあいみょんは恋をするし、恋の歌を歌い続けるのだろう。恋愛の純度と美しさと同時にある厄介さは「裸の心」と対になって響いた。

 「静かやな。これが最初で最後の無観客ライブにしたいなと思います。次はみんなと会いたいです」――なんて正直な言葉だろう。今、ここで歌っていることの意味を思い出しながら、渾身の力でラストの「君はロックを聴かない」を歌い切った彼女。ファンがいるライブでみんなに歌わせる箇所でマイクから離れて歌ったのも、目には見えないファンを想像してのことだろう。

 9曲45分。必要最低限のMC以外は弾き語りとセットリストの必然だけ。当初、広い野音のステージや空っぽの客席に寂しさばかり感じていたが、東京の空の下で一人あいみょんが歌っていたという事実はあらゆる孤独とつながる装置に思えてきた。もう二度と見られない一回性のライブだったのだ。

■セットリスト
M-1 風とリボン
M-2 ハルノヒ
M-3 ユラユラ
M-4 真夏の夜の匂いがする
M-5 風のささやき
M-6 裸の心
M-7 マリーゴールド
M-8 君がいない夜を越えられやしない
M-9 君はロックを聴かない

■関連リンク
あいみょん オフィシャルサイト
ワーナーミュージック・ジャパン HP

関連記事