世界初の“オンラインジャズフェス”が伝えた音楽の豊かさと奥深さ 『JAZZ AUDITORIA ONLINE』を観て
4月30日から5月1日にかけて、世界最大規模の“オンラインジャズフェス”となる『JAZZ AUDITORIA ONLINE』が開催された。
4月30日は「UNESCO INTERNATIONAL JAZZ DAY」(ジャズを祝う国際デー)。これに伴い2013年から入場無料の屋外ジャズイベント『JAZZ AUDITORIA in WATERRAS』が開催されていたが、今年は新型コロナウイルスの影響により中止に。それに代わって行われたのが国内外80組以上のアーティストが参加した『JAZZ AUDITORIA ONLINE』だ。企画・制作はBLUE NOTE JAPAN。“STAY HOME&LISTEN TO JAZZ”をテーマに日本、アメリカ、ブラジル、イギリス、ドイツ、フランス、イスラエル、イタリア、デンマーク、スペイン、キューバ、インドネシアなど世界各国からライブ配信が行われ、ジャズ、ボサノバ、ラテン、サルサなど、ジャンルを超えた素晴らしい演奏をリアルタイムで楽しむことができた。
世界初の本格的な“オンラインジャズイベント”は4月30日10時からスタート。コントラバスとピアノのデュエットで「Yesterday」(The Beatles)などを披露したNathan East、なんと日本のファンに向けて「残酷な天使のテーゼ」をカバーしたCamila Meza、自身のオリジナル曲「Rain」をジャズバージョンのインストで演奏した大江千里、クレオールジャズを軸にした心地いい音色を奏でた小沼ようすけなど、序盤から魅力的な生ライブが次々と届けられる。
また、「Big Band Leader's Summit」と題された時間には、Eric Miyashiro、Gordon Goodwin、Maria Schneider、挟間美帆というビッグバンドを率いた経験があるアーティストたちが“ビッグバンドの魅力”や“指揮者としてのスタンス”などについてトーク。この他にも「ジャズと歴史の楽しみ方 by川上陽平」、子供向けの「小川圭太のおもちゃのチャチャチャ」といったワークショップも。ジャズへの理解が深まり、楽しみ方が広がるプログラムもこのイベントの見どころだった。
午後の時間帯で印象的だったのは、まず、矢野顕子。医療関係者に対する感謝と敬意、自宅待機を強いられている人々へのメッセージとともに演奏されたのは、童謡「いもむしごろごろ」のカバー。遊び心と高い演奏技術に裏打ちされたピアノ、豊かな郷愁と解放感に溢れた歌からは、彼女の独創的なスタイルを改めて実感することができた。
また、新世代キューバンジャズを代表するピアニスト・Harold López-Nussaの演奏も強烈。ジャズ、ラテン、クラシックを味得た多彩な音楽性、濃密なグルーヴと美しい旋律を共存させたプレイ、そして、Ruy Adrian Lopez-Nussa(Dr)との遠隔セッションは、今回のイベントのハイライトの一つだった。
リラックスした雰囲気のなかで、緻密なアンサンブルを聴かせてくれた大西順子トリオ、トランペットのソロ演奏とエレクトロニカを融合させた類家心平、「Djobi Djoba」をはじめとするヒット曲で楽しませてくれたChico&The Gypsies、バイオリンの弾き語りという個性的なスタイルでアンビエントな雰囲気を醸し出したYilian Canizaresなど、夕方から夜にかけても魅力的な配信が続く。この時間帯、もっとも注目を集めたのは小曽根真。“Welcome to Our Living Room”と銘打った配信ライブを続けている小曽根はこの日、BLUE NOTE TOKYOのロゴを部屋に飾り、約1時間にわたってプレイ。リアルタイム視聴者は約8000人と、日本のジャズピアニストの第一人者としての存在感を見せつけた。