金子厚武「アーティストの可能性を広げるサポートミュージシャン」
東京事変のメンバーが過ごしてきた“再生”までの時間 個々の活動と照らして見える「プロ集団」としての姿
3曲目の「現役プレイヤー」を作曲した亀田誠治は東京事変への参加前からすでにプロデューサーとしてのポジションを確立していたわけだが、flumpoolのメンバーとのTHE TURTLES JAPANや、高橋優とのメガネツインズなど、アーティスト活動も行いつつ、2015年にはいきものがかりの「あなた」と大原櫻子の「瞳」で「日本レコード大賞」の編曲賞を受賞。山本彩、ヤバいTシャツ屋さん、BiSHのアイナ・ジ・エンドなど、若手とも積極的に関わりつつ、ドラマ『SUITS/スーツ』の主題歌として知られるB’zの「WOLF」にベーシストとして参加するなど、J-POP/J-ROCKのシーンを精力的に盛り上げてきた。
2018年に『プライムニュース』(フジテレビ系)の音楽テーマ曲を手掛けたのは、『ニュース』の伏線のようでもあり、2019年には椎名林檎も飛び入りで参加した『日比谷音楽祭』を自ら主催。「現役プレイヤー」は『ニュース』の中でももっともソリッドなロックンロールナンバーであり、まさに現役感バリバリな亀田のエネルギーと貫録を同時に感じさせる。
4曲目の「猫の手は借りて」を手掛けた刄田綴色は、2013年にscopeに正式メンバーとして復帰したほか、ヒグチアイのライブやtricotのレコーディングに参加するなどしてきたが、やはり印象的なのは2015年からRADWIMPSのサポートを務めていたこと。森瑞希とのツインドラム編成は結果的にバンドをさらに押し上げることとなり、社会現象となった映画『君の名は。』を経て、2016年の『NHK紅白歌合戦』にはRADWIMPSと椎名林檎のサポートで2ステージに登場している。オルタナティブな質感の「猫の手は借りて」は、「人間」を題材とした歌詞も含め、どこかRADWIMPSの「棒人間」にも通じるか。
5曲目の「永遠の不在証明」が椎名林檎の作曲だが、ギターやキーボードのソロをフィーチャーしつつ、アウトロではメンバー全員でセッションを繰り広げているように、やはり「個の集合体」としての東京事変の姿を印象付けていて、実際に椎名は現在の東京事変を「職人集団、プロ集団」と形容してもいる。一人ひとりが習熟した大人となり、再び会いまみえることで、新たな創造物を作り出すということ。それは『ニュース』を通じて、いかに「自分」を発見するかという作品の命題ともリンクし、一人ひとりの主体的な参加こそがよりよい社会を生んでいくという、そんなメッセージにも繋がっているように感じられる。
■金子厚武
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『ナタリー』『Real Sound』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』『bounce』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。