『One Voice』『One Girl BEST』インタビュー

アニメソングの女王 堀江美都子が語る、アニソンが伝え続ける“夢と希望と愛”「今みたいな状況のときに必要になってくる」

アニメソング業界の中の自分の立ち位置がわかった

ーー続いて『One Girl Best』は堀江さんの50年のキャリアが凝縮されたオールタイムベストです。こちらは、選曲はどのようにされたのですか?

堀江:自分で選ぶとキリがないので、ディレクターさんにお任せしました。今回のコンセプトは「50曲入れる」ということなので、そちらを優先して。あとは、若い社員さんが知っている曲を入れてもらったりとか。実は私の50年の内訳って、20年が昭和で、30年が平成なんですよ(笑)。「あ、3/5が平成なんだ!」と思うと、若い人が知っている曲が多くても不思議じゃないんです。

ーー50曲の中から堀江さんご自身の転機になった曲、印象深い曲を3つ挙げていただけますか?

堀江:まずはデビュー曲。「紅三四郎」ですね。この曲がなければ、ここまで来ていないので。これはオーディションだったんです。12歳のときでしたね。

 日本最初の連続TVアニメの『鉄腕アトム』が1963年で、ここから日本のアニメソングの歴史が始まったと大学の講義でも話しているのですが、私が「紅三四郎」を歌う1969年まで6年あるんです。私はその間にたくさんアニメを観ていましたが、主題歌を歌うのは合唱団や歌謡曲の歌手の方ばかりだった。専門職としてのアニメソングの歌手は、私からなんですね。そういう意味でも、出発点として外せない曲です。

ーー「アニメソングとはこういうもの」というひな型がない時期だったと思いますが、どのように歌われていたのでしょうか?

堀江:戸惑いなどは何もなかったです。12歳の女の子がひとりでスタジオに入れられて「歌いなさい」と言われたら、何も考えられませんよ。ただただ、うまく歌うことだけを考えていました。歌い方はいろいろな指導をいただいて、現場で培われていったものです。

ーーこぶしが回っているところもありますよね。幼少の頃から演歌じゃなくて、クラシックに親しまれて育ってこられたのに。

堀江:あれは何なんでしょうね。日本人のソウル(笑)?

ーーありがとうございます。2曲目はいかがでしょう?

堀江:次はやっぱり「キャンディ・キャンディ」。私はデビューしてから中高生の頃に何百曲もレコーディングしていますが、少女ものはほとんど歌っていなかったので、このキラキラした『キャンディ・キャンディ』の曲を歌うと知ったとき、ものすごくときめきました。

 レコーディングのとき、作曲家の渡辺岳夫先生は「これは100万枚売れる」と確信を持っておっしゃっていました。私も「そうなんだ」と思い、先生の言葉を信じて歌ったら、本当に120万枚売れたんです。ヒットを実感するまでにはタイムラグがあったのですが、地面からお尻を持ち上げられるようなザワザワ感はありましたね。今思うと、それが最初のアニメブームだったんですね。

 『キャンディ』をきっかけにいろいろなお仕事ができるようになったり、名前が知られるようになったりして、自分の人生が方向づけられたと思います。「プロのアニメソング歌手としてやっていくんだ」と。

ーーそれまで何百曲も歌ってきましたが、アニメソング歌手としてやっていこうとは思われていなかったのですか?

堀江:そういう仕事をしていくのだろうとは思っていましたが、決定的に「私はアニメソング歌手です」と自分で口にするようになったのは『キャンディ』がきっかけでしたね。今思えば、本当にありがたいと思います。

ーーでは、もう3曲目はいかがでしょう?

堀江:何だろう……。世界的に人気があったのは「ボルテスV」ですが……どれがいいですか?(笑)

ーー個人的な思い出ですが、「君がいるから」を最初に聴いたときに驚きました。『ドラえもん のび太のパラレル西遊記』の挿入歌、エンディングテーマですが、堀江さんが歌う『ドラえもん』の曲なのにマイナーコードでロック調の曲なんですよね。

堀江:ああ、実は息子(アーティストの堀江諒介)が物心ついてから初めて好きになった私の曲なんです。「カッコよかった!」と言ってくれて。『ドラえもん』の映画の中でも『パラレル西遊記』はハードボイルドなお話でアクションも多いんです。私も「このアレンジで大丈夫なの?」と思ったのですが、映画の中で流れてくると「まさにこの感じだよね!」と思うんですよね。プライベードでとても思い出のある曲です。今、ライブで息子と共演することもあるんですよ。

 『ドラえもん』はたくさん関わらせていただいていて、どちらかというとエンディング曲や映画の曲などのサブレーンを走っているのですが、どれもすごくいい曲なんです。アルバムの最後に入っている「キミのひかり」は、いつもコンサートの最後に歌っています。宝物のような曲ですね。この曲が自分に与えられたとき、アニメソングという業界の中の自分の立ち位置がわかったというか。「今の私にしか歌えない歌詞と曲をいただいた」と思いましたね。大事に歌っている曲です。

私たちの声が衰えてしまったら、みなさんの思い出も古びてしまう

ーー堀江さんはライブなどで若いアニメソングのシンガーと共演することが多いと思いますが、彼ら彼女らに伝えていきたいことは何でしょう?

堀江:自分がかかわる以前の時代のことは知らなくても歌は歌えるのですが、知らなくて歌うのと、知った上で歌うのとでは、どこかで違いが出てくると思います。できれば、アニメソングができた頃からの流れを知ってもらえれば嬉しいですね。歴史や成り立ち、音楽的な変化などを知ってもらえれば、何か違った表現ができるかもしれないと思うんです。

 今はアニメソングもファッションとして捉えられている部分があるかもしれませんが、その前に普遍性というものがあると考えてくれる人がいれば、とても嬉しいですね。

ーーアニメソングが持っている普遍性とは何でしょうか? あらためて聞かせてください。

堀江:アニメソングの歌詞の中には、人が苦しいとき、今みたいな状況のときに必要になってくる言葉ーー夢、希望、愛、平和、元気、友だち、家族ーーそういうシンプルな言葉がたくさん使われていて、それが多くの人に一番伝えたいことなんです。これが、アニメソングが他のジャンルの音楽と違う部分であり、だからこそ時代を飛び越える。50年前の歌詞を今、聴いてもストレートに伝わるんです。

 それにメロディもアレンジもパワフルで、クオリティが高くて音質がいい。「キャンディ・キャンディ」のイントロなんて今聴いてもまったく色褪せません。

ーー歌詞もサウンドも普遍性があって時代を超えるのですから、声も普遍性が必要ですね。

堀江:そう! そこが問題!(笑)。ここが変わっちゃいけない。当時と変わらない声が出せるように、自分の身体を駆使して変化させているんです。それこそ1日単位で声を響かせる場所を変えていますし、体調が悪い日は工夫しますし。

ーー楽器を手入れするような感じですね。

堀江:自分の体全部が楽器だと思って、手入れしながら鳴らしていかなければいけません。大げさに言えば、ストラディバリウス(笑)。「何十年前と変わりませんね」と言われることで、私たちアニメソングのシンガーの価値が出てくると思います。それは聴いてくれる人の思い出をそのまま運んでいるから。私たちの声が衰えてしまったら、みなさんの思い出も古びてしまいますからね。人間だからいつか限界は来ますが、それを恐れず、変わらないように歌い続けたいと思います。

堀江美都子 デビュー50周年記念アルバム『One Voice』&『One Girl BEST』(2020/2/12発売)ダイジェスト試聴

■リリース情報
デビュー50周年記念カバーアルバム『One Voice』
発売中
¥3,000+税

<収録内容>
1.なんでもないや(movie ver.)
〔オリジナル:「君の名は。」(2016)主題歌 RADWIMPS〕
2.銀河鉄道999
〔オリジナル:「銀河鉄道999<The Galaxy Express 999>」(1979)主題歌 ゴダイゴ〕
3.オー!リバル
〔オリジナル:「名探偵コナン 業火の向日葵」(2015)主題歌 ポルノグラフィティ〕
4.ひまわりの約束
〔オリジナル:「STAND BY ME ドラえもん」(2014)主題歌 秦基博〕
5.星間飛行
〔オリジナル:「劇場版 マクロスF 恋離飛翼 〜サヨナラノツバサ〜」(2011)挿入歌 ランカ・リー=中島愛〕
6.sailing day
〔オリジナル:「ONE PIECE THE MOVIE デッドエンドの冒険」(2003)主題歌 BUMP OF CHICKEN〕
7.炎のたからもの
〔オリジナル:「ルパン三世 カリオストロの城」(1979)主題歌 ボビー〕
8.世界の約束
〔オリジナル:「ハウルの動く城」(2004)主題歌 倍賞千恵子〕
9.RPG
〔オリジナル:「クレヨンしんちゃん バカうまっ!B級グルメサバイバル!!」(2013)エンディングテーマ SEKAI NO OWARI〕
10.Carry a Dream
(日本語訳詞:マイクスギヤマ)
〔オリジナル:「MARCO 母をたずねて三千里」(1999)主題歌 Sheena Easton〕

デビュー50周年記念ベストアルバム『One Girl BEST』
¥3,000+税

<DISC-1>
1.紅三四郎
「紅三四郎」より
2.アクビ娘
「ハクション大魔王」より
3.魔法のマコちゃん
「魔法のマコちゃん」より
4.心のうた
「さすらいの太陽」より
5.ムーミンのテーマ
「おはなしムーミン ムーミン谷に春がきた」より
6.かぐや姫先生のうた
「好き! すき!! 魔女先生」より
7.けろっこデメタン
「けろっこデメタン」より
8.緑の陽だまり
「山ねずみロッキーチャック」より
9.ジムボタンの歌
「ジムボタン」より
10.ぼくらきょうだい てんとう虫
「てんとう虫の歌」より
11.サザエさんのうた
「まんが名作劇場 サザエさん」より
12.あかるいサザエさん
「まんが名作劇場 サザエさん」より
13.進め!ゴレンジャー
「秘密戦隊ゴレンジャー」より
14.ラ・セーヌの星
「ラ・セーヌの星」より
15.シンドバットのぼうけん
「アラビアンナイト シンドバットの冒険」より
16.ペペロの冒険
「アンデス少年 ペペロの冒険」より
17.クムクムのうた
「わんぱく大昔 クムクム」より
18.斗え忍者キャプター
「忍者キャプター」より
19.ぐるぐるメダマンおばけだぞ
「ぐるぐるメダマン」より
20.たたかえ!ガ・キーン
「マグネロボ ガ・キーン」より
21.キャンディ キャンディ
「キャンディ キャンディ」より
22.あしたがすき
「キャンディ キャンディ」より
23.リトル・ルルとちっちゃい仲間
「リトル・ルルとちっちゃい仲間」より
24.ボルテスVの歌
「超電磁マシーン ボルテスV」より
25.野球狂の詩
「野球狂の詩」より
26.勇気のテーマ
「野球狂の詩」より
27.魔女っ子チックル
「魔女っ子チックル」より

<DISC-2>
1.一球さん
「一球さん」より
2.宇宙魔神ダイケンゴーの歌
「宇宙魔神ダイケンゴー」より
3.明日夢みて
「科学忍者隊ガッチャマンII」より
4.燃えろアタック
「燃えろアタック」より
5.タンゴむりすんな!
「俺はあばれはっちゃく」より
6.花の子ルンルン
「花の子ルンルン」より
7.ダルタニアスの歌
「未来ロボ ダルタニアス」より
8.ハローララベル
「魔法少女ララベル」より
9.別離
「宇宙戦艦ヤマトIII」より
10.走れ!ジョリィ
「名犬ジョリィ」より
11.ハロー!サンディベル
「ハロー!サンディベル」より
12.恋は突然
「愛してナイト」より
13.あなたに真実一路
「Dr.スランプ アラレちゃん」より
14.CROSS FIGHT!
「破邪大星ダンガイオー」より
15.青空っていいな
「ドラえもん」より
16.君がいるから
「ドラえもん のび太のパラレル西遊記」より
17.ひみつのアッコちゃん
「ひみつのアッコちゃん」より
18.DON'T YOU…?
「ひみつのアッコちゃん」より
19.グローイング・アップ
「私のあしながおじさん」より
20.太陽を追いかけて
「風の中の少女 金髪のジェニー」より
21.風の少女
「風の少女エミリー」より
22.笑顔のループ
「ジュエルペット」より
23.キミのひかり
「ドラえもん のび太と奇跡の島 〜アニマル アドベンチャー〜」より

堀江美都子 公式サイト

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