MACO×藤野良太、ドラマ『僕だけが17歳の世界で』対談 挿入歌「桜の木の下」を通して描いたラブソングと死生観
佐野勇斗、飯豊まりえがW主演を務めたオリジナルドラマ『僕だけが17歳の世界で』(AbemaTV)(以下、『ボクセカ』)が本日4月2日に最終回を迎える。
ドラマの内容に呼応するように響くMACOの挿入歌「桜の木の下」も話題となっている本作。リアルサウンドでは、最終回の放送目前に、プロデューサー・藤野良太とシンガーソングライター・MACOの対談を公開。2人の出会いから今回の作品でタッグを組むに至った経緯、そしてMACOが感じる『ボクセカ』の魅力、楽曲制作秘話、さらにはドラマのテーマにも共通する死生観までじっくりと語ってもらった。(編集部)
「桜の木の下」は芽衣ちゃんに憑依して書いた曲
――まずは2人がどういう経緯で知り合ったのか、ということから聞かせてください。
藤野良太(以下、藤野):僕がフジテレビにいた頃、2016年にあるドラマの主題歌候補を決めるときに、MACOさんの曲を聴いたのが最初でした。そこから、どこぞの我儘プロデューサーが……僕のことなんですけど(笑)。何回も何回も「書き直して」とお願いして手直ししてもらって、あげく違う曲にしちゃったという酷い話がありまして。
MACO:一生忘れないプロデューサーさんになりました(笑)。
藤野:まあ、ラブストーリーって真逆の印象から入るものじゃないですか(笑)。
――最初は悪い印象からスタートして、どんどん近づいていくという。
藤野:そう(笑)。そこから時は巡って、MACOさんのライブに行ったんですよ。その後にご挨拶したら「何度でも書きますから!」というパンチラインを貰って。それがグサっと刺さったんですよ。そこからしばらく経って、ドラマ『僕だけが17歳の世界で』(AbemaTV)(以下、ボクセカ)の企画段階で「もう1回、一緒にできたら良いな」と思って依頼しました。
――その縁が4年越しのオファーになったわけですね。MACOさんは依頼を受けた際にどう思いましたか?
MACO:オファーをいただいた時は純粋に嬉しかったです。膨大な量の企画書をいただいたんですけど、隅から隅まで読みましたし、「藤野さんが気に入ってくれる曲を、何が何でも作ろう」と気合が入りまくっていました。
――ちなみに、MACOさんは藤野さんが作っているドラマにどういう印象を持ってますか。
MACO:ラブソングを書いている身としては、恋愛ドラマや映画も好きなので、藤野さんが手掛けたドラマは欠かさず見ていました。
――藤野さんの手がけているドラマに感じる“らしさ”とは?
MACO:すごく軽い言葉で言うと”キュンキュン”なんですけど、もっと詳しく言うと、恋愛してない人もドラマの中に入っちゃうくらいのリアルさと切なさを感じるし、何より“人間味”があるんですよ。今回のその『ボクセカ』に関しては、ただの恋愛ドラマじゃなくて、友情もあったり、色んな人間味が溢れるドラマになっていますし。
藤野:“人間味”って言ってもらえたのは嬉しい。僕自身、全部のドラマは人間ドラマだと思って作ってるので。
――藤野さんが『ボクセカ』を作るにあたって、意識したコンセプトは?
藤野:最初は、AbemaTVということもあって地上波ではできない尖った企画を考えていたんですが、作っていくうちに「フジテレビから独立して一番最初に作るドラマがこんな変化球でいいのか」と思うようになって、得意ジャンルで勝負しようと。ただ「別れ」をテーマに企画を通していたり、AbemaTVでやるからには恋愛リアリティーショーと差別化しなければいけないとなったときに、ファンタジーで勝負しなきゃと思うようになり、キーワードを頭の中に足していったら、コンセプトが降りてきました。
――MACOさんが感じる『ボクセカ』ならではの魅力とは?
MACO:出演者の皆さんに実際会ったときの印象と、ドラマの画面の向こうで見る感じが全く一緒だったことにすごく驚きました。雰囲気が本当の同級生みたいで。だから画面を通してもより泣けるし、共感できるし、自分も学生時代に戻った気分になれるんです。
藤野:個人的にはああいう状態に持ってくるのが一番大切だと思っていて。とくに若いキャストって、役柄にどこか1点、本人たちの持ってるいいところを持たせて、そこから膨らませた方が役に入りやすい。自分との接点を見つけてくれて、いい表情をすごく引きだせるというか。飯豊まりえさんとも最初に「飯豊まりえの武器は何? 良いところって何だと思う?」という質問をして。
MACO:「笑顔」ですよね。
藤野:そう。この話は「17歳の頃は大切な人がいて、その人がいたから笑えていたけど、そんな(飯豊演じる)芽衣ちゃんから笑顔が消えて、その大切な人が戻ってくることによって笑顔を取り戻すまでの話」と伝えたら、スッと入ってくれたんです。その代わり、17歳の笑顔と24歳の笑顔は違うから。1話目は17歳で、最終話は24歳の笑い方にして、最後の笑顔をちゃんと大切にしてこうねと。
MACO:なるほど。私、今この話を初めて聞いたんですけど、1番のサビが〈あなたの笑顔が私を救ったのです〉で始まるのでビックリしました。
藤野:だからすごいと思ったの。それを資料から読み取ったんだと思って。
MACO:めちゃくちゃ分厚い紙資料が送られてきて、夜寝る前にベッドの中で拡大して読んで、“桜の木の下”というキーワードを大事にしながら、芽衣ちゃんに憑依して書きました。
藤野:本当にすごい。あと、僕がドラマで主題歌をお願いしたなかで、歌詞を修正しなかったことって今まで1回もないんですけど、今回のMACOちゃんが初めて1回も修正なく進みました。
MACO:そうなんですね! 2番の〈桜の木の下〉のフレーズなんて、まだまだたくさん言葉があったんですよ。2番の歌詞こそ大事だと思って、悩みに悩みましたね。私、〈好き〉とか〈大好き〉とか〈愛してる〉ってサビでストレートに言っちゃうんです。だから、1回はそれを言わない歌詞を2番にはめてみたいって話し合って、〈あなたの記憶で私は生きれるのです〉というフレーズになりました。
藤野:MACOさんの歌詞ってすごくストレートだけど、ディテールに惹かれるんですよ。ただ「大好き、愛してる」と言っているだけだと映像が浮かばないんですけど、ディテールがある歌詞って、風景がパーンて浮かぶというか。2番の話をしていて思い出したんだけど、この間6話のラストを見て、「バックハグが好き」って言ってたじゃないですか。それって、最初に考えてた内容に近いなと思って。
MACO:そうなんですね! 私も資料を読んでいる時は、ずっと2番のような歌詞の気持ちになっていたんですよ。デートをしてても何をしてても、いつか見えない明日が、この人を奪っちゃうんじゃないか、と不安になるというか。
藤野:そうなると、記憶の中で生きるしかなくなるという。
MACO:そうですね。記憶といえば、私は起こったことを忘れないように、定期的に思い出す訓練をしてるんです。いや、この話は違うな! 忘れてください!(笑)
藤野:え、どういうこと?(笑)
ーーせっかくなので聞かせてください(笑)。
MACO:えっと、そのときの臭いや温度、天気とかを忘れないように、その時聴いてた曲を聴き直したりするんです。そして、その記憶との距離感をずっと一定にして離れないようにしているというか。
藤野:記憶繋がりで僕もいいですか? “記憶の中でしか生きられない”って、ドラマもそうだと思うんですよ。ドラマって、一生懸命ストーリーとかを作るけど、結果、忘れ去られるって、10年間ドラマを作ってきて改めて気付きました。でも、自分もそうで、若いころに好きだったドラマーー例えば『ロングバケーション』とかも、ストーリーを詳しく話せと言われれば所々思い出せないんですけど、木村拓哉さんと山口智子さんが3階からスーパーボールを投げるシーンと、主題歌だった久保田利伸さんの「LA・LA・LA LOVE SONG」はハッキリ覚えているわけで。ストーリーって、憧れの1枚絵と歌しか覚えてもらえないな、という結論になったんです。でも、その一番良い絵を印象づけるためにストーリーがあるんだというのが、今日現在の解釈ですね。
ーーということは、それを逆算して作ることもある?
藤野:『ボクセカ』も、全部一枚絵から決めてますね。この一枚絵はきっと人の心を動かすだろうな、というのを決めてから、ストーリーを作っているので。
MACO:違うかもしれないですが、ふなっしーが出てくる場面は印象的でした。2人が17歳のころの7年前って、ふなっしーがすごいフィーチャーされてた時代なんですよ。
藤野:1話は桜の木の下で再会する瞬間と、桜の木の下で泣く芽衣の顔に物語のピークを持ってこようと思ったんですよ。だから1話は輝きやきらめきをすごく作って、そこから一気に落とす流れにした。そこでふなっしーを、(佐野勇斗演じる)航太の死に顔を直接見ないようにするためのアイテムとして使ったわけです。
MACO:なるほど!