木村拓哉、泉谷しげる、宮本浩次……忌野清志郎、万人から愛される理由は? 色あせることのない素直で自由な音楽性

忌野清志郎『Baby #1』

 素直な楽曲であるということは、自由な楽曲であるということ。これも忌野清志郎の楽曲が愛される理由だ。たとえば、今のロックミュージシャンからはなぜだかなかなか聞こえてこないポリティカルな楽曲だって、清志郎は歯に衣着せず(「音楽に政治を持ち込むなじゃねえよ!」と言わんばかりに)歌い、レコード会社に発売中止を突きつけられても屈すことなく、自分のメッセージを曲げずに貫いてきた。好きなことをありのまま表現するために、自由であるために、嘘に抗うように、たくさんのユーモアや茶目っ気を曲にちりばめつつ、感情の妨げをポップに回避してきた。

 泉谷しげるをはじめ、多くのアーティストにカバーされてきた代表曲「雨あがりの夜空に」を聴いても、感情の妨げが一切なく、自由があふれているのがわかる。カバーするアーティストがライブなどで歌うときの表情を見れば伝わるとおり、歌うことの喜びをゴキゲンに爆発させていたり、やりきれない気持ちを叩きつけるように叫んでいたりと、喜怒哀楽すべての感情をめいっぱいに解き放っている。冷静になんて到底なれないほどに。泉谷はソロを弾くギタリストに向かって「もっと行け!」と興奮していたりするし、NHK『うたコン』での宮本浩次(エレファントカシマシ)の高ぶったパフォーマンスも忘れられない。〈こんな夜に/おまえに乗れないなんて/こんな夜に/発車できないなんて〉と大声で笑いながら歌えるこの名曲は、清志郎のユーモアとエネルギーがビンビンに詰まっていて、理屈では抑えきれないパワーがあり、最高のエンターテインメントとして成立している。

 文字数がいっぱいになってしまったけれど、ほかにも斉藤和義がカバーした「空がまた暗くなる」、奥田民生やBank Bandによる「スローバラード」など、忌野清志郎が残した名曲はセブンイレブンのCM曲としておなじみ「デイ・ドリーム・ビリーバー」以外にも山ほどある。また、木村とともに特番『輝き続けるキヨシロー』に出演した武田真治が『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系)で自分を救ってくれた存在として清志郎への感謝を涙ながらに語っていたように、懐の深い人間性ももちろん彼の魅力として挙げておきたい。

 忌野清志郎のデビュー50周年記念日にあたる3月5日には、RCサクセションのシングル曲を集めた3枚組アルバム『COMPLETE EPLP ~ALL TIME SINGLE COLLECTION~』もリリースされる。今なお色あせることのない清志郎の楽曲にあらためて触れてみてほしい。

■田山雄士
フリーのライター。元『CDジャーナル』編集部。日本のロックバンド以外に、シンガーソングライター、洋楽、映画も好きです。

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