『MAP OF THE SOUL』シリーズは“BTSとは何者なのか”を問う物語に ユング心理学も踏まえ新アルバム全貌を予想

 リーダーでありBTSの“顔”を演じることを要求される機会の多いRMが環境に適応するための仮面をかぶる“ペルソナ”を、アイドルとしての抑圧と葛藤に言及することが多かったSUGAが“ペルソナ”をつけた結果抑圧される自己=“シャドウ”を担当し、過去のネガティブな感情を全て今のポジティブな感情に変換していくようなストーリーのソロ曲を多く発表してきたJ−HOPEがそれらへのアンサーとも言える“エゴ”を担当することは、必然だったのだのかもしれない。ユングの心理学では「自我=EGOが自己から分離する時に失った、完全なるものへの可能性を取り戻すことで、全体性を回復して自己を実現する」ことが人間的な成長であるとしている。「Outro:EGO」の歌詞にある“そう俺は気にしないのさ/全ては自分の運命の選択/だから俺達はここにいる”“今は前に進むだけ”というフレーズは、まさにこの“自己実現”を達成したことを表すのではないだろうか。また、ラップラインが三者三様にひとりの人間の内面の変化を描いてみせる構成は、『花様年華』シリーズから繰り返し強調されている“7つの心臓を持つ1人の少年”というBTSのコンセプトからも外れていない。

 ちなみに、「Outro:EGO」にサンプリングされている「Intro:2 Cool 4 Skool」のパートは、それ自体が元々は韓国のヒップホップグループ・EPIK HIGHの「GO」(2003年のデビューアルバム『Map of the Human Soul』収録曲)からのサンプリングだ。元々韓国内ではユングをテーマとしたアルバムを制作したアーティストとしては、繰り返しモチーフとして取り上げ、自主レーベルの名前も<Map The Soul>にしていたEPIK HIGHが代名詞的な存在だ。「Go」も自己紹介から始まる自分のペルソナ/シャドウ/エゴについての曲と解釈出来るリリックでもある。2005年にEPIK HIGHがリリースしたアルバムのタイトルは『Swan Song』でリパッケージは『Black Swan Songs』。そしてこのアルバムに収録されていた「Fly」を聴いてRMとSUGAはラッパーを志すようになったという。『MAP OF THE SOUL』シリーズのコンセプト全体に少なからずEPIK HIGHからの影響とオマージュがあると言って良いだろう。実際、前作のリリース前にEPIK HIGHのリーダー・Tabloとメンバーがやりとりした経緯もあり、SUGAはTabloの紹介で韓国の大御所歌手、イ・ソラの楽曲に参加するなどいわゆる“成功したファン”的な側面もあるようだ。

[M/V] LeeSoRa(이소라) - Song request(신청곡) (Feat. SUGA of BTS)

 人間の心の成長を解き明かすのに有益なユングの心の地図=MAP OF THE SOULだが、一度成長しても、またそこから新しい壁にぶつかっていくのもまた人の心というものだろう。ペルソナにはエゴを守る役割もあるし、シャドウもまた心からは切り離せないものだ。今作がその様な逡巡と同時に、アルバム最後の曲であるはずの「Outro:EGO」で示した成長に至る過程を表したものになるのかどうか、アルバム全貌が待たれる。

■DJ泡沫
ただの音楽好き。リアルDJではない。2014年から韓国の音楽やカルチャー関係の記事を紹介するブログを細々とやっています。
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