Official髭男dism「I LOVE...」レビュー:歌詞やメロディでヒゲダンが伝える“逡巡”こそが面白さに

 歌詞についても、同じようなことが言える。「I Love...」までは言えても、「you」とまでは言えない語り手たる「僕」の逡巡が延々とつづられ、楽曲の最後を迎えてもついぞ語り手は「I Love you」という言葉自体は歌わない。堂々巡りのように続くモノローグの果てに、〈その続きを贈らせて〉と叫んだあと、最後の一行でさりげなく〈受け取り合う僕ら〉と視点が転換する(単数の「僕」が複数形の「僕ら」に、一方的な「贈る」が双方向的な「受け取り合う」に)ことで、聴き手はうっすらと「I Love you」のやりとりを想像するに至る。

 楽曲のうまみを決定的なワンフレーズやわかりやすいカタルシスへと回収しないのとパラレルに、語り手もある一言には決して単純にたどり着かず、さらには聴き手にはその言葉が隠される。細切れの部分には還元されない、一言で要約しきれない、このまだるっこしくもある道のりは、歌詞のなかに織り込まれた〈句読点のない〉という表現がまさにしっくりくる。この曲はまるで部分を持たないひとつらなりの文のようだ。そんなこの曲の特徴が、パンチラインを消費するのに抗うように、あるいはまっすぐな物語を迂回するかのように、名前のない夜のなかへとリスナーを導くのだ。

Official髭男dism - I LOVE...[Official Video]

■imdkm
1989年生まれ。山形県出身。ライター、批評家。ダンスミュージックを愛好し制作もする立場から、現代のポップミュージックについて考察する。著書に『リズムから考えるJ-POP史』(blueprint、2019年)。ウェブサイト:imdkm.com

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