『ぷ。』インタビュー
みゆはんが模索する「自分らしさ」 “人のことが好きな人見知り”は歌を通して他者と向き合う
音楽はもちろん、声優、デザイナー、モデル、エッセイ、ゲーム実況と多岐にわたるフィールドで活躍中の人見知りシンガーソングライター、みゆはんが前作から10カ月ぶり3作目となるニューアルバム『ぷ。』をリリースした。1stアルバム『ひきこもり情報弱者』(2018年7月)では自分自身の内面と徹底的に向き合い、超豪華アーティストによる楽曲提供を受けた2ndアルバム『闇鍋』(2019年3月)では他者から見た自分を知り、「新しい自分に出会えた」と語っていた彼女。「自分→自分」、「他者→自分」という過去2作品を経た彼女の視線や思考は、果たしてどこに向かったのだろうか。(永堀アツオ)
アルバムタイトルの『ぷ。』がゲシュタルト崩壊に関係している……?
ーー前作『闇鍋』をリリースした後の心境から振り返っていただけますか。
みゆはん:(『闇鍋』)でいろんな方から楽曲提供をしていただいたことで、自分の音楽と向き合う時間が増えて、これから自分がどんな音楽をしていけばいいのかということをすごく迷いました。それぞれのアーティストさんの色が出ている曲のなかで、より「みゆはんらしさってなんだろうな?」って悩んでしまったんですね。それから今に至るまで、ずっと「自分らしさ」というのが課題になってますね。
ーー見つかりましたか?
みゆはん:いや、まだ模索中ですね。それが今回のアルバムにも繋がって、幅の広い音楽になってしまったし、自分らしさを考えながら作った結果、「自分は誰?」みたいなことになっちゃって。自分のために歌ってる曲が、1曲もなくなっちゃったんですね。
ーーえ? 1曲もないですか。
みゆはん:そうですね。ただ、1曲目の「ゲシュタルト崩壊」は今の自分を歌うことができたと思います。「自分は誰だ?」って迷ってる気持ちも出しつつ、他の曲は、誰かのために歌ったり、何かを演じている曲しかない。まだちょっと答えは出てないなっていう感じですね。
ーー「ゲシュタルト崩壊」が今作全体のテーマになってます?
みゆはん:そうですね。タイトルの『ぷ。』もゲシュタルト崩壊に関係するタイトルになってて。これ、人がボーリングしてる姿に見えるんですけど。
ーーああ! 見えた。気づきませんでした。そして、もうそれにしか見えなくなってる。
みゆはん:あはははは。それがゲシュタルト崩壊です。「ゲシュタルト崩壊」というテーマを象徴するタイトルをつけたいなって考えたときに、昔、テレビでやっていたのを思い出して、こうなりました。ジャケットも3種類あるんですけど、それぞれメイクもガラッと変えて。本当の自分はどれかわからないっていうイメージになっています。
ーー楽曲「ゲシュタルト崩壊」の中の「私」は、だんだん自分が誰だかわからなくなっていってますよね。
みゆはん:最後に向かってだんだん崩壊していくような曲を書きたかったんです。これ、実は、歌詞の中の一番最後の〈2月22日〉のところは、別人になっていて。1月22日から2月16日までの人はもう死んだっていう表現になっているんです。一人で鏡を見た私が、後日亡くなった後に、気づいてくれた人がいた、みたいな。生まれ変わりたいっていう気持ちもあって。こういう歌詞を書きました。
ーーどんな「私」でした?
みゆはん:自分が誰だか分からなくなってしまうくらい弱い人物で、自信がないイメージですね。過去の自分も愛しつつ、急にいなくなる寂しさも感じつつ、でも、新しくなった自分でいたいということを描いていて。私もずっと自分に自信がなくて。このままでいいのかっていうのは常に考えているので。
ーー「私」=「彼女」は、「わたし」に生まれ変わったのかな。
みゆはん:このアルバムを通して生まれ変われていたらいいなという思いはあるので、生まれ変わっていることを願いたいですね。
ーーみゆはんさんはどう変わりたいですか。
みゆはん:うーん、なんだろうな……とりあえず、人見知りを無くしたいっていうのと、もっといろんな経験をしたいですね。悲しい経験も含めて、もっと刺激のある経験をしていきたいなって思います。
ーー人見知りをなくしたいんですね。ちなみに人は好きですか?
みゆはん:人は好きです。もともと人見知りのリハビリみたいな感覚でTwitterのリプライを始めて。もう5年くらいやっているので、リプライのみでいうと、やりとりが上手にはなってる。でも、対面でちゃんと喋れるかっていうと、まだまだ人見知りがあって。でも、前作で楽曲提供を受けた時から、人と関わることが増えて。そこから、もうちょっと人を知っていきたいな、人間を知っていきたいなっていう気持ちにはなってます。
ーー前作のインタビューでもおっしゃってましたけど、そこから10カ月経ってますね。
みゆはん:ふふふ。なかなか出会いっていうか、人と会う機会がなくて。どこで出会うのかもわからないですけど、とりあえず、漫画とかを読んでます。
ーーあはは。どういうことですか?
みゆはん:漫画の中のキャラクターと喋ることから入ろうかなって思ってます。
ーー(笑)。道のりは遠そうですね。「自分はだれか?」と自問自答して見えたものはありましたか。
みゆはん:結局、考えてみても答えにはたどり着けそうになかったので、「とにかく自分がやりたいことをやる」っていうのを目標にして、いろいろ頑張っています。
ーー2曲目以降は、誰かのために書いた曲か、誰かを演じてる曲ですよね。
みゆはん:そうですね。2曲目の「Poison Mortel」はインターネット掲示板にいる寂しい人をテーマにして書きました。フランス語になってる部分は人間としてのすごく汚い部分を描いてる。世界一きれいな言葉って言われているフランス語だったら汚い言葉もきれいにまとめてくれるのかなって思って、フランス語にしたんです。
ーー英語と日本語も混じってますね。
みゆはん:そうですね。なぜかこうなりました。なんでこうなったんだろう……(笑)。洋楽に近づけたかったのと、ずっとやってみたかったウィスパーボイスに挑戦した曲です。日本語のところもちょっと英語っぽく聞こえるように歌うのが難しかったです。
ーー女の子の心情としては?
みゆはん:この曲に出てくるのは小さい頃から愛に恵まれなかった人たちですかね。それで歪んじゃったというか、みんな敵に見えちゃう。すごくキラキラしている子に対しても、愛されている子に対しても、敵対心を抱いちゃうんだけど、本当は誰かに助けて欲しいっていう、孤独で、誰も味方がないっていう人です。
ーーこのまま、1曲ずつ聞かせてください。3曲目の「キスは無理」は一転して、テンション高めのユニークなダンスポップになってます。作詞作曲がTHE BACK HORNの菅波(栄純)さんです。
みゆはん:前作『闇鍋』で楽曲提供をしていただいときに会ったきり会ってないんですけど、その後も連絡をくださっていて。デモを頂いていた中の1曲なんですけど、菅波さんの頭の中に出てくる女の子がすごくピュアというか。まだ中学生くらいみたいで(笑)。時が止まった感じがすごく好きなんですよね。
ーーこの曲は演じてるわけですよね。
みゆはん:そうですね。ほんとに中学生の女の子っていうふうに自分でも想像しながら歌ったんですけど、すごくクールなところもありつつ、実際に迫られたら「むりむり!」みたいに急に初々しくなってしまうようなところを歌で表現しました。
ーー4曲目「綺麗になったよ」はエモーショナルな失恋バラードです。
みゆはん:さっきも言ったように私、Twitterでファンとリプライのやり取りをしているんですけど、たまにファン同士が付き合ったっていう報告をくれることもあって。ことあるごとに、どこに行ったよとか、彼に会ったよっていう報告をしてくれていたんですが、その2人が最近、別れてしまったみたいで。女の子の方がすごく悲しんでたから、なんとかして元気づけたいなと思って、この曲を書きました。
ーー好きな人と別れてしまったファンの女の子のために描いた曲?
みゆはん:そうですね。その子の経験からできた曲です。彼がいなくなってしまった、自分を嫌いになってしまった理由に別れてから気づいて。また彼に振り向いてもらうためにも自分磨きしなきゃっていう気持ちで、〈綺麗になったよ〉って歌ってます。
ーー〈ありがとう/さようなら〉って言ってるけど、まだ未練もあるのかな。
みゆはん:まだ好きだけど、戻れる可能性はそんなに感じてはいない……みたいな感じですね。