渋谷すばると錦戸亮、グループから離れ新たなスタート地点に ソロ活動からみえるそれぞれの音楽表現

錦戸亮

錦戸亮『NOMAD』(通常盤)

 一方の錦戸は、事務所退所のメッセージにおいても「僕なりのエンターテイメントは何なのか」という言葉をシンプルに残したのみで、渋谷のように会見を開いたわけでもなかったゆえ、今後どういったことをしていくのかは誰もわからなかった。しかし、退所日の翌日、10月1日にはインディーズでレコードレーベル<NOMAD RECORDS>を設立し、ファンクラブも発足、11月のライブツアー日程までも発表され、誰もが度肝を抜かれたことはまだ記憶に新しい。文字通り0秒で次の行動を開始してみせた。12月にアルバムの発売も発表。“これからも自分にできることは全部、なんでもやってみたい”という決意表明としてなのか、アルバムからのリード曲「ノマド」を先行配信した。

錦戸 亮「ノマド Studio Ver.」Official Music Video

 関ジャニ∞にいた時代からせっかちと言われ続けてきた錦戸とはいえ、あまりの行動の早さに誰もが驚くわけだが、つまるところ、彼は休みたくてグループをやめたわけでもなんでもなかったし、とにかく、大きなグループをやめたからこそ、そこでは実現しえなかったことにもなんでもトライし、どんどん実現してみたいのだろう。

 とはいえ、アルバム発売前である11月にライブを開催するという急な知らせについて錦戸は、これまでアイドルとして自分を支持してくれたファンに対し、申し訳なさのようなものも感じていたのではないだろうか。勢いよく見えるものの、彼のTwitterなどでの発言からはそういった感情や気配りが感じ取れたりした。そんななか行われたライブでは、グループ脱退発表後から制作を始めたという10曲を披露。曲は己のことを歌ったものというよりも、むしろ他者の物語を歌っているようだった。そして、他者の物語を自分自身で演じてエンターテインメントに昇華しているように感じられた。ジャニーズのなかでも2つのグループで同時並行で活動してきたという経験を持つ錦戸。アルバム『NOMAD』は、いくつもの視点が己の中に並走するような稀有な感覚を持ち合わせた錦戸ならではの、自意識のようなものを凌駕した、かなりバラエティに富んだ楽曲たちが並んでいる。楽曲を制作するストーリーメイカーであり、俳優としてそれを演じられるストーリーテラーとしての能力も兼ね備えた人間ならではの多様な世界観があるのだ。アルバムからの先行配信曲であり、実体験に基づくノンフィクション的な状況と心境を歌った「バッジ」や、細やかに女性の気持ちを描いたラブソング「ヤキモチ」を聴くだけでも、同アルバムが実に彩り豊かな作品であるかがわかるだろう。

 錦戸のソロアルバム『NOMAD』は12月11日に発売され、翌週には全国55館の映画館でのツアーファイナルのライブビューイングも開催。TwitterやInstagramを中心としたSNSの使い方も注目を浴びている。先日は清竜人との2ショット写真もインスタグラムで掲載し、新しい動きをシャープに伝え続けており、さらには古巣のジャニーズ事務所時代からの赤西仁とともに新プロジェクト・N/Aを始動させることも発表された。今回のアルバムは、錦戸のあらゆる“面白いこと”のためのほんのひとつに過ぎないのかもしれない。音楽に限定せず、音楽もひとつの手段としていくような、錦戸ならではのエンターテイメントの草案が、今の彼の脳内に渦巻いているようだ。

 関ジャニ∞は第2章へと突入、かくして渋谷と錦戸は別の場所より出発することになった。彼ら7人の物語がまたいつか別の章で交わることもあるのかもしれないし、もしくはまったく交わることは無いのかもしれない。ただ、関ジャニ∞も、その出身者たちも、今全員が非常にシンプルなスタート地点に立っていることで、ある意味、清々しさすら感じさせてくれることは確かだ。今後も、その活動を見据えしっかりと聴き込んでいきたいし、決して誰も歩みを止めることの無い彼らの今後にはますます期待が高まるばかりだ。

■鈴木 絵美里
1981年東京都生まれ、神奈川県育ち。東京外国語大学卒。
ディレクター・編集者として広告代理店、出版社にて10年間勤務の後、2015年より独立。現在はWEB、紙、イベントを軸としたコンテンツの企画・ディレクションおよび執筆に携わる。音楽、映画、舞台、テレビ、ラジオなどエンタテイメントを広く愛好。

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