インタビュー連載『あの歌詞が忘れられない』

佐藤千亜妃が語る、心惹きつけられた3曲の歌詞 「宇多田さんの楽曲は一箇所ズシンと重たい言葉が入っていたりする」

子どもたちに対してどんな光を見せてあげられるかもすごく考えます

ーー佐藤さんの1stアルバム『PLANET』は、全体を通して歌詞の具体性が増して開放的な印象です。佐藤さんの歌詞を振り返ると、きのこ帝国初期の頃は強い怒りや苦しみが表現されていましたが、作品を重ねるにつれて人間の美しさが描かれるようになったように思います。また、そうした変化からは前に進もうとする意志も感じました。

佐藤:音楽を制限されそうになった時期に、人の自由を奪う人に対して負けないように攻撃的な曲を書いていました。世の中に牙を向いていたのだと思います。でもあるとき、憎んでいた人を許した瞬間があって。様々な考え方や心があったんだと理解したんです。それで、一方的に責めても何も生まれないなって実感して。「善」と「悪」に分けて考えるのではなく、一歩踏み込んで考えてみて「否定」ではなく「受け止める」考え方に変わったことで、歌詞の表現も大きく変わりました。

ーー歌詞がより具体的になっていったのも、そういった背景があるのでしょうか。

佐藤:それもありますが、投げかけたかったかたちとは裏腹に受け取ってマイナスな方向に進んでしまう人もいると気がついたことが大きかったです。“闇の中でもこういう風に感じられたら素敵だよね”ってことを歌っていたのですが、自分たちの楽曲が悪い意味での逃げ道として負を助長してしまうこともあった。だから、自分たちが思っている以上に音楽に対して責任を持たなきゃいけないって思うようになりましたし、これから生まれてくる子どもたちに対してどんな光を見せてあげられるかもすごく考えます。歌詞が明確化していったのも、そういった考え方の変化がありました。こんな自分でもいいんだって背中を押してあげられるような音楽を意識して作るようになりましたね。それ以降、周りからも「歌詞が開けてきたね」って言われるようになりました。

ーー一方で、『PLANET』には、宇多田さんや岸田さんのように重く響く言葉も入っていますよね。「空から落ちる星のように」の〈笑い方を忘れたのは/あなたと思い出すためだね〉は、まさにその一つだと思いました。こうした表現ができるのも、きのこ帝国から現在にかけての音楽活動があってこそなんですね。

佐藤:嬉しいです。私もこのフレーズが浮かんできたときに「書けた!」と思いました。これは、31年間生きてきたからこそ出てきた言葉だと思っていて。いろんなことが無駄じゃなかったなと思いましたね。

ーー音楽活動を行っていくなかで考え方の変化もあったかと思いますが、佐藤さんが作詞するにあたって最も重要としていることとは何でしょうか。

佐藤:心がギュってくる歌詞であれたらいいなと思っています。楽しい一辺倒に見える歌詞でも、一箇所に重力があるフレーズを入れたい。楽しいのに、笑ってるのに、泣けてくるってこともあると思うんです。一つの感情だけでは収まらない人間の情緒を表現していきたいですし、聴いている人の琴線に触れるような詞をいつも目指しています。

(取材・文=北村奈都樹/写真=三橋優美子)

<合わせて読みたい>
第1回:崎山蒼志に聞く、心に残っている3曲 「坂本さんの歌詞は“すべてが終わった後”という感じがする」

■リリース情報
『PLANET』
発売中
CD+DVD:¥3,800(税抜)
CD Only:¥2,800(税抜)
<収録曲>
1.STAR
2.FAKE/romance
3.空から落ちる星のように
4.You Make Me Happy
5.大キライ
6.lak
7.Summer Gate
8.Lovin' You
9.Spangle
10.面
11.キスをする
12.PLANET

<DVD収録内容>※CD+DVDにのみ収録
STUDIO LIVE:
空から落ちる星のように
大キライ

キスをする

■ライブ情報
『佐藤千亜妃 LIVE TOUR 2020 PLANET +』
2020年4月25日(土) 愛知 名古屋クラブクアトロ
2020年4月28日(火) 大阪 梅田クラブクアトロ
2020年5月10日(日) 福岡 DRUM Be-1
2020年5月15日(金) 岩手 盛岡Club Change WAVE
2020年5月17日(日) 東京 恵比寿 The Garden Hall
※詳細はオフィシャルHP にて。

佐藤千亜妃公式HP

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