Coldplay、『Everyday Life』に寄せる期待 先行公開3曲からアルバムコンセプトの描かれ方を読む

 2015年のアルバム『A Head Full Of Dreams』とそれに伴うキャリア最大の世界ツアーを経て、昨年はバンドの歴史を振り返るドキュメンタリー映画『Coldplay: A Head Full Of Dreams』を公開したColdplay。彼らが11月22日に通算8枚目となる最新アルバム『Everyday Life』をリリースする。この作品は「国や言語、文化、宗教に違いはあれど、世界のどこにいても誰にでも『普通に1日』は訪れる」というテーマで制作されたコンセプトアルバム。現時点で収録曲の中から「Orphans」と「Arabesque」、「Everyday Life」の3曲が公開されている。ここではリリース発表までの施策と、すでに公開されている3曲から、アルバムへの期待をまとめてみたい。

 今回のアルバムに際しては、情報解禁の段階から印象的な方法が取られている。まずは10月、突如ベルリンや香港、シドニーといった世界各地の都市に「1919年11月22日」と書かれたバンドメンバーとニーチェが映った謎のポスターが登場。その後、500人のファンのもとにメンバーの手書きのサインが入った手紙が届き、そこで『Everyday Life』というタイトルのアルバムが11月22日に発売されること、「Sunrise」と「Sunset」という2パートに分かれた構成のアルバムであることが発表された。ちなみに、この手紙には「僕たちはこのアルバムを100年つくっていた」という冗談も添えられていたが、今回の『Everyday Life』はジャケットにも今からちょうど100年前の1919年に撮影されたジョニー・バックランドの曽祖父のバンド「ヴィック・バックランドのダンスオーケストラ」の写真にメンバーの顔を合成したものが使われている。これはおそらく、「Everyday Life=日常」という時を経ても変わらない普遍的なテーマを表現した作品だからこそだろう。その後も、ジョニーが昔アルバイトをしていた媒体を含む新聞の広告欄でトラックリストを公開するなど、一連の告知は100年前にも存在したアナログな手法で行われ、それがSNSで拡散され話題となった。

 そして10月24日には、アルバムから「Orphans」と「Arabesque」の2曲を公開。リード曲の「Orphans」はクリス・マーティンの息子モーゼスによる「Boom boom ka, buba de ka」というビートボックスも加えた、近年のColdplayらしいアンセミックなポップチューン。とはいえ、歌詞では2018年にシリアの首都ダマスカスで起こった爆撃をテーマに、「Rosaleem」という少女とその父親「(=Baba)」の視点で「いつになったら平穏な日々に戻れるんだろう」と嘆く様子が描写され、そのフレーズにはクリス・マーティンの歌とともに子供たちのコーラスが重ねられている。まるで曲中の登場人物だけでなく、世界各地で戦争や紛争に巻き込まれている人々の姿を連想させるような雰囲気だ。また、映画『Coldplay: A Head Full Of Dreams』の監督も務めたマット・ホワイトクロスによるMVでは、ニューヨークやマリブといった様々な場所/様々な時間の映像と、スタジオでのバンドの演奏が撮影され、バンドとダンサーがスタジオの壁や天井を歩くシーンは、時計の針が右回りに進む様子や、地球の様々な場所で暮らす人々の姿を連想させるものになっている。

Coldplay - Orphans (Official Video)

 一方、「Arabesque」は、アフロビートの開祖にして黒人活動家でもあったナイジェリアのレジェンド・フェラ・クティの長男フェミ・クティと、その息子マデがホーンアレンジ/演奏を担当し、オーソドックスなポップソングの形式を外れるように荒々しいサックスのフレーズがループする、珍しく攻撃的な雰囲気の楽曲になっている。とはいえ、歌詞では〈I could be you, you could be me(=僕は君でもあり、君は僕でもある)〉〈We share the same blood(=僕たちは同じ血を分けている)〉など、平穏な日々が失われる瞬間は誰にでも起こりうることや、立場の違いを越えた相互理解の大切さを描写。ベルギー出身でフランスでも人気の高いストロマエもゲストボーカルとして参加し、直前のクリス・マーティンが歌う英語詞とほぼ同じ意味合いを表現した歌詞をフランス語で歌っている。クライマックスは終盤の「Music is The Weapon Of The Future」というフェラ・クティの引用。このフレーズが延々繰り返される中でホーンが盛り上がる様子は、まるで戦いの狼煙が上がるようでもある。

Coldplay - Arabesque (Official Lyric Video)

 そして11月2日に公開されたタイトル曲「Everyday Life」は一転、クリス・マーティンの静謐なピアノと荘厳なストリングスアレンジが際立つ、初期からバンドサウンドとともにColdplayの魅力のひとつとなってきたピアノバラード。歌詞は〈What in the world are we going to do?(=僕たちは何をしようとしているんだろう?)〉〈What kind of world do you want it to be?(=どんな世界になってほしいと思う?)〉という冒頭からはじまり、徐々に失意の中から立ち上がっていくような、もしくは穏やかに人々を鼓舞していくような「日常の賛歌」とも言える内容になっている。バンドは同日にアメリカのTV番組『Saturday Night Live』に出演。ここでも「Orphans」とともに「Everyday Life」が披露された。

Coldplay - Everyday Life (Official Lyric Video)

 3曲だけでアルバムの全体像を理解することは到底できないものの、どの曲を聴いても感じるのは、社会の諸問題を踏まえたうえでイマジネーションの力をテーマにし、全編を通してカラフルな夢の中にいるようなサウンドを鳴らしていた前作『A Head Full of Dreams』とは打って変わって、今回の『Everyday Life』の収録曲では、今の世の中や、そこで暮らす人々の「光」と「影」の両方をかなり克明に描いているのではないかということ。そのうえで、クリス・マーティンらしいまっすぐな歌詞が「普通の1日」という世界中の人々が共感可能なテーマに繋がっていて、世界最大のバンドのひとつとなった今のColdplayらしい壮大なスケール感を生んでいる。バンドは発売日の11月22日に、ヨルダンの首都アンマンから収録曲を全曲披露するライブも配信予定。アルバムの全貌とともに楽しみにしたい。

■杉山 仁
乙女座B型。07年より音楽ライターとして活動を始め、『Hard To Explain』~『CROSSBEAT』編集部を経て、現在はフリーランスのライター/編集者として活動中。2015年より、音楽サイト『CARELESS CRITIC』もはじめました。こちらもチェックしてもらえると嬉しいです。

Coldplay『Everyday Life』

■リリース情報
『Everyday Life』
発売:2019年11月22日(金)
価格:¥2,700(税抜)
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オフィシャルサイト

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