『白目』インタビュー

SHINGO★西成が伝える、“白目むくほどしんどいことが多い”世の中への前向きなメッセージ

大事にしていることは「何を残して、何を捨てるか」


——レゲエファンにも注目されそうな曲が「1Dで入れるって feat. TERRY THE AKI-06 & JAGGLA」ですね。

SHINGO★西成:DJ KEN KANEKOくんから、大阪のTORNADOというクルーのJAGGLAと俺で1曲やらないかというオファーをもらって。JAGGLAの上にGAZZILAという俺らの仲間がいるから、GAZZILAを飛び越してJAGGLAをチョイスするのは俺の筋とは違う想いがあったけど、KENくんの声掛けでいつも刺激と元気くれるJAGGLAと集まれたから、これはガイダンスだなと思って。

——そのときに作ったのが、DJ KEN KANEKO名義で出た「ウエニイコウ」ですよね。

SHINGO★西成:そう。そのときにJAGGLAとせっかく出会ったんやから何かやろうと。で、「ウエニイコウ」と並行して、俺ら勝手に作り始めたのがこの曲なんです。「ウエニイコウ」はゆっくりした応援歌だったから、それとは対象的というか、違う方向のものをやってみようと。そこで聞いたのがノリノリのこのトラックやったから、「エエやん、コレ!」となったんです。

——この曲はクラブの遊び方入門ソングとも言える内容です。

SHINGO★西成:ちょうどその時期にイケてる若い子が出ると聞いたデイイベントに顔を出したんです。そのときにキャッシャーの近くで、高校を卒業したくらいの子が「1D(ワンディー)で入れるってー! 来てやー! 大丈夫やから!誰か言うてたってー!知らんけど…」ってホンマに言ってん(笑)。

——リリックは実話だったんですね(笑)。

SHINGO★西成:そう。なにその「ワンディー」って言い方って。ワンドリ、とか、1杯分払ってや、みたいな言い方は身についてるけど、「ワンディーで入れるってー!」って軽い調子でずーっと言ってて。車のキーを指でクルクル回しながらナンパしてるみたいな感じで。それが強烈に記憶に残ってたときにこのトラックを聞いたから「あ、これをテーマにいこう」と。

——この曲ではBONGA STARSの「人種無差別多国籍軍団」でTERRY THE AKI-06が歌うフレーズをサンプリングしています。どのような経緯で使うことになったんですか?

SHINGO★西成:曲を作ったときは、KENくんの声掛けで作れたごほうび的な曲やったから、少しタイミングを考えようと思って。それで他のアルバム制作を進めて行くうちに「あの曲ここに持ってきたらええ感じになるんちゃうかな」と思って、JAGGLAに、この曲のイメージに合う奴は? って聞いたらTERRYさんがいいですねと。

——その名前が出て、どのような思いでしたか?

SHINGO★西成:TERRYが亡くなってからもう12年。10年を超えたら俺なりにアクションしたいなと前から思ってたんです。でも無理やり合わせたんじゃなく、タイミングがすべて合ってたんですよね。この年齢まで来たら、20代・30代のときよりタイミングっていうものを大事にしたいなと思ってて。そういう気持ちがあったから、JAGGLAから名前を出されて「あ、来た来た来た。やろうやろう!」みたいな感じでした。

——「かかってこんかい」は、XLII(シリー)によるプロデュースですね。彼はSHINGOさんが「ヒールで仁王立ち」をプロデュースした大門弥生さんの「NO BRA! feat あっこゴリラ」などを手掛けています。

SHINGO★西成:XLIIはすげえいいトラックメイカーでイケてるプロデューサー。

——XLIIが手掛けてるから今どきのベースミュージック感もありつつ、懐かしい感じもするトラックでした。

SHINGO★西成:あのビートの打ち方は、俺が今、だいぶ気にしてる2003年前後の感じ。ティンバランドがJay-Zとガッツリやってたりとかね。あの頃のビートって、ハネてるんですよ。DMXの曲とかもそうですけど、楽しくなるんです。今はソウルフルな、ブルージーな、ジャジーなネタ使いが多い中で、あの時代のハネ感はあまりみんな使ってないから、そのハネ感があって、プラス今どきの感じがあるといいなと。

——そんなトラックの上で「かかってこんかい」と歌うから、ずいぶんと威勢の良い曲になりましたよね。

SHINGO★西成:実はこれ、リミックスを制作中なんです。漢 a.k.a. GAMIに参加してもらうことになってて。漢とは前の事務所のレーベルメイトでもあるし、あいつはフリースタイルも一流だけど、べしゃりも一流やから。その2人が集まって、ライフスタイルを歌う曲をいつかやりたいと思ってたが、こういうイケイケな悪ノリな曲もしたくなって漢に無理言いました、おおきに、やで、漢!

——漢さんとの2人コラボは10年以上ぶりになるんじゃないですか?

SHINGO★西成:そうかも。漢とだったら、生き方より生き様の曲になるんです。BOSSさんとか般若とかKREVAもそうやけど、彼らとは生き様をいつか歌いたいと常々思っていて。俺もそれに値するように自分を磨いていかなアカンけど、それは先の楽しみにしておいて、まずはそこに繋がるように、俺らはまだまだこういうのに(ラップを)乗せられるで、ってところを見せておこうと。漢には無理やり付き合ってもらってる感じもあるけど(笑)、出るのを楽しみにしといてください。

——DJ FUKUがプロデュースを手掛けた「ラッパーの背中をながめて」にも90’sの匂いを感じました。

SHINGO★西成:確かにね。あのドラムの叩き方とか。これは、「いつもDJにお世話になって、ラッパーは気持ちよくライブできてます。いつもありがとうございます」っていう歌ですね。

——ライブでバックDJを務めるDJ FUKUのビートだから、そういうテーマに?

SHINGO★西成:もともとやりたいと思ってたことがFUKUのビートでカタチになったという感じかな。このビートはFUKUちゃんのアルバムにも入ってるから。

——『スタメン』に入ってる「FIX UP (feat. NG HEAD & JAGGLA)」のビートですよね。

SHINGO★西成:そう。同じオケです。レゲエではその手法はワンウェイと呼ばれてよくあることだけど、ヒップホップではあまりなくて。レゲエにはお世話になってるから、ヒップホップにもそのレゲエの楽しさを伝えたいなと思って取り入れました。それに昭和レコードからFUKUちゃんのアルバムを出させてもらったから、「FIX UP」と繋いでかけられる感じもええなと。DJに「いつもおおきに!」みたいなパターンは多いやろうけど、同じオケというのはあまりないだろうし、そういうところも含めて現場主義の曲ですね。

——「学校いこう」という曲も入っていますが、お子さんはいくつになりました?

SHINGO★西成:4歳になりました。

——通学路の光景を歌った曲ですが、子どもの成長を見ていて書いた曲なんですか?

SHINGO★西成:自分が育った街で今、子どもが保育園に行ってるから。なんか詫び状みたいな(笑)。こういう街で育てて、父ちゃんは悪いと思ってる。けどそれ以上に、この街に誇りを持っている。けど実際、歌詞に書いた通りですから。家の前は飲み屋ばっかりで、これでもきれいに書いてるくらい。こないだも「おつかれさん。ありがとう。また来るわー」って飲み屋を出たおっちゃんが、店先で転んで、振り返ったら血まみれになってるとか。子どもにとったら、びっくりでしょ。子どもには「おっちゃん、怪我してはるな。でも、怪我しても泣いてないな」とか言うてポジティブにまとめてるけど。

——いろんな免疫とか耐性がつきそうですね。

SHINGO★西成:それから数カ月して、また店の前に血まみれのおっちゃんがいて。俺はどんなおっちゃんたちにも「挨拶せえ」と子どもに普段から教えてるから、そのおっちゃんに「こんにちはー」って息子が言うてて。ビビらへんようになったもん、免疫で(笑)。

——父親になって、音楽に向き合う姿勢は変わりましたか?

SHINGO★西成:本来は「KILL西成BLUES」とか、今回で言えば「ワタシミチニマヨッテマス」みたいな、ネガティブな発想で育ってきた俺が「学校行こう」とか、前作の『ここから…いまから』とか「一等賞」とか、そういう曲ができたのは子どもができたことが大きいと思う。言葉の価値観がちょっと変わってきましたよね。でも「どうせ俺なんか」みたいなネガティブな部分も持ってるから、ピースな曲を作っていてもそういうことを吐き出す場面も出てくるんですよね。〈学校 Fuck Off〉はほんまは言うたらアカンけど、そこで自分から出てきた言葉に嘘はつきたくないし、ガス抜きをしないと。

——ネガティブな部分があってのポジティブですしね。光が当たるところには影が出来るというか。

SHINGO★西成:何を残して、何を捨てるか。そこは今回相変わらず厳しくやりました。「エエやん」っていう言葉も毎作ガンガン使うけど、ポジティブな意味でまとめてるんで。そういう言葉をちりばめながら、生々しい、できたての、吐きたての言葉を並べたアルバムだと思ってます。フレッシュな言葉と音で勝負してると思うので、ぜひアルバム単位で聞いてくれたら嬉しいですね。

(取材・文=猪又孝/写真=西村満)

■リリース情報
『白目』
LABEL : 昭和レコード
発売 : 10月23日(水)
価格 : ¥2,700(税抜)

収録曲:
1. 日焼けしたって俺らは黄色い
2. エエ感じ
3. かかってこんかい
4. 学校いこう
5. しったこっちゃない
6. あいしてんでOSAKA
7. ノーサイド
8. ワタシミチニマヨッテマス
9. 1Dで入れるって feat. TERRY THE AKI-06 & JAGGLA
10. ないとき あるとき
11. ラッパーの背中をながめて
12. 白目

SHINGO☆西成オフィシャルサイト
Twitter

関連記事