シドが全曲新録の『承認欲求』と17年目で目指す先「“引き算できるような音楽”がキーワード」

 2018年に結成15年を迎えたシド。マオ(Vo)、明希(Ba)のソロプロジェクトなど、各メンバーのソロ活動も盛んな中、9月4日にリリースされた2年ぶりのアルバム『承認欲求』は収録される全曲が新曲というバンドにとって新たな試みに。15年という期間に対する思いから、今作の印象的なタイトルやサウンド面も含むコンセプト、そして“17年目”に目指す先についてまでをメンバー4人が語り合った。(編集部)

『NOMAD』を作ったあとも創作意欲が高いまま(明希)

ーー昨年結成15周年を迎えたシドが昨年8月発売のミニアルバム『いちばん好きな場所』に続いて、ニューアルバム『承認欲求』をリリースします。フルアルバムとしては2017年9月発売の『NOMAD』以来2年ぶりですが、今作にはシングル曲が一切含まれておりません。そもそも、シドは『NOMAD』以降シングルを1枚もリリースしていませんよね?

明希(Ba):それはたまたまなんですけどね。『NOMAD』を作ったあとも創作意欲が4人とも高いままで、去年はツアーを前に「新曲をやりたいよね」という話になって『いちばん好きな場所』を作った。今もその延長だと思います。

ゆうや(Dr):しかも「作品を出そう」というタイミングにたくさん曲が揃っていたので、シングルじゃなかったということなんでしょう。

明希:あとは、単純にアルバムだけ出すというアルバム先行型リリースをしたことがなかったので。これまではシングルを年に3枚ぐらい出してからアルバムという形があったので、その流れをいい意味で一回壊してまた違うやり方を提示できた気がしています。

ーー例えば最近はデジタル主流になりつつあり、シングルというものにどういう価値を見出すかがアーティストによって違うと思います。そういうタイミングに、17年目に突入したシドがまるまる新曲だけで構成されたアルバムを発表したことに、とても驚いたんですよ。

明希:別に今回も「最近シングル出す人少ないよね、多いよね」という概念から「じゃあ俺たちはこうしよう」ということではなくて、今の活動ペースにおいて今回はアルバムだけリリースすることが、今の自分たちの温度感とマッチしたっていうだけだったのかな、という気もします。今までも無理やりシングルを作ってきたわけではないですし、これからもきっと出すと思うし。あまりそこの形態に関しては、そんなに意識していなくて。それこそ、配信だけでリリースしても面白いかなとは思いますし、それぐらいの感覚ですね。

ベストな曲をそれぞれ持ち寄って、ひとつの世界にまとめた(明希)

ーー実際シングル曲が1曲もないぶん、最初から最後まですごく新鮮な気持ちで接することができたアルバムでした。今作を制作する際、コンセプトやテーマなどは存在したんでしょうか?

明希:テーマというテーマはそんなにはっきり打ち出していなくて。今出せる自分たちのベストな曲をそれぞれ持ち寄って、それをひとつの世界にまとめたというのが正しいのかな。特に今回はかなり昔に原型を作った曲も入ってますし、こないだの横浜アリーナ(3月10日に開催した『SID 15th Anniversary GRAND FINAL at 横浜アリーナ 〜その未来へ〜』)で新曲として披露した「君色の朝」も収録されています。ただ、アレンジに関しては“これからのシドの音楽性の在り方”じゃないですけど、そういうものは作っていくうちにみんなで共有し合って、進めていきました。

ゆうや:“引き算ができるような音楽”がキーワードでしたね。今までは足し算を得意としていて曲を豪華に仕上げてきましたが、今回は音数を減らすことで活きる曲が集まったところもあって。

ーーなるほど。音の差し引きによってどうシンプルでカッコよく聴かせるかは難しさも伴うと思います。レコーディングではそことどう向き合いましたか?

明希:ただ引き算やシンプルということでもなくて、そのメロディと楽曲の呼んでいるものーーフレーズにしろ、音色にしろーーをちゃんと捉えて進めていきました。ベースでいうと「ここに、ほんのちょっとシンセベースっぽい感じが欲しいな」とか、ニュアンス的なことなんですけどね。逆に「もっとストレートな表現がこの曲には合うな」と思ったら、バンドにない音で聴かせるよりもギターとベースだけで表現したりとか。打ち込みの曲もありますけど、わりと4人で「せーの」で表現できるところで完結させたいなというのはちょっと思っていました。なので、楽器の素材の音がちゃんとわかるものというイメージを出したくて、ミックスの音もそういう匂いがするような感じに最終的になったんじゃないかな。

ーー確かに、聴いていて楽器一つひとつの音がくっきり浮かび上がってくるサウンドですよね。

明希:そうですね。録音の段階からいろいろと試してきたので、それがちゃんとCDになるまで活かしきれた自信はあります。

「承認欲求」は今の時代を象徴する言葉だと思う(マオ)

ーーこれだけバラエティに富んだ楽曲が揃うと、それを1枚のアルバムにまとめるのも大変な作業だと思います。今回はどのようにして曲順を決めたんでしょうか?

明希:並びは楽曲だけでは決められないし、歌詞の世界観もあると思うのでマオくんが中心になって曲順を作って、それを僕らが「これはこっちのほうがいいんじゃない?」とあとから提案していく流れでした。ただ、「承認欲求」と「君色の朝」だけはオープニングとエンディングというのが先に決まっていたと思います。

ーーその時点で『承認欲求』がアルバムタイトルになることは決定していたんですか?

明希:なんとなく決まっていました。

ーー『承認欲求』というタイトルは楽曲ありきだったんですか? それともアルバムタイトルも最初から想定していたんでしょうか?

マオ(Vo):先に曲のタイトルとして付けて、そのままアルバムのタイトルにも決めました。

シド 『承認欲求』Music Video

ーーなぜこのアルバムを象徴するタイトルに選んだんでしょう?

マオ:やっぱりインパクトですかね。完全にインパクト重視でした。

ーー「承認欲求」って非常に強い言葉ですよね。歌詞に関しても、現代を生きる人たち誰しもに引っかかるものがある内容だと思うんです。この歌詞はどういうところから生まれたんでしょう?

マオ:おっしゃるように、「承認欲求」はまさに今の時代を象徴する言葉だと思うし、誰しもが持っている悩みや葛藤にも通ずると思うので、そこを歌詞にしてみたいなというところから始まりました。歌詞自体は自由に受け取ってもらいたいんですけど、僕自身が伝えたかったことは……このアルバム自体を2019年という時代にしっかり刻みたいなという思いが強かったので、このタイトルにこの歌詞になったんだと思います。決して難しい言葉は使っていないですし、「愛して」と「苦しい」といった人間の二面性みたいなところをストレートに受け取ってもらえるんじゃないかな。

ーー特に最近はインターネットの世界を見ていると、まさにこの言葉に象徴されるような出来事が日常にはびこっていて、僕自身もこの歌詞を読んで共感するとともに耳が痛いなと思うところもあって。

マオ:なるほど(笑)。僕は時間の無駄がすごく嫌いなんですけど、SNSに依存する時間の無駄、というところにも最近疑問を感じていて。そういう考えもこの曲から伝わればなあ、と思います。

シンプルにすることで音作りが一層大切になった(Shinji)

ーー今作は“引き算ができるような音楽”がテーマということでサウンドについても聞きたいのですが、ギターに関してはいかがですか?

Shinji(Gt):今回は音数をずいぶんと減らしました。アレンジのときから歌と同じ位置に行かないようにという定位の感覚とか、そういうことも音数が少なくなるとすごく重要になってくるんです。だから、例えば自分が作曲した曲じゃなかったとしても、「このギター、いらなくない?」みたいにデモの段階で入っていたものを削ってみたりして。そうすることによって、一つひとつの音がちゃんと聴こえてくるようになりますしね。音数が多くて豪華なサウンドも素敵なんですけども、今回はシンプルにすることで音作りが一層大切になりましたし、すごく勉強になりました。

ーー特にロックバンドにおけるギターってリード楽器のひとつですし、前面に打ち出されることも多いですが、本作に関しては「必ずしもギターがメインでなくてもいいんじゃないか」という聴かせ方をしているアレンジも見受けられます。

Shinji:うん、そのとおりですね。あくまでその曲を一番よい状態で聴かせるかにこだわった結果です。ギターソロを作るにしても、僕の場合は2通りあって。ひとつはその曲の雰囲気にめちゃくちゃ合ったギターソロで、もうひとつは「こんな曲なのに、こんなギター弾くの?」みたいに真逆を行くパターン。そういう面白さについて常に考えていて、そのバランス感が今回特に際立っているのかなと思います。

ーードラムについてはどうでしょう?

ゆうや:神経質にいろいろ考えましたね。それこそシンプルにする上で、ミックスでポジションを整えるんじゃなくて録音の段階で居場所を確保するというか。必要な音圧に関しても頭から計算してやらないと、それが支配しすぎちゃう音になってしまいがちなので、そこは今回すごく考えました。

ーー生音だけじゃなくて、今作では「デアイ=キセキ」のように打ち込みドラムを用いた楽曲も含まれていますが、その音選びの基準は?

ゆうや:完全に楽曲優先というか。「デアイ=キセキ」に関しては、あえて生ドラムを入れないことは最初からこだわっていたことだったんです。

ーーこの曲の面白いところは、打ち込みのリズムなのに人の温もりが伝わってくるような、妙な生感が感じられるところなんです。それは音色によるものなんでしょうか?

ゆうや:実は生音をサンプリングしてちょっとだけ貼ったりしているので、その影響かもしれませんね。

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