SANABAGUN.、ライブで表現した作品の本質と実験性 『2013 - 2018』“Green Red”レポ

 8人組ヒップホップバンド、SANABAGUN.が、2013年の結成からいまに至るまでのヒストリーを、アルバム単位で再演するシリーズ『2013 - 2018』。その第二弾となる、無許可での路上ライブから別の段階に歩を進め、路上に別れを告げるために制作された『マイナー』(通称「緑盤」)と、ビクターとディールを結び、メジャーへと華々しく進出した『メジャー』(通称「赤盤」)の二枚をテーマにした“Green Red”が、7月30日、渋谷クアトロにて開催された。

 個人的な感触なのだが、「Green」と「Red」に関しては「迷走」という感触を感じていた。しかし、今回のライブである“Green Red”を観て、そこでの作品に表れていたのは、決して出口の見えない「迷走」などでは全くなく、その次の段階に進むための「過渡期」であったことを思い知らされ、改めて己の不明に恥じ入った。

 では、その過渡期感をなぜ感じたのかと言えば、帰納的な解釈になってしまうのだが、今回のライブシリーズにおいては大阪で開催された“ Danger Blue ”としてパッケージされた『デンジャー』と「青盤」との比較によるかも知れない。これは筆者の感触だが、『デンジャー』や「青盤」はグループの持つひねくれや実験性、そしてグループに対してのフラストレーションについて「開き直った」作品であったと思うし、その危ういバランスで成り立った作品群は、ある種の成長痛というか、青春の蹉跌のような感触を感じさせる。そしてそれに先行する「緑盤」と「赤盤」から逆算的に、またこのライブを通じて感じたのは、このシリーズの第一弾である“White Black”で再演された「白盤」や『Son Of A Gun』の頃の無邪気さでは無く、このグループで動ける喜びと共に、このグループをどう機能させ、どう広がりをもたせるか、といった、実験や展開性によって生まれる可能性の拡充への欲望である。

 その当時はまだ今と比べるとスキルとしては今よりも拙く、その実験性や可能性がフワフワとした形で見えてしまっていたが、そういった作品群がいまの形で表現されたときの驚きたるや! これは“White Black”のときにも感じたことだったのだが、これがその当時、本当にサナバが聴かせたかった音像であり、見せたかった光景なのだと、強い感動を覚えると共に、この二枚の作品の本質が、このライブを通して明らかになったと感じた。

 概論ばかりになってしまったので、ライブの本編に話を移すと、ステージ裏から「これがSANABAGUN.だ! 味わえ!」というメンバー間での掛け声が聞こえると、オーディエンスからは大きな歓声と拍手が上がる。そしてステージに上がったSANABAGUN.は、「緑盤」収録のハードな「HIS MASTERS VOICE」からライブをスタート。このライブの一昨日には初の『FUJI ROCK FESTIVAL』への出場を果たした勢いもあってか、タイトなステージングで観客を盛り上げるSANABAGUN.。メンバーの名前をリリックに織り込んだ「在日日本人」では、この楽曲の制作時にはバンドに参加していなかった大林亮三と大樋祐大の名前もリリックに封入し、「現在のSANABAGUN.」を強くアピールする。そしてメンバーのソロパートも光る「居酒屋JAZZ」と、ライブは矢継ぎ早に展開。大河のガラ声と入院経験を認めた悲壮なラップが涙なしには聴けない「胆管処刑」や、じっくりと音をひびかせる「カネー」など、ほぼノンストップでライブを展開し、そのライブ巧者ぶりをアピールする。

 MCでは「緑盤」「赤盤」時代を「いちばんギラギラしてた時期だった」と、ボーカルの高岩遼が語るとおり、MCの岩間俊樹に加え、ギターの隅垣元佐もマイクを握り、3MC体制で披露される「デパ地下」や、岩間と高岩が「しりとり」を題材にシアトリカルに掛け合っていく「はみがき」など、実験的なアプローチが多いのも、この時期の特徴だろう。そしてそれこそが、この作品群が過渡期感の正体であり、今後のSANABAGUN.の作品群が生まれるために必要だった経験だと感じさせられた。

 ライブのラストは、この当時のフィニッシュチューンとして機能していた、そして現在のライブでも披露される回数の少なくない「人間」。“White Black ”でも感じたことだが、非常にタイトな演奏、一発一発の音の鳴り、セッションとして噛み合ったときのグルーヴ感、2MCのバランスと、とにかくパフォーマンス能力の向上によって、どの曲も音源とは全く別物の感触があり、現在のSANABAGUN.の到達地点の高さをしっかりと感じさせる展開は、感動的ですらあるし、このイベントが行われる理由を思い知らされる。

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