Saucy Dog、先輩との真剣勝負で提示した“自分らしさ” SUPER BEAVERとの対バンを見て

 この日最後のMCで、「ステージに立って気づいたことがある」と切り出し、「みんなの表情を見たりしてると、改めて、一人ひとりに伝えるような歌を唄いたいなと思いました」と語った石原。石原曰く、サウシーが現編成になったばかりの頃、彼は前を向いて唄えなかったらしく、このバンドもビーバーと同じく、誰に向かって唄っているのか分からなくなってしまった時期があったようだ。そんなMCのあとに演奏された「グッバイ」は石原による歌い出しから迫力がすごく、圧倒されてしまった。剥き出しのバンドサウンドと観客によるシンガロングが会場を満たし、ライブ終了。

 例えば、声量のあるボーカリストがいること。彼の歌を中心としたサウンドを鳴らすバンドであること。「あなた」一人ひとりに向かって唄うという姿勢。その答えに至るまでに紆余曲折があったこと。振り返ってみれば共通点の多い2組であり、互いへの敬意が終始感じられるツーマンだった。

 一方、渋谷の歌の力とフロントマンとしての存在感でもってオーディエンスを引っ張っていくビーバーに対し、サウシーのライブには和やかで温かい空気であり、そういう両者の相違点が明確に表れたライブだったように思う。そしてそれは、彼らが対バン相手ではなく「あなた」に向かってライブをしていた証だ。先輩の直後にライブをやるサウシーは言ってしまえばやりづらかっただろうし、特にせとは「SUPER BEAVERはわたしのライブヒーローです」と語るほどのビーバーファンだが、ビーバーのやり方に寄せるようなことをせず、自分たちらしいライブをした彼らの健闘は特筆すべきものだ。

撮影:白石達也

 ツアータイトルに引っ掛けて、MCで石原が「僕ら自分たちではワンステップできたのか分からないですけど」と言っていたが、いや、非常に有意義なツアーになったのではないだろうか。良いツーマンだった。

(メイン写真=白石達也)

■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN’ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。

Saucy Dog オフィシャルサイト

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