小林幸子&中川翔子『風と一緒に』インタビュー
小林幸子&中川翔子が語る、『ポケモン』と「風といっしょに」が時代を越えて愛され続ける理由
言わずと知れた人気作品『ポケットモンスター(※以下:ポケモン)』。1996年2月にゲーム第一弾『赤』と『緑』が誕生し一大ブームを巻き起こすと、翌年1997年からTVアニメの放送がスタートした。そして1998年に公開された劇場アニメ第一弾『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』が、令和最初の年に『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』として、フル3DCGでリメイクされ公開となる。その主題歌も、オリジナル同様「風といっしょに」。
だが、小林幸子がソロで歌ったオリジナルとは異なり、リアルタイムで『ポケモン』とともに成長してきた中川翔子も参加し、ふたつの世代の歌声が絡み合う楽曲となっている。今回は互いを“しょこたん”“幸子さま”と呼びあいリスペクトし合うふたりに、「風といっしょに」はもちろん『ポケモン』自体の魅力まで、大いに語ってもらった。(須永兼次)
優しく響き合う歌声は、ふたりの関係性あってのもの
ーー『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』のオリジナルの公開から21年。あっという間ですね。
小林:そうですね、気がついたら。『ミュウツーの逆襲』を観て、私がうたった『風といっしょに』でいちばん最初に感動してくれたのが……もう、まさにこの人ですよね(笑)。
中川:あはは(照)。
小林:この映画に関しての、みんなの代弁者だと思います。
中川:ゲームボーイで『ポケットモンスター赤・緑』を買って、ポケモンのTVアニメが始まって、ポケモン映画を観に行った“ファースト世代”のひとりとして、やっぱり『ミュウツーの逆襲』や「風といっしょに」ってあまりにも別格で特別すぎる存在なんですよ。常に思い出や心の中にあり続けて。それ以降もゲームが出るたびにやり続けていたり、『ポケモン☆サンデー』(中川が出演していたポケモン情報バラエティ番組)からまたたくさんの子供たちとも出会えた私としては、『ポケモン』と思い出と、そしてこの映画とこの歌とずっと一緒に手をつないでいたような気がしているんです。
小林:私がしょこたんと随分前に初めて会ったときに、しょこたんなんて言ったと思う? 「……神曲です!」って言ったの。
中川:ごめんなさい!(笑)。失礼しました。たしか映画15周年のときの『ピカチュウ・ザ・ライブ2012』でしたよね?
小林:そうそう。最初はすごくびっくりしましたけど、「『風といっしょに』を聴いたときは自分がこういう状況だった」っていう話を詳しく聞いたら、本当にうれしくなりましたね。それが今や、『ポケモン』を代表する女性ですし。
中川:いやいや……でもそこからもさらに、日々『ポケモン』に出会う世代が増え続けていて、今ではどの国に行っても「『ポケモン』が好き」というふうになって。それで満を持して『ミュウツーの逆襲』が3Dになって帰ってくるというときに、あの「風といっしょに」をまた映画館で聴けるというのは、すごいことです。
小林:本当に、私自身もこんな状況になっていることを驚いています。でも今回、しょこたんと一緒に歌うと決まってから私はずーっと、彼女の歌声を母親のように抱きしめるようなつもりで歌おうと思っていました。
中川:でもこの曲って、私以外にもファースト世代だったり、この映画に出会った『ポケモン』が好きな人みんなにとってあまりにも特別だからこそ、「なんで中川翔子が入るんだよ」って思う方もたくさんいるはずだと思って。それに、幸子さまの楽曲としてずっと大事にされていたものに急に中川翔子が入るなんて、NOって言われてもおかしくないじゃないですか? それを「いいわよ」って言ってくださったのが、心が広すぎて……。
小林:どうして? 私、もう「喜んで」でしかなかったですよ。「あ、しょこたん一緒? いいねいいね!(拍手しながら)」って。たしかに私はこの歌では元祖かもしれないですけど、今や代表っていったらしょこたんだし。
中川:恐れ多い……とんでもないです。
小林:だからね、「最強タッグだね」っていう感じがします(笑)。
中川:以前に1回、“しょこたん♥さっちゃん(※読み:しょこたんだいすきさっちゃん)”として「無限∞ブランノワール」という曲を一緒に歌わせていただいていたんですが、それが、まさかこんな未来に繋がると思わなかったです。それがなかったら、たぶんもっといきなり感があったと思うんですよ。
ーーそういう関係性も、もしかしたら歌声に投影されている部分があるかもしれない。
中川:たぶん、このレコーディングが初対面だったらここまで仕上げるのは無理だったと思います。
小林:そうかもしれないね。何回も会ってるし。
中川:そのご縁があってからずっと幸子さまが季節の変わり目ごとに気にかけてくださってて。幸子米をくださったり、「運転免許おめでとう」ってメールくださったり……母性がすごいので、お会いするたびにすごく幸せなんです。
ーーそういった気持ちの面も含めて、歌声の面でいちばん相性がよくなるようなアプローチも、自然とできていった?
小林:そうですね。デュエットって不思議で、歌のうまさの他にも相性ってあって。反発すると、いい歌でもちょっと違って聴こえたりすることがあるんですよ。しょこたんは歌に定評があるからその心配はしていなかったんですけど、ふたりの声が交互に来て、いい感じに聴こえるのかな? っていうところは気になりましたね。やっぱり私は母親のつもりで歌ったので、それで成立させられていれば、と思うんですけど。
ーー曲としても歌としても、ふたつの世代がしっかり混ざり合ったものになっているように感じました。
中川:“つながって広がっていく未来”っていうのが、この2019年バージョンにはすごくあるのかもしれないですね。私としては、何の機材がなくても再生できちゃうぐらい幸子さま節が頭の中にあるからこそ、難しかったです。真似もできないし、真似になってもいけないから。だから、一周回って「考えすぎない」っていうところに行き着きました。考えすぎなくてもこの体と気持ちの中に、『ポケモン』と一緒に歩んできた時間とか、出会いが降り積もっていてくれるはず……って思わないと、保てなかったです(笑)。
小林:あははは(笑)。
中川:だって、レコーディングのときも本当にすごかったんですよ! 幸子さまがバッて現れて、たなかひろかずさん(「風といっしょに」以外にも「めざせポケモンマスター!」「ポケモンいえるかな?」などポケモン楽曲を数多く手がける作曲家)とかもいらしたので、そうそうたる伝説のポケモンたちの集いみたいな感じで。しかも幸子さまは、本番ほぼ一発で決めちゃうんです。だから「すごい!」って思ったし、そのままバッと飛び立ったから、伝説のポケモン・ルギアのようです。幸子さま。
小林:あはは(笑)。ルギアだって。
中川:だから、今作のプロデューサーの亀田誠治さんが「もう録れてるから大丈夫だよ」って言ってくださっても、「もう1回歌っていいですか?」みたいになかなかブースから出る勇気がなくて。どれが正解なのかのジャッジを、たなか先生と亀田さんにしてもらったという感じですね。結果的に、たぶん考えすぎてないことになっていると思うんですけど……。でも亀田さんも、「当時、息子を連れて映画館に行ってたのを思い出したよ」とおっしゃっていましたよね。
小林:「抱っこして連れてったんだよね」って言ってたねぇ。この間ふたりで新潟で一緒にイベントをやったときも、「21年前、観た人?」ってお客さんに聞いたらばーって手が挙がって、歌い出したらいきなり男性がぐわぁー! って泣き出すんですよね。で、別のところにいた女性は、赤ちゃん抱いて一緒に歌ってたり。
中川:ね。歌詞を見ないで歌ってましたよね。すごい景色でした。
小林:そこで時代を超えてこの歌が愛されているのを感じて、本当に歌い手として、この歌を歌ってよかったなと思って。それで今度は今のちびっこたちにとってはこのふたりで歌ったものが初めてになるわけだから、今回の『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』と一緒にこの曲で、ひとつの思い出を作っていってもらえたらいいですよね。