兵庫慎司の「ロックの余談Z」 第24回

マキシマム ザ ホルモン、なぜ2号店を開店? デビューライブを観て感じたこと

 しかし、だからこそ、ここに集まった腹ペコたちは、目の前にいる2号店を「自分自身」として観ることができたのだ。要は、タクマは俺なのだ。彼がいなかったら、「赤飯、もともとプロのボーカルじゃん」とか「わかざえもんめちゃめちゃうまいじゃん、俺あんなふうに弾けないもん」とかいう気持ちが入ってしまったかもしれない。バンドがよくライブで「ステージの上も下もない」とか「みんなもメンバーなんだ」とか言うじゃないですか。気持ちはわかるけど、でもなあ……と思うことが少なくないが、ことこの日に限ってはまさにそうだった。会場全体がマキシマム ザ ホルモン2号店のメンバーだったのだ。

 途中の審査で落ちた人たちが客席で大盛り上がりしている姿が「悔しいだろうに健気だなあ」みたいな、せつない感じに見えなかったのも、そのせいだと思う。彼らもステージの上にいるのと同じように、僕には映った。くり返しになるが、それは彼らだけでなく、この場にいてこのストーリーを共有している全員がそう見えたのだ。

 タクマがあたりまえにギターを弾いて歌うことができたのも、そんな空気のおかげもあったのではないかと感じた。最終的に選ばれたひとり、というよりも、この場にいるひとりとしてギターを弾いて歌ったからだと思う。

 きみたちも2号店なんだ。きみたちもホルモンなんだ。ということを、腹ペコたちが本当の意味で理解できるように、亮君はこの企画を行ったのかもしれない。嘘です。そのためだけにここまで手の込んだことは、やらないと思います。ただ、基本、常にそれが信念にある人なので、何をやっても結局そこを含んだ表現になるんだなあ、とは思う。

 最後にもうひとつ。この「2号店」企画、エンタテインメントビジネスというもののあり方に対する問題提起や提案、という側面もあるように感じる。しかもけっこうマジに。たとえば僕は、この企画を追いながら、こんなことを連想しました。これも箇条書き。

・CD売れない、稼ぐのはライブで、っていうのはもう聞き飽きたけど、ライブの本数って限度があるじゃないですか、身体がひとつしかないから……あれ? じゃあふたつあったらどうなる?

・たとえば新日本プロレス、一回の興行になるべくいっぱい人気選手を出すために、6人タッグや10人タッグの試合が増えてるけど、いっそ2チームに分けて巡業すればよくない?……あ! それWWEがやってるわ。SmackDownとRAW。あと、調べてみたら新日もそのような構想がある、という発言を、菅林直樹会長がしていることがわかった。(参考:新日本プロレスNYで大盛況 “逆輸入パターン”戦略とその課題とは?)そうか。なるほど。というか、やはり。

・違うメンバーで同じバンド名を名乗るのって、歌舞伎や古典落語で「×代目」として襲名していくのにちょっと近い感じがする。エンタメ業界では昔からある、ということは、ある部分では理にかなったシステムなのかもしれない。

・昔、BO GUMBOSがデビューしたばかりの頃のインタビューで、どんと(久富隆司)が「BO GUMBOS生涯一バンド。メンバーが死んでも『二代目どんと』とかがいるみたいにしたい」という話をしていた。ということを思い出しました。

 今すぐ具体的に何かするわけじゃないが、そんなように、いろいろ発想が広がっていくのでした。というふうに、固定概念に揺さぶりをかける、常識を壊したり刷新したりしていく、というのも、ホルモンが一貫してやり続けていることですね。

(写真=浜野カズシ)

■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「DI:GA ONLINE」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「KAMINOGE」などに寄稿中。

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