Yo-Seaから紐解く、CHICO CARLITOら沖縄出身ラッパーに共通する“メロディアス”なフロウ

沖縄の土地と人に染み付いた音楽の感覚

 話を戻そう。Yo-Seaは自分のルーツは海にあると前述のインタビューで話していた。彼はクラブやライブハウスではなく、海で一人で歌っていたというのだ。つまりこれまで書いてきたカルチャー面の話は、あくまで彼を構成する小さな要素でしかなく、本質はおそらく沖縄という海に囲まれた島の空気感にあるように思える。

 沖縄といえばもともと赤土クルーのRITTOが有名で、近年は『フリースタイルダンジョン』で注目されたCHICO CARLITO、そしてその盟友である唾奇も大きな注目を集めるようになった。彼らはUSのトレンドとは別のところでフックに歌を取り入れることが多い。さらにYo-Seaと同じクルー・Southcatに所属する3Houseも2018年6月に公開したMV「Purple Rain」でデビュー。彼らの歌の感覚も、沖縄という土地に起因しているように思える。ここからは想像の域になってしまうのだが、沖縄ではいたるところで民謡が聞けるという。結婚式やお葬式はもちろん、町の居酒屋、親戚の集まり、子守唄にいたるまで、本土では想像がつかないほど土地と人に音楽が染み付いているそうだ。この感覚と沖縄の多種多様な訛り、さらに彼らにビートを提供するプロデューサーたちが持つ沖縄のイメージとが合わさった時、あのメロディアスな感覚が生まれたのではないだろうか。

3House - Purple Rain【Official Video】

本土の人間がまだまだ理解してない悲しみ

 みなさんは6月23日が何の日かご存知だろうか。沖縄全戦没者慰霊祭が行われる日で、沖縄では「慰霊の日」として学校などは休みになる。恥ずかしながら、私はこのことをCHICO CARLITOのライブのMCで知った。沖縄には本土の人間がまだまだ理解してない悲しみがある。だが私は同時に美しいメロディは悲しさややりきれなさから生まれると考えている。それがメロウであると。ハッピーな音楽だと考えてられているレゲエは、ジャマイカの血なまぐさいゲトーから生まれたのと同じ理屈だ。

 Yo-Seaは静岡出身だが物心ついた時にはもう沖縄に移住していた。彼は海を見ながら何を思っていたのだろうか。目に映る海は何色だったのだろうか。空には米軍の飛行機は飛んでいたのだろうか。映画『アート・オブ・ラップ』でモス・デフは「音楽は土地に影響される」という旨の話していた。だから同じアメリカのヒップホップでも、ニューヨークとロサンゼルスなどではまったく違うサウンドになるんだ、と。沖縄からメロディアスなヒップホップ/R&Bのアーティストたちが生まれた根本的な理由には、そうした土地のメロウネスが関係していると思った。

■宮崎敬太
音楽ライター1977年神奈川県生まれ。「音楽ナタリー」「BARKS」「MySpace Japan」といったインターネットサイトで編集と執筆を担当。2013年に巻紗葉名義でインタビュー集『街のものがたり 新世代ラッパーたちの証言 (ele-king books) 』を発表した。2015年12月よりフリーランスに。柴犬を愛している。

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