長澤知之が明かす、曲作りに向き合い続ける理由と意味 「ほんの少しでも“善いこと”をする感覚」

長澤知之が明かす、曲作りの根底にある思い

 長澤知之が、3月20日にソロとして約2年ぶりとなるオリジナルアコースティックミニアルバム『ソウルセラー』を発売した。「Close to me」「金木犀」など4カ月連続で配信リリースした4曲と、新曲4曲の全8曲を収録。秋にはバンドサウンドのミニアルバムのリリースも控えている。

 今回のインタビューではバンド・ALでの活動を経て制作された『ソウルセラー』収録曲についてから、10年以上に渡り弾き語りをベースにした活動と制作を続けられる理由、曲作りに対する姿勢までをじっくりと聞いた。聞き手は宇野維正氏。(編集部)

「まず自分のことを楽しませて、その向こうに聴いてくれる人がいる」

ーー今回の作品『ソウルセラー』は、アコースティックミニアルバムと銘打たれてます。

長澤知之(以下、長澤):自分がリラックスした状態で作れるのがミニアルバムなんですよ。アコースティック中心に一つ作品を作って、ツアーをやって、ちょっと休んで、次はバンド中心にもうひとつ作品を作って、またツアーをやってっていう、そういうサイクルで今年はやっていこうかなって。

ーーでも、全8曲っていうと、個人的な体感としてはもうアルバムなんですけどね(笑)。そこでアコースティックとバンドサウンドで作品を分けようと思ったのは、どうしてですか?

長澤:これまでソロとしても、アコースティック寄りの作品を作った後はその反動でバンドの作品を作りたくなってきたし、バンドサウンドの作品を作った後はその反動でアコースティックな作品を作りたくなってきたんですよ。さらに、去年はわりとしっかりバンドをやってたじゃないですか。

ーーALですね。

長澤:はい。だから、今回こういう作品になったのは必然なんですよね。で、これまでのそういう傾向を先取りして、この段階で次はバンドの作品を作るというところまでプランニングしたということです。

ーーということは、しばらくALとしては動かない?

長澤:そうですね。(小山田)壮平も一人で作品を作って、ツアーをやったりしてるから。今のところ次のタイミングはまだ決まってないです。とりあえず今年は好き勝手みんなやろうって。

ーーなるほど。いや、それにしても今回の『ソウルセラー』は1曲目の「あああ」の最初の奇声から、頭のおかしさが全開で最高ですね。最初家で聴いていて、変な奴が家の前を通ったのかと思いましたよ(笑)。

長澤:まあ、そういう変な奴の気持ちも少しはわかるから(笑)。ああいう瞬間は自分にもあるし、人間らしいかなって。人間らしい自分の一部分を曲にしてみた感じですね。

ーーALがひと段落してここでまた本格的にソロへのギアが入ったこと、そして初っ端一発目のこの曲と、ちょっと今回はいつになく心機一転感がありますよね。

長澤:そうですね。前の作品からちょっと時期も空いたし、ちゃんと充電しきった感があります。今回の作品は8曲とも全部新しく書いた曲だし。

ーー気がつけば、長澤くんってデビューからもう13年目に入っているんですよね。

長澤:初めて宇野さんとお会いした時は、20とか、21とかでしたからね(笑)。

ーー今回の『ソウルセラー』を聴いて改めて驚かされるのは、デビュー以来才能がまったく枯渇してないというか、相変わらずいい曲が書けまくっていて、それをちゃんとフレッシュに演奏して歌っている。なかなかいないですよ、そういう人って。

長澤:ありがとうございます(笑)。

ーーもちろん作品ごとに進化はしてきたわけですけど、弾き語りをベースにしたスタイルということも含め、基本的にはデビューの頃からやってることは大きく変わってないじゃないですか。

長澤:そうですね。

ーーそれでこうして毎回作品をリリースする度に瑞々しいっていう。普通、このくらいのキャリアになると、毎回、手を替え品を替えっていろいろやったりして、それをクリエイティブの刺激にしたりするものだけど、そういうわけでもない。

長澤:音楽的にあれもやってみようこれもやってみようって気持ちには、あまりならないんですよね。曲を書いて、それを歌って、それを作品にする時にちょっと新しい要素を入れてみる。基本的にはそれだけで。音楽的に大きな転換をしたいとか、そういうことは一度も考えずにのんびりやっているだけなんですけどね。

ーーそれでクリエイティビティも活動もキープできてるんだから大したものですよ。

長澤:まあ、多作ではないですからね。ライブもそんなにたくさんやってるわけでもないし。毎回ちゃんと作品と作品の間には考える時間やボーッとする時間があって、それも大きいんじゃないですかね。あと、きっと世間の期待だとか、周囲のスタッフの期待だとか、そういう誰かの期待に向けてものを作ってるわけじゃないから。そういう期待に応えようとすると疲れちゃうんでしょうね。まあ、誰かに向けて書いていないわけじゃないんですけど、まず自分のことを楽しませて、その向こうに聴いてくれる人がいる感じだから。

ーーこの『ソウルセラー』っていう作品のタイトルは、長澤くんの造語だとは思うんですけど、表面的に意味を汲み取るなら「魂を売った人」ってことですよね? でも、この表題曲ではまったく逆のことを歌ってる。

長澤:ちょっと遊んでみた感じです(笑)。

ーーこの「ソウルセラー」って曲は、あまりこれまでの長澤くんにはなかった、不特定多数のリスナーに向けて歌った力強い意思表明のような曲になってますよね。特にコーラス部分の〈プライド 僕は誇りを持って歩く〉のところとか、ちょっと長渕剛っぽいっていうか。

長澤:男っぽい感じですよね(苦笑)。もしかしたら、自分にもそういうところがあったりするのかなって。

ーー同じ九州男児だし(苦笑)。

長澤:いや、でも、長渕さんの作品、実はあんまり聴いたことはないんですよ。井上陽水さんとか吉田拓郎さんとかかぐや姫とかは、父親が聴いてたので子供の頃に耳にする機会があったんですけど。

ーーそうなんだ。いや、これまで長澤くんっていうと、The Beatlesからの影響について語り合うことが多かったけど、そういえばあんまり日本のフォークの話とかしたことなかったから。前に歌にも出てきましたけど、長澤くんも照和(福岡の老舗ライブ喫茶)で歌ってきたりしてたわけだし、そこから綿々と引き継いできたルーツみたいなものもあるんだろうなって。

長澤:オリジナルフォークの人たちからの影響というのは、直接的にはあまりないんですよ。その影響を受けた人たちから、間接的に影響されてきたような部分はあるかもしれないけれど。その時代の人では、陽水さんはちゃんと聴いてますね。好きですよ、すごく。

ーーでも、改めて考えてみたら、単純に表現のスタイルとして、そういう60年代、70年代のフォークシンガーのような形態で活動をしている人って、日本にはそんなにいないですよね。海外だと、それこそエド・シーランとかいるけれど。

長澤:そうなのかなあ。

ーーもちろん男性のシンガーソングライターはたくさんいるけれど、弾き語りがベースの人って、特に若い人ではあまりいないんじゃないかな。ソロでも、バンドでも、歌とメロディだけで勝負というよりも、サウンドでもオリジナリティを志向している人が多い。最近だと、折坂悠太とかもそうですけど。

長澤:ああ、オーリー(折坂悠太)はすごいですよね。もちろん彼も好きなことをやってるわけだけど、ちゃんと今の時代に何をやればシンガーソングライターとして新境地と言えるものになるのかを考えてる。もちろん、星野源さんとか米津玄師さんとかもそうですけど。そういう意味では、僕はそこまで考えてない。

ーー今名前の挙がったような人たちは、きっとかなりリスナー体質の人たちですからね。同時代の音楽からのインプットもめちゃくちゃ多いだろうし。

長澤:インプットが多いってことは、同時代の音楽から影響を受けているってことですか?

ーーそれもあるだろうし、同時に、今どのような音楽が流行っているかを知ることは、その中で自分のオリジナルを探すことでもあるから。逆に、何かの真似にならないためにも知っておくみたいなところもあるんじゃないかな。でも、長澤くんはそのあたり良くも悪くも無頓着ですよね。

長澤:はい。きっと、そういうことができる人は、自然とそれができる人なんだろうし、自分にとって自然なのはそれとは違うことだから。きっと自分がそういうことをやろうとしたら、不自然なものになっちゃうんじゃないかな。

ーーそう思います。でも、今回の作品でいうと「金木犀」は、歌とメロディだけじゃなく、かなりサウンドの志向性が強い曲ですよね。

長澤:最近、GarageBandを使って打ち込みができるようになったんですよね。それで、遊びながら打ち込みで作った曲が原型になっていて。それをかたちにする上で、Chihei Hatakeyamaさんに協力してもらって。この歌は、自分の印象に残っている風景、そしてその風景を見た時に触れた自分の感情の琴線みたいな、言葉にできないものを絵を描くように音像化したいと思って作った曲で。だから、こういうこれまでにないアプローチをしてみました。高松市美術館でたまたま見た、木村忠太さんって人の絵からの影響なんですけど。その方は「光の画家」って言われていて、自分も自分が好きな風景の、光を曲にしたいと思ったんです。

ーー長澤くんの好きな風景っていうのは、どういうものなの?

長澤:路地裏とか、団地とか、なんてことのない風景。そういう風景に、そこに生きている人間のドラマだったり、ノスタルジーのようなものを感じて、キュンとすることがあるんですよね。そういうキュンとした瞬間の光を、木村忠太はそのまま抽象的に絵に描いてきた人なんですけど、そういうやり方で自分も曲にできたらなって。

ーーなるほど。そういう意味では、音楽的な方法論だけじゃなくて、作曲の方法論としても新しい引き出しが開いた感じですね。

長澤:そうですね。だから、自分の場合は、どういうサウンドにしたいのかっていうのは後からくることで、まず自分はどういう曲を書きたくて、それに相応しいサウンドはどういうものなのかってことを考えていく感じなんですよね。

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