『Nagasawa Tomoyuki Acoustic Live 2018』東京・南青山MANDALA公演レポート
長澤知之、歌とギターで届けた“音楽家”としての妥協なき姿勢 アコースティックライブ東京編を見て
この1年あまり、バンド編成でのソロライブ、ALとしてのワンマンとツアー、そして弾き語りのアコースティックライブと、長澤知之の複数のライブに足を運んだ。それら一連のライブを通してあらためて実感したのは、ソングライティング、アレンジ、歌、ギター……音楽家として、長澤知之はあらゆる面で傑出した存在であるということだ。
5月31日、東京・南青山MANDALAにて開催された『Nagasawa Tomoyuki Acoustic Live 2018』。東名阪で行われたこのツアーは、スペシャルゲストとしてギタリスト松江潤を迎え、長澤とふたりのギターで楽曲を披露するというもの。会場に選ばれたのはどこも小規模な場所で着席式、観客と近い距離感でライブが行われた。
ライブは、「左巻きのゼンマイ」からスタート。歌とギターという最小限の編成のなかで伝わってくるのは、長澤の声が持つ不思議な力だった。1曲のなかでも、柔らかさと刺々しさを持つ歌声を使い分け、時に緊張感を、時に緩和をもたらし、会場全体の空気を司っていく。「そのキスひとつで」では、しゃがれたような声でギターを激しくストローク。アコースティックライブというと、全編どこかあたたかな空気感の流れるライブを想像するが、長澤知之は違う。歌と2本のギターだけで、多様で奥行きのある表現に妥協なく挑戦していく。
長澤と松江がギターを爪弾きながら始まったのは、「はぐれ雲けもの道ひとり旅」。<人生は駆け抜けるものではない><人生は振り返るものではない>……と“人生”について考えをめぐらせながらも、<ひとり旅のように風任せ>と、結論付けないところが長澤らしい。軽やかな歌声が、まさに風のように響いた。そこから、「バニラ」につなぐ流れは、前半のハイライトといえよう。松江の浮遊するようなギターの音色と、ささやくように歌う長澤の歌が、会場を幻想的な雰囲気に変えていく。どんな声で歌おうとも、ひとつひとつの歌詞をクリアに届かせる、長澤の言葉を大切にする思いも垣間見えた。
未発表曲「笑う」の前のMCで、長澤は、ライブでの観客との関係について、「お互いいろいろ抱えながら生きているけど、ライブをする時には、“やあ元気?”“元気だよ”という気持ちになる」と話した。その言葉どおり、この日のライブでは、長澤の家に招かれて、リラックスしてその音楽に耳を傾けているような感覚になった。松江との息のあったやりとりも、その感覚を助長させたのだろう。そして、長澤の楽曲は、こういった近しい距離でのライブにもよく映え、音楽を通した純度の高いコミュニケーションが感じられた。
「カスミソウ」、「長い長い五時の公園」など、エバーグリーンな魅力を放つ楽曲を挟み、披露されたのは「P.S.S.O.S.」。まどろむようなギターの音が広がるなか、耳に強く響くようなシャウトから美しいファルセット、伸びやかな歌声と、幅広い歌声で、曲の世界を無限に拡張していく。長澤知之の作る曲は、すべて孤独な精神が出発点となっているように感じる。しかし、「無題」「幸せへの片思い」といった曲では、それでも凛と生きていこうとする人々の姿が想像される。本編最後の「茜ヶ空」では、長澤は立ち上がってオーディエンスへマイクを向けてともに歌った。