「音楽のプロフェッショナルに聞く」特別編

姫乃たまが南波一海に語る、“地下アイドル人生”と卒業後の活動「試行錯誤しながら成長していく」

音楽面で支えたSTX、レーベル担当者との出会い

ーーこういう機会なので聞いておきたいのですが、姫乃さんを音楽面で初期から支えているSTXことSpace Thunder Xさんとはどういう経緯で出会ったのでしょうか。

姫乃:知人の紹介です。高校生のときに、青山蜂でよく遊んでたんです。

ーー通っていた高校が近かったのもあって。

姫乃:そう。DJパーティーによく遊びに行っていたんですけど、そこのDJとVJの人たちに誘われて新宿のロフトプラスワンで初めて地下アイドルのライブを見て。その時に誘われたのがきっかけで、地下アイドルのライブに出るようになったんです。彼らが作曲してくれる人を探してくれて、紹介されたのがSTXさんでした。

ーー初期も初期の話なんですね。

姫乃:2010年には会っていたので、ほぼ10年近く一緒にやってますね。

ーーオリジナル曲を最初にもらったのはSTXさんからなんですか?

姫乃:いや、初めて地下アイドルを見に行った日にいたDJの人がミュージシャンでもあったので、彼の作曲した曲が最初です。それ以降はSTXさんがずっと面倒を見てくれています。入れ替わり立ち代わりでいろんな作曲家さんが参加してくれているんですけど、最初から今日まで付き合ってくれているのはSTXさんだけですね。こういう曲を歌ったらこの先こういう展開で活動していけますよとか、先を見据えて仕事してくれたのはSTXさんだけでした。私自身も長く続けるなんて思ってもみなかったので、当時は全然ピンと来てなくて、そんなこと言われてもいつ辞めちゃうかわからないし……っていう感じだったのが、10年経ってやっと意味がわかってきました。

ーーあの時はこういう戦略を立ててくれていたんだ、とあとになって気づいた。

姫乃:そうです。STXさんごめん……。最初はヲタ芸で会場がいかに盛り上がるか、みたいなことしか考えてなかったんですけど、STXさんが作ってくれた「ねえ、王子」という曲はヲタ芸ができないのにアンセムソングになって。ファンの方がお祭り状態で盛り上がるんじゃなくて、歌詞の内容に癒やされるっていうのを初めて見たんです。ああ、これはいいなと思いました。それが後々、町あかりさんと“バブみ”をテーマにアルバム制作するのに繋がっていきます。

ーー僕とジョルジュのリリース以降、姫乃さんが広く認知されていくことになるわけですが、レーベル担当者のディスクユニオンの金野さんとの出会いも大きいと思います。どういう経緯で知り合ったんですか?

姫乃:あー、にゃはは。マーライオンっていう同い年の男の子がいて、彼がディスクユニオンからアルバムを3枚連続でリリースしてたんですよ。その後、同じレーベルからぱいぱいでか美ちゃんもCD(『レッツドリーム小学校』)を出すことになったんです。私、普段嫉妬とかしないようにしているんですけど、それが本当に羨ましい作家陣で。あの時ばかりは「うわあああ!」ってなりました。

ーー錚々たる顔ぶれでしたよね。

姫乃:藤井洋平さんでしょう。川本真琴さんでしょう。テニスコーツの植野隆司さん、スカートの澤部(渡)さん。し、か、も、コーラスで劇団ゴキブリコンビナートのほりぼう(堀内暁子)さんが!!!!! うわあああ! で、マーライオンくんとぱいぱいでか美ちゃんが渋谷のHMVでインストアイベントをやるときに、2人の共通の友人だった私を呼んでくれて、3人で出ることになったんです。その時にレジカウンターでゴネてるお客さんがいて、インストアイベントって観覧無料だからやっぱり変な人いるなあと思いながら楽屋で談笑してたら、その人が楽屋に入ってきて。

ーーやばい客が入ってきたぞと。

姫乃:そしたら「ディスクユニオンの金野さんです」って紹介されて。どうしてゴネてたかっていうと、ぱいぱいでか美ちゃんがリリースした際にタワーレコードのポスターを作ったんですけど、それをHMVの店内に貼ろうとして、店員さんに「さすがにそれは……」って言われていたんです(笑)。

ーー変わった人だったわけですね。

姫乃:イベント中も全然話さなくて、打ち上げに誘われて驚いたんですけど、「この店のおいしいものは全部頼んでおいたので帰ります」って言ってすぐ帰っちゃってまたびっくりして。変わった人だなあと思っていたら、待てど暮せど食べ物が届かないから、伝票を見てみたらオリーブオイルとパンとワインしか頼んでなかったという。最後の晩餐かよ! だからまったく会話はしなかったんですけど、その一週間後くらいに突然「CD出しましょう」っていうメールが来たんですよ。それが金野さんと私の出会いです。

ーーそして僕とジョルジュに繋がっていくと。でか美さんのアルバムを羨ましいと思ったということは、自分もこういう人選で作ってみたいというビジョンはあったんですか?

姫乃:いや、それがなかったんですよ。羨ましかったですけど、姫乃たまにこういう仕事させたいって気持ちが私の中にないので。最初はスカートをバックバンドにソロアルバムを出しましょうっていうオファーだったんですけど、それまでずっとSTXさんとやってきたので、仁義的にそこをすっとばしていきなり全国流通はちょっとなしだなと思って。ちょうどスカートもカクバリズムに所属するくらいの時期で、忙しくなっていたので、双方難しいということでバラシになって、ソロが難しいならユニットにしましょうということで金野さんに集められたのが佐藤優介さんと金子麻友美さんだったんです。結局澤部さんも楽曲提供で参加してくれたり、ガセネタの山崎春美さんがデュエットしてくれたり。あとはシマダボーイくんがレコーディングに参加してくれて、最高でした。

ーー『僕とジョルジュ』を出したあとに、満を持して濃密なソロアルバム『First Order』を出すことになっていくわけですが、この時期はリリースペースがすさまじいですよね。

姫乃:隔月で出してるんじゃないか、くらいの。ソロアルバムはSTXさんを中心に、藤井洋平さんにも参加してもらいました。金野さんとは相性が良かったんですよ。私はやりたいことがなくて、金野さんは音源でやりたいことがたくさんあったから。レコードもカセットも出させてもらったし。2016年からは西島大介さんとのユニット「ひめとまほう」のリリースもあったので、年間を通じてずっとインストアイベントをやっている感じでした。

ーー姫乃さんを素材として一緒になにかを作るのは楽しそうですもん。

姫乃:なにも嫌がらないですからね(笑)。なにもNG出したことなかったんじゃないかなあ。

関連記事