秋山黄色は公演中にさえ“進化”するーーユアネスと眩暈SIREN迎えたスリーマンライブレポ

秋山黄色、ユアネスと眩暈SIREN迎えた3マン

 「普段あんまり曲の説明しないんですけど」と前置きし、「幸せになるのに不幸なことを見て見ぬ振りできない。そういう曲です」と紹介して演奏したのは「クラッカー・シャドー」。MCで自身のことを「陰」と語っていた彼を表した曲と言えるだろう。このあたりから、独特の波乗りのようなギタープレイを繰り返していることに気づく。力みがない、音に身体を乗せるような演奏で、本人も時折心地よい表情をうかべる。MCでは「ボクシングやテニスには毎回勝ち負けがあるけど、音楽は好きなことを、好きなように、毎回同じようにしていたら、周りだけ変わっていくという最高の趣味だと思う」と語った。彼はきっと音楽的勘が抜群に良い。そして音楽を心底愛し、自分が心地良いと感じる音を好きなように奏でているのだろう。

 続いて「人間は究極一人だけど、それでも(他人に)近づきたいという気持ちを書いた」という「ドロシー」へ。〈悲しみを分かち合いたい 分かち合いたいのは 僕一人の我儘だろうか〉と歌うその姿は祈りを捧げているようだった。

 「後2曲なんですけど、今まで体験した事ないくらいの数分間にするので、最後までよろしくお願いします」と宣言し「とうこうのはて」へ。ダウンピッキングのベースに誘われるように、ここにきて階段をひとつ上った感覚がした。演奏も歌も冴え渡り、プレイも激しさを増す。客席にも手拍子が広がる。ラストの「猿上がりシティーポップ」はいわゆるフェス向きの曲であり、会場全体が完全に音にのめり込んでいた。最初にステージに出てきた時とは、音も佇まいも違う。ライブの最中にさえ進化する。今の彼の成長スピードは計り知れない。

 終演後、アンコールを求める声はやまず、再びステージに登場したが、「体力が残っていません(笑)。いつかアンコールをやる日が来るかもしれないので、それまでにたくさん会いに来てください」という異例の対応を見せ、会場を和ませていた。末恐ろしいほどのセンスに脱帽する一方で、ステージにティッシュとゴミ箱を設置したり、ライブ中に「一瞬休憩してからやるんで」と押し黙ったりと、彼の家に招かれたかのような親近感も抱くライブだった。このギャップは大きな魅力の一つであり、今後多くの人に愛されていくことを確信せざるを得なかった。彼はきっと今この瞬間も進化し、ファンを増やしていることだろう。

(取材・文=深海アオミ/写真=鈴木友莉・@pbys_1986)

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる