“フェスシーンの多様化”の土台にあるもの 常連バンドの躍進が生みだす新たなサイクル

“フェスシーンの多様化”の土台にあるもの

 例えば上記9組のバンドだけでも、その個性や音楽的な強み、曲の傾向は大きく異なる。「オドループ」で一斉を風靡したフレデリックは、単なるダンスロックに舵を切るのではなく、80年代のインディーロックを取り込んだ音を鳴らし続けることで、サイケデリックな要素も持ち合わせたサウンドを打ち出している。ゲスの極み乙女。は元々2010年代前半から「フェスシーンの均一化」に苦言を呈しており、ラップ、ジャズ、プログレなど、他のバンドにはない要素を取り込んでいたが、現在もさらにその方向性を突き進めている。もはや「バンド」や「ロック」という枠組みでは表現できないサウンドをフェスのステージでも披露しているのだ。THE ORAL CIGARETTESもベースにあるのは2000年代のギターロックだったが、彼らはそこから、サウンドの部分でも佇まいの部分でもV系ロック的要素をミックスしている。これにより、他のバンドにはない妖艶さ、ダークさでオーディエンスを虜にしている。他にも、BLUE ENCOUNTはエモというジャンルを独自解釈したサウンドを打ち出しているし、04 Limited Sazabysはパンクやメロコアというジャンルをベースにしながらも、ポップス寄りの感性を取り込むことで、よりキャッチーな音を奏でている。少なくとも、安易に「高速ダンスロックバンド」と括れるバンドは、もうそこにはいない。

 2010年代前半に台頭したバンドがシーンを引っ張るからこそ、新しい感性を持つ若いリスナーが次々とやって来て、フェスシーンの空気を変えている。そして、そういうサイクルがあるからこそ、新たな感性を持つバンドもどんどんブッキングされる。そういう流れが、今のフェスシーンには明確にある。そして、その流れの土台を作っているのは、2010年代前半からシーンを支えてきたバンドたちだ。彼らの躍進があるからこそ、今のフェスシーンは多様化しているということを、ここでは指摘しておきたい。

■ロッキン・ライフの中の人
大阪生まれ大阪育ち。ペンネームにあるのは自身が運営するブログ名から。人情派音楽アカウントと標榜しながら、音楽メディアやTwitterなどで音楽テキストを載せてます。

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