ステージ上のフレディは、楽しい暴君だった 『ボヘミアン・ラプソディ』描くクイーンの核心
ただ、彼らは時々やりすぎた。他国の人とつながろうと南アフリカへも行ったが、人種隔離政策で非難されていた同国で公演したクイーンはバッシングされた。典型的な悪ふざけだった「I Want To Break Free ブレイク・フリー(自由への旅立ち)」の女装ビデオは、アメリカで放送禁止になった。これらの逆風が吹き、メンバー間がギクシャクしていた頃、バンドが蘇る契機となったのが『ライブ・エイド』である。ウェンブリー・スタジアムの大合唱と手拍子に彩られた名演だったが、特に圧巻だったのはフレディと観客のコール&レスポンス。「We Will Rock You」のズン・ズン・チャのリズムすらなくフレディの声だけで「エーオ」と歌えば、膨大な人々が「エーオ」と応じる。単純なやりとりが続くだけなのに妙に盛り上がる。しかもそれが衛星放送で世界に生中継されていたのだ。クイーンの歴史のなかでも最高に笑える瞬間だったと思う。
ステージ上のフレディは、楽しい暴君だった。バンドだけでなく、大勢の観客と一体にならなければ孤独を忘れられない。彼にとって孤独は、音楽にむかう原動力だった。だから、『ライブ・エイド』の映像を観ると楽しいのに、彼の孤独も感じて泣けてくる。『ボヘミアン・ラプソディ』は、そうした孤独をとらえた映画だった。
■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『エンタメ小説進化論』(講談社)、『ディズニーの隣の風景』(原書房)、『ソーシャル化する音楽』(青土社)など。