大野雄二が語る、ジャズに対する飽くなき探求心 「色んな面白さが無限に詰まってる」

 大野雄二トリオ、Yuji Ohno & Lupintic Sixのホストを務める大野雄二が、前作『ジャズノート&DVD』から2冊目となる自伝的エッセイ『大野雄二のジャズ放浪記 JAZZ SQUALL』を刊行した。

 同著には、生い立ちからミュージシャン/作編曲家としてのキャリア、さらに大野自身の音楽論が余すところなく収められているほか、本人セレクトによる名盤解説、Yuji Ohno & Lupintic Sixのメンバー座談会も収録。ジャズやCMといった音楽分野の第一線で活躍してきた大野雄二の逸話から交友録、実践的なエピソードに至るまで充実した内容となっている。

 今回のインタビューでは、『大野雄二のジャズ放浪記 JAZZ SQUALL』の制作過程をはじめ、大野雄二の音楽に対する探究心やプロミュージシャンとしての心構え、2017年で生誕100周年を迎えたジャズの未来についてたっぷりと語ってもらった。(編集部)

「ジャズでは少し外れたって、良いアウトはセーフ」

大野雄二『大野雄二のジャズ放浪記 JAZZ SQUALL』

ーー本書は大野さんにとって、2004年に出版された『ルパン三世 ジャズノート&DVD』以来の著書となります。当初は“大野雄二とジャズ”というテーマで執筆を進めていたそうですが、出来上がったものが少々マニアックすぎという理由から、“楽しく読んでもらえるジャズの本”として作り直したそうですね。

大野:最初に「音楽の専門的なことを書くのはどうですか」って出版社から話があって。その時は「まぁそれもいいかな」と思って書いてはみたんだけど、ある程度出来上がったものをいざ読み直してみたら、この本を最後まで読むマニアックな人はそういないかもなと思ったわけ。で、まずは“つかみはOK”みたいなことを改めて考えなきゃと思って。タイトルが『ジャズ放浪記』なのに、最初のページでネギを持ってる僕が出てきたら面白そうだな、と(笑)。

ーーそれが冒頭の料理のページですね。

大野:そうです。受け狙い好きの大野君としては、普通にジャズ的なことからは入りたくなかったしね。まずは、一番近くにいるスタッフの座談会を通して大野雄二の人となりを知ってもらうって所から、ついでに僕のクッキング力見せちゃうかーみたいな流れになったんだよ。ジャズと料理に深い意味付けは無い。単純に僕が食いしん坊ってことで。

 今までFMラジオに出る時や本の取材等でもよく料理のことを話してたからね。まー探究心はある方だから、味付けも色々考えるしね。ただ料理本に出てくるような本格的なものを作る気はさらさら無いんだ。冷蔵庫の残り物でチャチャーっとシンプルに作れてセンスの良い一品を作るのが僕のポリシーだね。

ーー過去にはお酒も研究されていたと聞いたことがありますが。

大野:うん。でも、お酒大好きで大酒飲みってわけではないよ。研究好きなのかな?

ーーひとつのジャンルを極めるのにどの程度時間がかかりますか?

大野:例えばお酒で言えば、3年くらいかな。どんな味か、なんで美味しいのか、各国のメーカーのものを飲み比べてみたりして、何となく分かったらおしまい。次の酒(ウィスキーとか)にいくのさ。

――音楽も研究家のように探究されると。

大野:まぁそうだね。一寸学者っぽく研究しちゃうね。CM作家になって、あらゆるジャンルの音楽を聴くようになってからだけど、気になるCDを聴いたらまずプロデューサーを覚えとく。メンバーも調べる。そして、そのプロデューサーの他の作品も色々聴いていくんだ。すると今まで知らなかったけど、あっ!!こんなすごい人がいたんだってことで、どんどん広がっていくから楽しいね。

ーー他の音楽ジャンルと比べた際に、ジャズのどういった部分に惹かれるのでしょうか。

大野:ポップス、ボサ、ソウルミュージック、フュージョン等色んなジャンルの音楽はそれぞれに良い部分がたくさんあるし参考になるんだけど、アドリブパートがやたら多くはないでしょ。(まぁ、フュージョンはすごく聴きやすいジャズとも言えるけど。)でもジャズは基本的には個人プレイがメインで、みんなで”よきにはからえ”的なアンサンブルなんだよ。譜面的な部分がチョー少ないんだ。だから個人個人それぞれが、ものすごく相手をおもんばかるってわけ。それがほかのジャンルの音楽との一番の違いだと思うんだ。そこに深さが生まれる。譜面もほぼ無いし、全員がおもんばかりながら自由にプレイする。そこがジャズの良さだと思うよ。クラシックは譜面からは絶対に外れないからね。ジャズはかなり色々と外れてもOKだし。もっと言えば、枠から飛び出したほうがすごいって言われる。音楽だからギリギリの限度はあるけど。そんなところに惹かれるんだよ。奥が深いからね。

ーー枠から出ることが、あらかじめ求められる音楽だと。

大野:ジャズでは少し外れたって、良いアウトはセーフなわけ。アウトがセーフっておかしいでしょ? でもジャズではわざとアウトしていってお客さんを楽しませることもある。「うわー、今のプレイ良いアウトだなぁ」なんて言われたら最高に嬉しいからね。メロディーラインのアウト、サウンド(コード)面でのアウトやコードチェンジリズムでは、ポリリズムね。例えば4拍子でやってる時に3拍子のアクセントをやり続けたり、1拍半(3拍子の半分)やり続けたりと、聴いてるとわけ分かんなくなっちゃうようなことを入れつつ、どこかで元に戻す等々。色々あるよ。個人がそんなリズム面やメロディー、サウンド面でも勝手にやりながら合わせていく。これがモダンジャズの醍醐味。本当に色んな面白さが無限に詰まってるんだ。

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