玉井健二、蔦谷好位置、田中隼人ら語る“音楽制作の未来” 『J-WAVE × agehasprings』イベント

 6日は第一部・田中隼人による公開アレンジワークショップからスタート。以前にリアルサウンドでも彼のワークショップを伝えたが、その際は自身がアレンジを手がけたDAOKO × 米津玄師の「打上花火」について、要素を分解しながら見事な解説を行なっていた。今回は「なぜ音楽プロデューサーに?」というエピソードも話しながら、再び「打上花火」を題材に講義。今回は「ここに思い至るまでの心の過程を話せたら」と話し始めた。彼が20代に迎えた転機や、仕事に対する考え方が変わった瞬間、音楽プロデューサーという立場から音楽を俯瞰的に見れるようになった体験を、実体験に基づきながら、ゆっくり、しかし熱を持って客席に語りかける。

 途中、「僕、すごく真面目なんですよ。合理的じゃないことが嫌で。音楽を作るにも最短距離で作りたいと思っていたけど、それを突き詰めすぎて『合理的じゃないことは正しくない』と子供の頃から思っていて。夏休みの宿題って意味わからないじゃないですか」と田中の合理主義な部分が顔を出し、客席から笑いが起こる一幕も。そして、今回このような話をした理由について「そういう心得的な部分をスッキリさせると作品の見え方や音楽の聞こえ方が変わってくる。目の前の音楽を聞くだけじゃなくて、違った視点を持つことも大事」と述べた。

 続いて、田中は「打上花火」の制作データを見ながら、「アレンジをする上で大事だと思っているのは、音楽の言語化と数値化だと思うんです」と語る。音楽の言語化については「お菓子の説明で『どこ産の何を誰が監修した』って書いてあることがありますよね。それは音楽にも必要だと思っていて。ここのリズムはヒップホップで、サビには生ドラムがあって……とか、音楽をあまり知らない人に説明できることが大事。音楽を宣伝するときも宣伝文句は重要ですし、聞き手も『この作品は間違ってない』と担保してもらいたいじゃないですか」と、音楽家ではない作り手にもしっかりと作品を理解してもらうことの重要性を説いた。

 続いて、音楽の数値化については「僕の中で『ここが切なく聴こえる』というのは音楽を聴いた上での感情論ですけど、作り手はそれを機能的に変化させなければいけない。だからすべての構成を数値化するんです。例えば、Bメロが100点でサビが70点だと、それはサビと呼べないですよね。作っているとなんでも詰め込みたくなるけど、詰め込みすぎるとサビが霞んでしまったりするんです。その状況になってしまうことは、そもそも音楽にとってよくない」と、持論を展開する。

 前回と同じくストリングス編成の話をしたあとは、先ほど掲げた「数値化と言語化」をすることについて「僕、自分に自信がないんですよ。だから理論武装したくて『数値化、言語化』というんです。だから、ファンダメンタルな要素を集めてテクニックに変換していく手法を自分の中に身につけたというか」と、しっかり“合理的”な理由づけをし、最後は「あ、もう終わりか! 倍くらい喋りたかったです……」と話し足りない様子でステージを後にした。

 第二部である蔦谷好位置のトークセッションは、彼が共作曲を手がけたKICK THE CAN CREW「住所 feat. 岡村靖幸」の話から始まり、「サウンドプロデューサーの仕事とは?」というお題に。蔦谷は「KICKの場合はKREVAが作曲とトラックメイクをして、そこに対して『こんな感じはどうですか?』と提案する。ゆずはアコギと歌だけのデモが届いたり、共作の時はサビを北川君が、メロのコードを僕が担当したり、コードの足し引きを僕と北川君の2人で詰めていくことも多い」と、制作の裏側について語る。また、自身が上げた制作の動画(ちなみにこの日初めてVocalSynth 2を岡村靖幸のボーカルで使ったという)について、「去年カルヴィン・ハリスが「Slide」を作っている映像を公開しているのが面白くて真似してみようかなと思って」と、世界のトレンドを常に追っている蔦谷ならではの試みだったことを明かした。

 ここでトークは「今のサウンド、流行のサウンドを意識して楽曲制作に向き合うか?」という話題に。蔦谷は「常に時代のムードがあるので、それはチェックするし、頭の中に入れた上で、自分の引き出しから引っ張り出してみたり、開けるのを忘れていた引き出しを開けるのが重要」と前置きし、「今の時代のサウンドで一番重要なところは?」という寺岡からの問いに、TRAP以降、EDM以降と変わっているけど、ここ20年で一番大きな変化はサイドチェインを今のような手法で使うようになったこと」と回答。その理由について、「もともとサイドチェインは1930年に映画のセリフでノイズがかかったところにコンプをかけるために使い始めたのを、1990年代にDaft Punkなどのフレンチハウス・エレクトロの人たちが使うようになった」と、Daft Punk「One More Time」を流しながら解説し、「ハウスって裏にハイハットが入っているけど、サイドチェインをかけることでリズムマシンだけではないグルーヴを作れるようになった」と補足する。

Daft Punk - One more time (Official audio)

 フレンチハウス・エレクトロで使用されるようになった1990年代後半を経て、テクノやヒップホップにもその流れは派生。ここで蔦谷はJ・ディラの楽曲を例に挙げ「いかに気持ちいい2小節を作るかが大事。ヒップホップは音圧をコンプで稼いでいたけど、ダッキングを起こすためにサイドチェインを使うようになった」と語る。キックにダッキングを生じさせ、高密度のグルーヴを作るのはJ・ディラの得意技だったわけだが、それがオーバーコンプレッションをかけるだけではなく、サイドチェインも使用されていた職人芸であった、ということだ。

Skrillex - Scary Monsters And Nice Sprites (Official Audio)

 少し時代は先に進み、Skrillex「Scary Monsters And Nice Sprites」の話へ。蔦谷は彼の登場を「Daft Punk以来の衝撃」と述べ、その理由について「シンセの音色も、歪みもサイドチェインも大胆にかけるタイプの人。もともとバンドマン、ロックミュージシャンだったからか、間違っているだろうということも平気でやれてしまうのが面白い。今まで聴いてきたものは四つ打ちが基本だけど、32分とか16分のグルーヴでもダッキングを起こしている。これは後ろにもたれさせるためには有効な手法ですね」と、クラブミュージックに破壊的イノベーションを起こし、ダブステップを世界のトレンドにした彼の功績を称えた。

The Chainsmokers - Side Effects (Official Video) ft. Emily Warren

 サイドチェインの流行はポップスにも飛び火しているが、その中でも蔦谷がトピックとして挙げたのはケイティ・ペリー「Fireworks」。USのポップスでサイドチェインを使った曲がトップを取ったことが、象徴的な出来事だったという。また、最近ではThe Chainsmokersの新曲「Side Effects ft. Emily Warren」やLido「Falling Down」も、サイドチェインの次なる形だと話す。「Aメロを聴くとわかるんですけど、裏のハイハットがなくてキックとベースだけなのに、ベースの音にサイドチェインが掛かることでハットの代わりになっている。ドラムがなる瞬間に連動させてかけると沈むような印象になるので、ハットを乗せてグルーヴを起こす必要がなくなるんですよ」と解説した。

 そのうえで、蔦谷は音楽と技術の革新についても言及。「1つの手法ができると、それを応用した使い方ができ、また新たなものが生まれるので、技術の革新は馬鹿にせず使っていったほうがいい」と持論を展開し、自身が最近プロデュースした、全体的にサイドチェインがかかっている曲として、堀込泰行の「WHAT A BEAUTIFUL NIGHT」を「この曲ではキックに合わせてボーカルに長めのリバーブがかかっていて、そのリバーブ自体にサイドチェインを使うことで、複合的な32分のグルーヴを生み出している」と、独自に発展させたサイドチェインの使い方をしていることを明かした。

WHAT A BEAUTIFUL NIGHT / 堀込泰行

 ここからは、蔦谷が“最近面白いなと思った曲”についての話題に。彼がまず挙げたのはLAを拠点に活動するdwilly。彼の魅力については「あまり今のアメリカっぽくないですよね。TRAPが世界中を席巻しているなかで、シンセのアタックを遅らせることで後ろに重心を持たせているのは独創的。コード感やリズム感、すべてにおいて頭一つ抜けてる。韓国の若い子と話している時に、みんな耳が早いから、TRAPに飽きて、いまはガラージや2ステップを聴いているそうなんです。その辺りとも共鳴している部分はあるかもしれない」と述べる。続くスウェーデンのJaramiについては、「サイドチェインを掛けつつ、ここまでポップなベースラインは、さすがスウェーデンだなと感じますね」とプレゼンテーションしてみせた。

dwilly - ADD feat. Emilia Ali [OFFICIAL AUDIO]

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