『ふぁいとSONGS』インタビュー
BUGY CRAXONEが語る、結成20周年で見えたもの「“がんばれ”を歌えることが一番の誇り」
「ロック史の中でいちばんカッコいい“がんばれ”」
ーーブージーはラブソングを歌わないですよね。
すずき:そうですね、自分が音楽を始めたきっかけがそこじゃないからですね、うんうん。
ーー避けてきたところもあるんですか?
すずき:「書かないの?」と言われたことはあるんですけど、いかんせん私自身がそこに興味が湧かなかった。そこは「個人的にやりなよ」って(笑)。それは逆も然りで、「人生とかは自分の胸にしまっておけばいいじゃん」と思う人もいるだろうから。どこに反応してバンド始めたのかということは、大きいんじゃないのかなぁ。女性ボーカルのバンドって、恋愛がベースになっていることが多いとは思うんですけど。私はあいにくそうじゃなかった。そういう星の下に生まれたんだと思います(笑)。
ーー女性ボーカルのバンドで、ずっと歌い続けてる人って多くはない印象ですが、そういう長年やってきた“自負”みたいなものはありますか?
すずき:ないです!(笑)。たまたま女だったし、たまたま続いたというだけだしねぇ。何も考えてなかったですからね。でも、自分が「女なんだ」ということに自覚が出てきたのは30歳超えてから。それまでは「男、女」という性別よりも、「若者」という括りで突っ走ってたわけですよ。それが30歳過ぎると、そうもいかなくなってくる。男の人と女の人、それぞれ身体の進み方が違うわけだし、それをなんとか結びつけていた“若さ”というものが少しずつ減っていくわけだから。そこで初めて「あっ、私、女だった」と気付きました。退廃的なものが好きだった20代があって、でもそれが30代になるとかわいそうで見ていられなくなってしまう。あんなにカッコよく見えていたカート・コバーンを「かわいそうだ」と思うようになった。
ーー身体の変化で考え方も価値観も変わっていった。そこから詞や音楽自体も変わったわけですよね。
すずき:なんだかんだ“自分”を気づかせてくれることって、他人や出来事よりも、自分自身の身体なんだと思います。昨日できたことが、いや、さすがに昨日はないな(笑)、去年までできていたことができなくなった……ということは驚くし。スケジュール詰め込んでも前までへっちゃらだったのに、朝起きたらズンっと疲れが……みたいな(笑)。あとはなんだろうなぁ……、同世代や上の人たちが、他人に対して“余計なお世話”を焼くようになっていくのが嬉しくなるというか、そこに温かみを感じたりね。音楽をやっていない先輩たち、子育てをがんばってるお母さんたちに教わることも多かったな。日々生きていくことが精一杯で、なりふり構わないんだけど、それが愛情から生まれているものだと、ぜんぜん印象が違うんだな、とかね。思えば、自分の親もそうだったと思うんですけど。
ーーすずきさんの歌詞って、母性というか包容力みたいなものがありますよね。
すずき:私は、いち社会にいる大人のバンドマンとして、BUGY CRAXONEを通して“余計なお世話”をしているのかな、と思うんですね。好きでやっていることではあるんですけど、人に聴いてもらう形をわざわざとっているわけだから、それを不毛なものにはしたくない。このあいだ、自分でもびっくりしたんだけど、電車に乗ってたとき、小っちゃい子が急に走り出したのを見て、「あぶないっ!」って自然に身体が動いたんですよ。若いときは「あぶない」と思っても身体は反応しなかったと思うんです。きっと、私より前に動いてたおばちゃんがいたんでしょうね。自分がそういう年齢になってきているんだなぁって。誰に教わったわけではないけど、大人になっていくというのはそういうことのような気がします。私はバンドマンだし、音楽という“余計なお世話”で、世の中と触れているんじゃないのかなと思いますね。
ーー日々の生活に寄り添うような、地に足のついた表現は前作『ぼくたち わたしたち』(2017年)から顕著になったと感じました。それまでは言葉は柔らかいけど、表現を曖昧にしていたような気がするんですよ。
すずき:ストレートに言うことでカッコいいと思える表現方法を見つけたんです。『いいかげんなBlue』(2013年)、『ナポリタン・レモネード・ウィー アー ハッピー』(2014年)あたりは、自分の言いたいことはもちろん言うんだけど、何しろ、音楽としてカッコいいとか、作品としてちょっとはすっぱなところがあるとか、そういうところに重きを置いていたんですね。それがこの何年かの変化、自分も歳を取ってきた中で、もう一歩踏み込んだ表現が出来るようになったんだと思います。
ーーそういう意味で、これまでは聴き手に委ねていた部分もあったけど、今作の表題曲「ふぁいとSONG」は、ダイレクトな“励まし”ですもんね。
すずき:「がんばれ」を歌えることが、いま私がいちばん誇りを持っていることなんです。THE BLUE HEARTSが「人にやさしく」で〈ガンバレって言ってやる〉と歌っているのが、私が思う、ロック史の中でいちばんカッコいい「がんばれ」なんですね。それに敵わないと思ったから、これまでは言えなかった。いまは勝てると思ったわけではないんだけど、「恐れ多いですが、隣に並べさせてください」という気持ちを持てるものを書けた。それはすごく大きいことだと思いました。
BUGY CRAXONE「ふぁいとSONG」MV
ーーそれでいて、説教じみてないのがすごいなと。
すずき:そう! それ、私も思った(笑)。
ーー“強制”ではないですもんね。
すずき:やる気のある人って、応援してもらわなくても、がんばってる人からいい影響を受けようとするんですよね。私は同じ時代に生きている人たちを信じているし、綺麗なものを見たり、素敵な活動を見たら、そこに自分も呼び起こされると思うんです。だから〈がんばろうぜ〉と歌ってはいるんだけど、無理矢理ではなく、たとえ見ている方向は違ったとしても「がんばってる」ことを、みんなで横並びで感じ合いながら一緒にやっていけたらいいんじゃないかな、っていう気持ちです。
ーー〈わたしはいま怒ってる〉(「わたしは怒っている」)〈ぼくらはみんなで生きている〉(「ぼくらはみんなで生きている」)からの〈みんなでがんばろうぜ〉(「ふぁいとSONG」)という流れも、すずきさんらしいところで。
すずき:みんなで生きてるから怒ってるんですよね。「わたしは怒っている」は、同世代のバンドマンとの話の中で、やれ「金がねぇ」、やれ「環境が恵まれねぇ」なんていう愚痴を聞いていて、「何言ってんだよ! 自分が好きでやってるのに文句言うな! まだ腹決まってねぇのか!」と頭にきて書いてたんですよ(笑)。でも書き進めていくうちに「すずき、お前はどうなのよ?」って、筆が止まっちゃったんです。生きていく中で「私、知らないことだらけじゃん」と、今度はどんどん自分に腹が立ってきて(笑)。