『プリンセスコネクト! Re:Dive PRICONNE CHARACTER SONG 05』インタビュー
『プリンセスコネクト!Re:Dive』楽曲はなぜ充実? サウンドプロデューサー本田晃弘に聞く
『プリンセスコネクト!Re:Dive PRICONNE CHARACTER SONG 05』が、9月26日にリリースされた。同作は、スマートフォン向けアニメRPG『プリンセスコネクト!Re:Dive』のボーカルCD第5弾。ゲーム内に登場するキャラクターのミミ(CV:日高里菜)、ミソギ(CV:諸星すみれ)、キョウカ(CV:小倉唯)が歌うゲーム挿入歌「リトルアドベンチャー」や、ツムギ(CV:木戸衣吹)が歌う「アマノジャクHEART」のほか、オリジナルドラマが収録されている。
リアルサウンドでは、『METAL GEAR SOLID』シリーズなど多くの作品のゲームミュージックに携わり、Cygamesではサウンドプロデューサーを務める本田晃弘氏にインタビュー。Cygames内での役割から、『プリンセスコネクト!Re:Dive』の音楽面での特徴やコンセプト、制作面までじっくりと語ってもらった。(編集部)
「ブラスから木管までほとんど生で録ってます」
ーーまずは本田さんのCygames内における役割と、担当している作品について聞かせてください。
本田晃弘(以下、本田):音楽に関するプロデュースやディレクションが主な仕事で、自分で音楽を作ることもあります。いま担当している作品は『プリンセスコネクト!Re:Dive』(以下、『プリコネR』)や『ウマ娘 プリティーダービー』(以下、『ウマ娘』)、そして、PS4の『Project Awakening』に携わっています。社外では『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』のアレンジャーとしても参加しています。
ーー『プリコネR』には、どのような経緯で音楽監督として関わることになったのですか?
本田:もともと弊社の体制としては、各ゲームのBGMに関してはアウトソーシングしていて、社内のサウンドチームは効果音や組み込みなどを担当していたんですが、『プリコネR』ではイマジンさんとやり取りさせていただく際に、ゲームの制作チームから「より良いものを作りたい」ということで、音楽制作のことを理解している僕が間に入ることになったんです。いまはサウンドチームも様々な形で音楽に関わるようになったのですが、そういう体制になったのはこれが初めてかもしれないです。
ーーゲーム業界では、音楽は外注で制作することが多いのでしょうか?
本田:会社によると思うのですが、弊社は以前までそういう体制でした。前職では直接音楽制作に関わっていたので、最初の頃はサウンドチームを通さないで曲がどんどん出来ていく文化に「えーっ!」と戸惑ってしまって(笑)。もちろん音楽のことで困ったときにはサウンドチームに相談がくるのですが、基本はそういう立ち位置でしたね。
ーー本田さんは音楽監督として具体的にどのような業務を行っているのですか?
本田:たとえば、制作チームから「こういう楽曲がほしい」と挙がってきたオーダーを外注先にわかりやすく説明し直したり、デモの段階でのディレクションなどを行っています。それと『プリコネR』の音楽は必ず生楽器でレコーディングしているので、その現場には必ず立ち会いますし、最終ミックスやトラックダウンといった工程にもすべて立ち会って監修しています。
ーー『プリコネR』の音楽は、主にBGMとキャラクターソングの2種類に分かれると思うのですが、それぞれどういった体制で制作しているのですか。
本田:キャラクターソングについては、社内に自分とは別の担当者がおりまして、その者と日本コロムビアの柏谷(智浩)さんが協力して制作しています。BGMに関しては、最初は自分と西木(康智)さん、イマジンの作家さんとで制作していたのですが、今は社内に新人が入りましたので、ほとんどの作業は彼らに任せています。僕は後ろに座ってコーヒーを飲んでるだけですから(笑)。
ーーそんなことはないと思いますが(笑)。では、社内と外部を合わせるとかなりの人数が『プリコネR』の音楽制作に関わっていそうですね。
本田:いま社内で関わっているのは4人ですね。外部ではイマジンの作家さんが4~5人ほど、そのほかの作家さんにも何人か関わっていただいてますので、全部で10人以上の大所帯になります。普通はひとつのゲームに多くてもせいぜい3人か4人ぐらいなので、かなり珍しいケースだと思います。
ーーなぜ、大人数で制作されているのでしょうか?
本田:理由の一つとして、曲の雰囲気が被るのを避けたかったということがあります。少人数で制作すると、雰囲気やカラーが似ることが多く、作る側もディレクションする側も苦労することがあります。「日常曲って前に書きませんでしたっけ?」という感じで(笑)。であればいろんな人に頼んだほうが良いですし、新しい作家の方と繋がりを作る意味もあります。なので、まだあまり名前の知られていない若い作家の方にも積極的に参加していただいてます。
ーーサウンドチームから見た『プリコネR』の魅力はどんなところにあると考えていますか?
本田:とにかくコンテンツの物量が多いところですね。お話パートだけでも40時間以上あるので、じっくりとプレイしたい方にはたまらない作品になってると思います。ゲーム部分もたくさんのやりこみ要素があり、音楽も多種多様な曲を揃えましたので、ユーザーの方も楽しんでいただけると思います。
ーーそれだけのコンテンツ量だからこそ、大勢の作家さんに参加してもらう必要があったんですね。
本田:初期の段階では自分と西木さんで制作していたのですが、2人でこれだけの量の音楽を作るのは時間的に難しいと思ったので、途中でイマジンさんに相談して、いろんな作家さんに参加していただいたんです。このゲームでは、アニメの音響監督をやっていらっしゃる方々にお話パートの選曲をお願いしたのですが、制作末期にゲームの仕様やお話の演出が変わってしまい、その段階で終わっていた40時間分の選曲をすべてやり直しまして……。
ーーそれはすごいこだわりようですね。
本田:まだゲームをリリースして1年も経ってないんですけど、BGMの楽器レコーディングもすでに8回ぐらい行ってますから。
ーーえぇっ! では、まだ曲を追加で制作してるところなんですか?
本田:やる気みたいですね……他人事みたいに言ってますけど(笑)。劇伴の場合は20曲ぐらいをまとめて録ったほうが経済的に効率がいいんですけど、『プリコネR』では5曲や7曲ほどで録音を組むので、ものすごく贅沢な作り方をしてるんですよ。ただ、1曲1曲の録音をじっくりとおこなうことができるので、新人が勉強するにはとても良い環境だと思います。
ーーそういった体制はCygamesならではのものなのですか?
本田:そうですね。むしろ自分のほうが「もったいないので一度にまとめて録りませんか?」と提案したぐらいなんですけど、「少しずつの録音でもOKなので、ユーザーにとって良いものを制作していきましょう」という返答があったんです。普通は生演奏で録るにしてもトップノートや弦だけということが少なくないんですが、『プリコネR』ではブラスから木管までほとんど生で録ってますし。これは極端な例ですが、川口(千里)さんにドラムをお願いしたときは、1曲だけ叩いていただいて終わりということもありました(笑)。本当はもっと叩いてほしかったんですけど、そのときの録音はしっとりした曲ばかりだったので、ドラムの出番がなかったんです。
ーーちなみに、Cygamesでは『神撃のバハムート』や『グランブルーファンタジー』など、『プリコネR』と同様にファンタジー世界を舞台にした作品を多数展開していますが、それらの音楽とはどのように差別化を図っていますか?
本田:『プリコネR』の登場キャラは、ティーンズとか年齢層が低めの子がメインの作品なので、楽曲も重くなりすぎないように、ポジティブさであったりほのぼのでありつつ活発的な感じを意識しています。怖い雰囲気だったり難解な曲はなるべく少なくして、主題歌のモチーフもふんだんに活用してユーザーに親しみやすくしています。弊社のほかのファンタジー作品とは違う方向性の音楽にすることがコンセプトのひとつではあるのですが、もう曲数が150曲近いので、さすがにそろそろちょっと被る曲も出てきそうなのですが(笑)。
ーー『プリコネR』はジャンル名を“アニメRPG”と銘打っているとおり、ゲーム中に本格的なアニメーションが挿入されることが特色のひとつになります。そういったスタイルならではの音楽的な取り組みはありますか?
本田:いくつかのアニメーションでは、フィルムスコアリングという手法を使って、アニメの絵に合わせて音楽を制作しています。ただ、さすがにすべてその手法で制作するわけにもいかず、本当にごく一部になるのですが。
ーーフィルムスコアリングでの制作となると、かなりの経験やノウハウを持っていないと難しそうですね。
本田:僕が以前に関わっていた『メタルギア』シリーズはほとんどフィルムスコアリングで音楽を制作していたので、そのときに専門の方にいろいろと教わったんです。オープニングのアニメでペコリーヌが滝で身体を洗ってるセクシーなシーンがあるのですが、それに対して特に指示がなかったので、そこにどういう音楽をつければいいのかすごく苦労しました(笑)。
ーーほかに『プリコネR』の音楽全体に通底するコンセプトはありますか?
本田:これはゲームの世界観とも関係するのですが、田中(公平)先生に作っていただいたメインテーマ(「Lost Princess」)を主軸とし、これでもかと主題歌に寄せて制作しているんです。おこがましいですが、どの曲を聞いても「あ、田中先生が作ったんだ」と思ってもらえるように、世界観を統一しています。