w-inds.は最も大きな変化の季節を迎えているーー生演奏にこだわり抜いた音楽届けるステージング

w-inds.が届けた音楽的ステージング

 9月7日に東京国際フォーラム・ホールAで開催された『w-inds. LIVE TOUR 2018 “100”』は、端的に言えば「変化」を感じさせるものだった。3人組のダンスボーカルグループw-inds.は今、グループ史上最も大きな「変化」の季節を迎えている――。

 落ち着いた雰囲気の漂う東京・有楽町の大きなコンサートホール会場にはこの日、約5,000人のファンが詰めかけ彼らの登場を心待ちにしていた。1曲目「Bring back the summer」が始まると歓声が上がる。しっとりとしたムードで3人が歌い上げ、そこから少しテンポアップする「Show You Tonight」へ。照明はブルーからイエローへと変化し、ステージが明るくなる。続いて「In Love With The Music」「All my love is here for you」「I missed you」「try your emotion」と間髪入れずに披露。

 ゆったりとした動きで、時にキレよくダンスする3人の姿は優雅で美しい。激しいダンスはせず、どちらかと言えば抑えめな分、歌声が客席までよく届く。細かなビブラートまですべてクリアに聞こえるのだ。絶妙なタイミングで声が揺れるその心地良さに会場全体が聴き入る。そこにコンサートホール会場でライブをする意義があった。今回、生バンドを従えてのパフォーマンスであったが、重厚でパワフルな生演奏の中でも彼らの歌声が掻き消されることはない。天井まで抜けるような橘慶太のハイトーンボイスと、その少し低域あたりで橘を支える安定感のある2人のボーカル/ラップのバランスに舌を巻く。

 ここ最近、音楽メディアで橘慶太の名前を見かけることが多くなった。そして、その多くの記事で彼のトラックメイクに対する熱心な姿勢が描かれている。かなりマニアックな専門知識を持っていたり、何より彼自身が音楽に対して真面目な研究家であることが言葉の端々から伝わるのだ。

 そうした姿を見ていて、もしかしたら彼は近い将来、演者から裏方に回るのではないかという一抹の不安がよぎった。演者がある時期から制作に興味を持つことは珍しい話ではない。長い活動期間、アーティストはそういうことをしながらマンネリ化を防ぐものだ。しかし、彼の場合は少し事情が異なるように思う。彼のそうした姿勢の根本にあるのは、J-POPに対する強い「危機感」なのだ。

 2000年代後半頃から彼はJ-POPのいわゆる「ガラパゴス化」現象に問題意識を抱き、パフォーマーとしてだけでなく同時に自ら制作に関わることでその問題を解決していくスタイルを選んだ。それが今年リリースした初の完全セルフプロデュースのフルアルバム『100』に繋がっているというわけだ。今回のツアーはその集大成とも言うべきライブなのである。

 危機感や問題意識は「変革」を生み出す。『100』には現行の海外ポップス~ダンスミュージックシーンと比べてもなんら遜色のないサウンドが収められていて、「これがあのw-inds.なのか」とただただ驚くばかりだ。Spotifyでの現在の彼らのリスナー構成は日本よりも海外の方が多いと聞く。デビューから18年目の彼らが今そうした道を選んでいることも頼もしいが、しかし何よりも彼ら自身がステージに立つことを1ミリもやめようとしていないことが嬉しいのだ。彼らはここ数年で世界でも戦えるクリエイト集団へと変化していたのと同時に、一流のボーカルグループとしても圧倒的な進化を遂げていた。

 MCを経て、7曲目「四季」から中盤へ突入。無駄な演出はなく、純粋に歌と演奏を届ける音楽的なステージングだ。驚いたのは、千葉涼平と緒方龍一の2人によるラップ曲「A Trip In My Hard Days」も生演奏でプレイしたことである。同じフレーズを繰り返すループトラックをそのままサックスで再現することで、より一層グルーヴィーな一曲になっていた。この生演奏への徹底したこだわりが、作品に力を注いでいる今のw-inds.を表現するための肝のようにも思う。9曲目「Do Your Actions」ではミラーボールが回り出し、会場は煌びやかな空間に一変。2度目のMCコーナーでは笑いの絶えない3人の掛け合いが繰り広げられた。「w-inds.の売りは?」という話題で「ルックス」を自ら挙げて客席から爆笑が起きるのも、現在の彼らがファンとの良好な関係を築けている証拠だろう。

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