田原俊彦は過小評価されている? 取材・検証の積み重ねと著者の愛情による『田原俊彦論』評

 『田原俊彦論』は、芸能界や世相のそのような変化を映し出した点でも興味深い。とはいえ、岡野の力点は、そこにはない。彼は、人気が低迷していた時期の田原のライブを観ており、そのパフォーマンスに魅せられている。岡野は、そうあるべきと考える田原の理想像を抱いている。本人にインタビューした際にも、なぜテレビ出演でわざわざ感じが悪く見えてしまう受け答えをするのか、なぜステージでオリジナルの振付をはしょるのかと、苦言めいた質問もしている。それに対し田原は、「あなたは特にわかってるよ」と認めつつ「だから、こうしたほうがいいとか言うわけじゃない? 生意気にも」と返した。

 不器用なほど一本気で露悪的な言い方もする田原に対し、ファンである岡野も好きな相手から「生意気にも」と言われるほど、一本気である。本書の最終章では、俳優業の再開、年一枚のシングルなら踊る曲で勝負をなど田原への提言がなされる。しかも、最後の言葉は「もし体に異変を感じたら、ちゃんと病院に行ってください」なのだ。膨大なデータを駆使した冷静な論考でありつつ、「好き」の熱い気持ちにも溢れているという、稀有な内容になっている。

 岡野は、「人気」とは「ふわっとした空気をいかに自分のモノにするか」だと書いている。その意味では、「ビッグ」発言後、「僕のいいところも悪いところも理解してくれる人だけに応援してほしい」「僕はいつも自由にいきたい」と話した田原の頑なさは、「ふわっと」から遠いようにも感じられる。

 岡野は、田原復活のキーマンとなった理解者、爆笑問題の太田光が作詞したシングル「ヒマワリ」(2011年)を高く評価している。普通ならスターである田原を太陽に喩えそうなものだが、この曲で太田は、ファンが太陽であり、その光を見守っているヒマワリが田原だと想定して詞を書いた。東日本大震災の年にリリースされた「ヒマワリ」は、太陽であるファンにありのままでいてと呼びかける応援ソングになっていた。

 ヒマワリは強靭な生命力でにょきにょき上へ上へと伸びていくけれど、太陽のほうを向いている。ヒマワリには「ふわっと」した陽光が注がれる。一本気で頑なな姿勢だけれど、ファンのために歌い踊る田原俊彦は、そんな「ふわっと」した光を浴びてきたのだなと、本書を読んで思った。

■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『エンタメ小説進化論』(講談社)、『ディズニーの隣の風景』(原書房)、『ソーシャル化する音楽』(青土社)など。

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