アルバム『ELEVEN PIECE』インタビュー
ORANGE RANGEが語る、音楽を“更新”していく面白さ「スタンスや感覚はこの先も変わらない」
年々、なんとなくのテーマでは、書けなくなってきている(YOH)
ーーYOHさんの手がけた曲「大きな夢の木」は、どんな思いで書いた曲ですか。
YOH:この曲はじつは、4年くらい前の『TEN』の制作期間に生まれていた曲なんです。「ひと雫」という曲と同じタイミングでアレンジを進めていたんですけど、歌詞が書けなくて。自分の気持ち的にも、2011年の震災以降は、自分の思いをどう音楽に変えるかというハードルと向かい合っていて、そのモードに歌詞がうまくはまらなかったんですよね。なので強引に形にせず、そのまま寝かせておく選択をしたんです。それで、今年に入って、ひとりで児童養護施設に足を運ぶ機会があって。そこで会った子たちは、いじめや虐待で、それまで暮らしていた環境から離れて施設に移って生活しているんですけど、その子たちの1日の過ごし方を聞いたり、会話をして……。例えば、写真に写ってしまうから、運動会とか学芸会とかの行事に出れない事情とかもあるみたいなんですね。そういうなかでも、元気に、強く生きているのを見て。この子たちに向けて、歌詞が書けたらなと、やっとペンが走ったという感じだったんです。
ーーようやく求めていたような形になった。
YOH:そうですね、曲調も含めたうえで書く理由ができたというか。曲自体にスポーツ的な元気さが要素のひとつとしてあったのも大きかったのかな、と。年々、なんとなくのテーマでは、書けなくなってきているんです。それが今のモードなのかなと思っていて。これはそのままいくかもしれないし、今後変わるかもしれないですけど、今はそういう作り方をしていますね。
ーー震災の前後で、YOHさん自身ソングライティングのあり方が大きく変わったんですか。
YOH:それもあるし、あとは『NEO POP STANDARD』という打ち込みだけの作品が、方向性的に自分がほぼ参加していないアルバムだったので。その時にも、どうやって制作に入っていくかとかいろいろ考えさせられましたからね。いつもと違って、RYOと歌詞やメロディを作ることもしたり。それもいい経験になっていて。それは今作でも活きたと思っています。なので、きっかけは、いくつかあったのかなと思います。
ーーこういうふうに、ソングライターによって全然違った発信点があるのも、またORANGE RANGEの面白さですね。そして、アルバム後半の曲はさらにハジけた内容になっていくんですが。とくにハードコアパンクの「ワジワジ feat.ペチュニアロックス」なんて、サウンドはかっこいいんですが、内容がそのかっこよさとは相反していて。
NAOTO:これは、ミスマッチな曲にしたいなと思ったんです。なんでこんな歌詞? というか。真剣に歌う曲にもできたんですけど、それじゃ普通だなというか、面白くないし。リフも変だから、内容も変にしようと。曲の雰囲気と反して、あまり強くない感じがいいかなと思ったんですよね。ちょっと、器のちっちゃい感じを出したっていうか。
ーー確かに、ちっちゃいことにやたら怒ってます(笑)。こういうノリのいい、パンキッシュな曲も久々な感じがしていいなと思いましたよ。
NAOTO:たしかに。
RYO:リーダーからも、曲の狙いは聞いていたからね。
HIROKI:これも今にはじまったことでもないし、過去にもこんなテイストがたくさんあったので。これはそういう枠の曲、と割り切った感じでね。
ーーこういうパンキッシュな曲で、思い切りフラストレーションや怒りをぶつけるというモードにはあまりならないんですかね。
NAOTO:つい、おちゃらけちゃうよね。でもそれもまた、パンクだなと思ったりもするんです。さっきのdestroyの精神じゃないけど。
HIROKI:たしかに、セオリーを外れているっていうことは、壊しているっていうことだからね。
NAOTO:既存のものを、壊してナンボじゃないですか。まあ、幸か不幸かそうなってしまったというか。
ーーもともとORANGE RANGEは、そういうバンドでもあったと思うんですよね。既存のものにはまらないっていうか、はまれないというか。それは昔は無意識にやっていたと思うんですが、だんだんと自分たちの強みがわかって、意識的にもなっているところはあるんですか。
NAOTO:あ、でも基本的には無意識かもしれないです。パッと出てきたアイデアがそういうもので。ずっとそうしてきてるから、そうなっちゃっていると思うんですけど。だからあまり、何か考えてこうしようっていうのはないんですよね。パッと出たものを、“いいね”、“OK、やろうぜ”っていうくらいで。
ーーついミスマッチ感を楽しんでしまったり、正統派をぶち壊すのが面白いという発想にいってしまう。それがORANGE RANGEという形なのかもしれないですね。
NAOTO:うん、性質というか。
ーー「Theme of KOZA」は地元沖縄、コザの街(現・沖縄市)を歌ったラップオンリーの曲で、しかも1990年代のニュースクールヒップホップ的なトラックの面白さや、ユーモア、エンターテインメント性がある曲に仕上がっていますね。
NAOTO:コザは、2018年の今もクラブに行ったら、ニュースクールな感じだったりするんですよね。17年前、うちらが高校生の時と変わらない感じなんです。僕も実際にそういうのが好きだったし、コザといえばニュースクールかなっていうか。すごい楽しいんですよ、コザは。
ーー曲で歌われているように、街そのものにミクスチャー感がある?
YAMATO:独特の空気がある街ですね。それこそ、すぐそばには米軍の基地があるし。給料日になったら、基地からたくさんの人がコザの街に繰り出してお酒を飲んでいたりとか。僕たちは小さい頃から育ってきた環境だけど、コザに来たことがない人はびっくりするような感じだと思いますね。でも結構、シャッター街でもあるので。ギャップがいっぱいありすぎる世界観だっていうのは、よく言われるんです。でもそれが、僕らがずっと育ってきた場所で。コザから離れて改めて、コザの独特の雰囲気がわかったし。このままであってほしいなっていうのもあって。決して怖い街ではないから、この雰囲気は一度現地で見てもらいたいですね。それこそ音楽がいっぱい鳴っている街で、いろんな音楽に触れられる場所かなって思うんです。
ーー街を離れた時に、この街の感じが自分たちの音楽やカルチャーを培っていたんだなっていうのは、感じますか。
YAMATO:それは大きいと思います。それこそ家から出れば、どこかから民謡が流れてきたり、クラブに行けばテクノが流れていたり、ライブハウスに行ったらメタルをやっていて、学校に行けばJ-POPが流行っていて。そういう環境だったから、なにかひとつにとらわれない感覚もあって。ロックだけで、という感じにもならなかったのかな。
ーー自然とボーダレスになっていたんですね。そういうルーツとなるコザの曲から、次でいきなり「KONNICHIWA東京」という東京の曲がくる、この並びは意図的だったんですか(笑)。
NAOTO:とくにそういうことではなかったんですけど(笑)。
ーー陽性のサウンドで東京の街を歌いながら、どこかで危機感を含んでいる曲でもありますね。
NAOTO:東京を外から見たイメージって、なんか『ブレードランナー』みたいな世界観ですよね。あまりどうなっていくかわからないし、それが面白いところでもあると思うんですけど。どんどん進化して、外からもたくさん人がやってくる、そのどうなっていくかわからない面白さを、いろんなエキゾチックな音で表現しているんですけど。
ーー〈未来はあの沈没船〉という歌詞のフレーズじゃないですが、スピーディに流れるままではいけないし、ちゃんと見守っていかないといけないんじゃないかっていう思いも描かれますね。
NAOTO:どうなるかわからないのは、良さでもあるんですけど。これも結構ギャップがある曲ですね。曲調はかわいいけれど、不安な感じもあるというか。さっきの「ワジワジ」同様に、これも自分たち“らしい”ものでもあるなと思います。
ーー強くメッセージするまでいかないものの、問題提起したいっていうのはありますか。
NAOTO:何かを言いたいというよりも、個人的にそう思っているということですね。どうなっちゃうんだろうっていう。
ーーシリアスな内容を音楽に乗せてしまうのは、自分の表現にはフィットしないという感覚ですか。
HIROKI:その責任は背負いたくないっていうのはあるんじゃない?
NAOTO:それもあるし、あまりシリアスに思ってない(笑)。音楽って、シリアスなものじゃないと思っているし。そもそも僕は、音が好きなんですよね。だから、歌詞を書くときも、書いてもらってから、響きや音のはまりを大事にしたくて調整してもらうものもあるんです。そこでのせめぎ合いは、HIROKIともありますね。ここはちょっと変えてほしいとか。
ーーラストには白昼夢ポップ的な「Girl/Boy Song feat.ソイソース」がきて、最後の最後まで、何が出てくるかわからないアルバムですね。『TEN』は、10作目で10曲収録で“TEN”というのがあったと思うんですが、今回もタイトルは、『ELEVEN PIECE』と直球です。アルバムのタイトルには、あまりこだわりはないですか。
HIROKI:そもそもが、最初からアルバムの方向性が決まっているわけではないし、何かにめがけて作っているものじゃないから、必然的にこれを包み込むような大きなワードになっていくんですよね。もうぶっちゃけ、最初のアルバムを「1」とかにしておけばよかったよね。
NAOTO:っていうくらいのアルバムタイトルなんですよ。最初のアルバムは『1st CONTACT』で、次が『musiQ』で、とくに何かを言っているわけではないし。これだけの曲を、ひと括りにまとめるのは無理かなと。
ーーそれくらい、自分たちでもひとつの言葉にはとてもまとまらないと思っているわけですね。
NAOTO:だから今回はシンプルにしました。
ーーテーマ性があったり、とくにアルバムをめがけて作っていないということですが、だからこそこうして1枚が仕上がった時に、すごいものできたなっていう実感がありそうですが、どうなんでしょう。
YAMATO:僕個人としてはですけど、それこそ何かひとつのテーマがあってできたわけじゃなくて、自分がやるべきことや、目の前のことをひとつひとつ積み重ねていって。こういうアルバムにしようっていう話題も一切ないまま、アルバム作りをはじめているので、いわゆる達成感みたいなものはないんです。いちばん旬な、新しい曲を集めているので、新譜には変わりないですけどね。これが、僕らが今までずっとやってきている流れなんです。多分、このスタンスや、ORANGE RANGEの感覚っていうものは、この先も変わらないものなのかなって思ってます。
(取材・文=吉羽さおり/写真=稲垣謙一)
■リリース情報『ELEVEN PIECE』
2018.08.29 RELEASE
【初回限定盤】
【CD+DVD+音声特典用プレイパスコード】¥4,500(税抜)※スリーブケース仕様
・初回限定盤特典
ライブDVD「LIVE in VICTOR ROCK FESTIVAL 2018」
2018年3月17日に初出演した「ビクターロック祭り2018」全7曲の映像を収録
・「ORANGE RANGE LIVE TOUR 018-019 〜ELEVEN PIECE〜」2019年公演チケット先行抽選予約シリアルコード封入
※応募期間:2018年8月29日(水) 12:00~2018年9月4日(火) 23:59
【通常盤】
【CD】¥3,000(税抜)
【収録曲】
01. Ryukyu Wind -ELEVEN PIECE ver.- ※Jリーグクラブ FC琉球公式応援ソング
02. センチメンタル ※沖縄バヤリース "バヤガール編" CMソング
03. Destroy Rock and Roll
04. Hopping ※WOWOW NBAバスケットボール 2018イメージソング
05. 楽園Paradise
06. Happy Life
07. 大きな夢の木
08. ワジワジ feat.ペチュニアロックス
09. Theme of KOZA
10. KONNICHIWA東京
11. Girl/Boy Song feat.ソイソース
■ライブ情報
『ORANGE RANGE LIVE TOUR 018-019 〜ELEVEN PIECE〜』
9月28日(金) 台湾・Lagacy Taipei
10月25日(木) 埼玉・サンシティ越谷市民ホール
10月27日(土) 愛知・豊田市民文化会館
10月28日(日) 三重・鈴鹿市民会館
11月9日(金) 秋田・横手市民会館
11月10日(土) 山形・山形市民会館
11月17日(土) 長崎・島原文化会館
11月21日(水) 宮城・多賀城市民会館
11月23日(金・祝) 北海道・中標津町総合文化会館 しるべっとホール
11月25日(日) 北海道・札幌市教育文化会館 大ホール
12月1日(土) 茨城・常陸太田市パルティホール
12月2日(日) 埼玉・狭山市市民会館
12月7日(金) 石川・金沢市文化ホール
12月9日(日) 神奈川・相模女子大学グリーンホール
12月14日(金) 高知・高知市文化プラザ かるぽーと
12月15日(土) 香川・ハイスタッフホール(観音寺市民会館)
12月22日(土) 鹿児島・鹿屋市文化会館
12月23日(日) 熊本・市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
<2019年>
1月5日(土) 滋賀・栗東芸術文化会館SAKIRA
1月6日(日) 大阪・オリックス劇場
1月11日(金) 広島・JMSアステールプラザ 大ホール
1月12日(土) 岡山・倉敷市芸文館
1月14日(月・祝) 島根・安来市総合文化ホール アルテピア 大ホール
1月19日(土) 福岡・福岡市民会館
1月20日(日) 佐賀・鳥栖市民文化会館
1月26日(土) 静岡・焼津文化会館
1月27日(日) 愛知・東海市芸術劇場
2月2日(土) 大分・宇佐文化会館・ウサノピア
2月3日(日) 宮崎・延岡総合文化センター
2月8日(金) 東京・NHKホール