こぶしファクトリーとつばきファクトリーが築いてきた“ライバル関係” 対照的な最新作を機に考察

 2組の最新シングルは、現状の彼女達の立ち位置や、ハロプロ全体の流れなども踏まえた見事に対照的な作品に仕上がっている。まず、今年2月にリリースされた3rdシングル『低温火傷/春恋歌/I Need You 〜夜空の観覧車〜』に続き、2作連続のオリコンチャート2位となった、つばきファクトリーの『デートの日は二度くらいシャワーして出かけたい/純情cm/今夜だけ浮かれたかった』。

 近年のつんく♂楽曲の王道路線を行くアンニュイなエレクトロニックチューン「デートの日は二度くらいシャワーして出かけたい」、「低温火傷」に続いて気鋭の女性ソングライター・大橋莉子が作詞作曲を手掛けた「純情cm」、つんく♂以外では最もファンに信頼されている作家の中島卓偉が児玉雨子とタッグを組んだ「今夜だけ浮かれたかった」と、2015年以降のハロプロとつばきファクトリーの方向性をそれぞれに推し進めた3曲だ。メジャーデビュー以降、順調な歩みを続けるつばきファクトリーの勢いを感じさせる、“今”のハロプロの王道的なシングル作品と言えるだろう。

 それに対して、こぶしファクトリーの『きっと私は/ナセバナル』は、“古き良き”ハロプロに回帰したような2曲に仕上がっている。こぶしファクトリーにとっては初めてのつんく♂提供曲となった「きっと私は」は、2000年代のハロプロ楽曲を彷彿とさせる、明るくポジティブなミドルナンバー。メンバーの脱退を経た、今のこぶしファクトリーの心情を若い女子の恋愛感情に投影させたカジュアルな言葉遣いの歌詞には、つんく♂ならではの手腕が光る。また、つんく♂楽曲のラップアレンジを通してハロプロに多大な貢献をしてきた功労者・U.M.E.D.Y.(昨年末に46歳の若さで逝去)がクレジットされている点においても、ハロプロファンにとっては感涙必至の一曲と言えるだろう。

 もう一つの「ナセバナル」は、Wink「淋しい熱帯魚」や高橋洋子「残酷な天使のテーゼ」などで知られる大御所作詞家・及川眠子が作詞を担当。作曲は近年のハロプロで最多の提供曲を誇る星部ショウで、壮大なパワーバラードとなっている。昨年3名脱退の憂き目にあったこぶしファクトリーだが、結果的に残った5人はいずれも高い歌唱力を誇るメンバー。この曲を聴くと、彼女達のアイドルらしからぬ拳の効いた歌唱は、こぶしファクトリーにとって唯一無二の魅力であり、最大の武器だということが分かる。

 “現”ハロプロの王道を進むつばきファクトリーと、“古き良き”ハロプロの魅力を復権させたこぶしファクトリー。その2組には、当初からハロプロキッズを出自に持つBerryz工房と℃-uteのような関係性の構築が期待されていたのは間違いないだろう。結成時は押し付けられているだけといった印象もあったが、それから3年を経て、彼女達のライバル関係はようやく実体を伴ったものになりつつある。今後、こぶしファクトリーとつばきファクトリーには、Berryz工房と℃-uteのように互いを高め合いながら、ハロプロとアイドルシーンを長く牽引していくようなグループに成長していってもらいたい。

■青山晃大
1983年生まれ、三重県津市出身。フリーランスの音楽ライター。「ザ・サイン・マガジン・ドットコム」「Qetic」「CROSSBEAT」他で執筆しています。

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