KREVAが語る、『存在感』の制作背景とヒップホップのこれから「しっかり点を打ちたい」

KREVAが明かす『存在感』制作背景

 KREVAが5曲入りの新作『存在感』を8月22日にリリースする。表題曲は、ダークでメランコリックなトラックに乗せて〈存在感はある でも決定打が出ていないような気がした〉とギクリとするようなフレーズをラップする一曲。緊迫感あるビートに乗せて〈結局やっぱり 最後は健康〉と繰り返す「健康」も、胸がザワザワするような印象を強く残す。メタファーでもテクニックでもなく「それを言っちゃうんだ」というストレートなワンフレーズを放り込んでくる作品だ。
 
 制作の背景を聞いたインタビュー。「初めて音楽がおもしろくなくなった」というエピソードから、KREVAが考えるトラックメイキングや音選びの極意まで、語ってもらった。(柴那典)

新しいルールでやったら、おもしろがりながら曲ができた

ーーすごくいい驚きのある作品でした。

KREVA:そうですか、ありがとうございます。

ーーそもそも去年はレーベル移籍を経て久々のソロアルバムの『嘘と煩悩』もあり、KICK THE CAN CREWの再始動もあり、アウトプットの多かった一年だったと思うんです。それを踏まえても、かなり創作意欲が旺盛になっているんじゃないかと思うんですけれど。

KREVA:いやいや、実はそうじゃなくて。これまで音楽がずっと好きだったんだけど、今年の年明けくらいに、初めてつまんないと思っちゃった。

ーーそうなんですか? 

KREVA:理由はわかってなかったんだけれど、キックのツアーが終わったくらいのタイミングでそう思ったんだよね。キックのツアーはずっと20年近く昔の歌をずっと歌ってたわけじゃないですか。で、常に新しくあろうと思ってやってきた俺からすると、それはあんまりおもしろくなかった。そういう感じだったのかな。

ーーそんな風に思うのって、過去にはあまりなかったですよね?

KREVA:そうだね。完全に初めてだった。毎日スタジオには行くんだけれど、何も出てこない。持ってるレコードの整理をしたりするだけで。トラックだけは作ったやつがいっぱいあるんだけど。

ーースランプだった?

KREVA:スランプというよりも、とにかくおもしろくなかったんだよね。「なんのためにやってるんだ、これ?」みたいに思うようになった。で、アプローチを変えてみようと思って。作ってあった沢山のトラックはとりあえず置いておいて、まずはいちから、口をついて出てきた言葉から作ってみよう、と。それで最初に作ったのが「健康」って曲なんだけど。

ーーなるほど。「健康」はどうやってできたんですか?

KREVA:まず〈結局やっぱり 最後は健康〉ってフロウが口をついて出てきて。それを歌いながら車に乗ってスタジオに行って、そのフロウが乗るトラックを1時間くらいで作って、歌詞を書いて、1日で完成まで持っていった。で、普段だったら聴きまくるんだけど、とりあえず聴かずに置いておいて。そしたらまたある日、車に乗ってたら「存在感はある」っていう言葉が口をついて出てきた。そういう感じで、思いついたことをその日のうちに形にするというやり方にして、曲をどんどん作っていってここに至ったという。でも出すことは考えてなかった。

ーーリリースは意識してなかったんですか?

KREVA:このまま誰にも聴かせないのか、ただで配るのか、売るのか、何も考えてなくて。俺が聴くかどうかもわからないけれど、とにかく作るという。それで何かのミーティングのときに、話の流れで「曲はあるんだけど、聴かせるものじゃない」って言って。暗いから聴かせたくないって話をしてたんだよね。でも、聴いてもらったら「いや、いいですね」ってことになった。それでリリースに至ったという感じ。だから、もし柴くんが言うところのスランプだったとしたならば、自分で作って自分で解決したって感じかな。作ることで抜けたというか。

ーー「存在感」はどうでしょう。「健康」が完成したことで何か掴んだ感じがありました?

KREVA:あった。とりあえず1日で完成に持っていくことができるってわかったし。それまで曲ができなかった原因はトラックがあるけど言葉が出てこないというものだったから。でも、とにかく言いたいことはあるんで、あとはもう突っ走るだけだという。そのフレーズに対するトラックを作って、曲を完成させるために歌詞を書いて、ものすごい速さで完成させたから。

ーートラックの作り方はどうでしょう? 「存在感」はメランコリックでスローなテンポ、「健康」は切迫感のあるビートになっていますが、これはどういう作り方だったんでしょう?

KREVA:とりあえず、フレーズを忘れないように、それを録ったんですよ。トラックが気持ちいい速さというのはあるんだけど、それじゃなくて、iPhoneのBPMというアプリを使って言葉の速さを測って。で、そこからコード感をつけた。「健康」のときは、とにかく走ってる感じのビートだけが聞こえていたから、それをつけたという。「こうしてやろう」というのはあんまり考えてなかった。

ーーたとえばアジアでも欧米でも、今のラップミュージックのシーンっていろんなフロウやトラックの作り方が出てきていると思うんです。そのあたりは刺激になりますか?

KREVA:そうだなあ、それでいうと、Mass Appealっていうサイトがやってる「Rhythm Roulette」って企画があるんです。レコード屋にいって、目隠しして3枚レコードを買って、そこからサンプリングで曲を作るという。

Rhythm Roulette: Fish Narc | Mass Appeal

 あとFACT MAGAZINEというメディアがやってる「AGAINST THE CLOCK」という、10分でどこまで曲を作れるかという動画があって。それをずっと見てましたね。その刺激があったから、自分も1日で作れるかトライしてみようと思ったのかもしれない。

Amirali - Against The Clock

ーーなるほど。もともとKREVAさんって誰かが完成した曲や音源よりも、機材やルールに刺激を受けるタイプですよね。

KREVA:そうだね。他にも機材の動画とかにインスパイアされているのが多いかな。それで今回は新しいルールでやったら、おもしろがりながら曲ができたって感じなのかな。

ーー今言ってくれた二つの動画って、どういうところが刺激になったポイントだったんでしょう?

KREVA:「ラフだなあ!」っていう。ゴーを出すのが早い。特にアメリカの黒人のプロデューサーはサクサク決めていくんですよ。やっぱり「これでいける」と思ったら判断が速いんです。ラッパーだって、言いたいことがあって、それがビートに乗るって見えたらすぐにゴーを出せる。それはいいなって思いました。やっぱり時間があればあるほど、いろいろやりたくなっちゃうんですよ。サウンドを差し替えるのも簡単だし、声の高さも、音程もワンクリックで変えられる。でも、その時に形になるというのは尊いなって。

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