トイピアノカルテット・toi toy toi、それぞれの“好き”が詰まった初ライブ

 伊藤真澄、コトリンゴ、Babi、良原リエによるトイピアノカルテット・toi toy toiの初ライブが、6月9日、吉祥寺のカフェ&イベントスペースキチムで開催された。過去には、アニメ『フリップフラッパーズ』や『小林さんちのメイドラゴン』の劇伴演奏に参加していたことでも知られる彼女たち。だが、toi toy toi名義でのリリースは、『アリスと蔵六』EDテーマとなったシングル「Chant」のみだ。持ち曲も少ない状態でいったいどのようなライブを魅せてくれるのか、開始前からワクワクが止まらなかった。

 比較的コンパクトなステージには、大量のトイ楽器が溢れかえるように置かれていて、さらにそれらの隙間を縫うように何本もマイクが立てられている。この景色だけでもかなり荘厳な雰囲気があり、ライブというよりもまるでこれからここでレコーディングが始まりそうな、不思議なムードが醸し出されていた。だが、それぞれ赤い衣装に身を包んだメンバーたちが登場し、リラックスした面持ちで楽器に触れると、一気に会場の空気も和らいでいく。

 toi toy toiは結成当初、作曲や演奏よりも「おいしいご飯をみんなで食べること」を活動のメインとしていたそうだ。各メンバーの活躍を知っていれば、まさに“錚々たるメンツ”なのだが、目の前にいる彼女たちは、とにかくユルい。「ちょっとお茶をするついでに演奏しにきました」とでもいうような、肩肘張らないお茶会さながらのアットホームさがとても心地よかった。

 文字通り、“おもちゃ箱をひっくり返したかのような”サウンドの伊藤楽曲「メイドラゴンのテーマ」で幕を開けたこの日のセットリストは、大半が未発表曲。「みなさん、『今日はどうなるんだろう』と思われてるでしょうが、私たちにもわかりません(笑)。この生まれたてのカルテットを、あたたかい目で見守っていただけるとうれしいです」と、コトリンゴ。MCも含め、非常にラフなムードで演奏が進んでいく。

 とはいえ、メンバーは1曲の中でさまざまなトイ楽器を持ち替えて演奏し、他のメンバーも片手でトイピアノを弾きながらもう片方の手で別の楽器を奏でるような場面も多く見られた。トイ楽器を演奏することは、一見さほど難しそうには見えない。しかし、数ある楽器ごとの性質を理解し、それぞれのニュアンスを意識しながら演奏するのは、そう簡単なことではないだろう。そもそも、トイピアノ自体、小さな子どもでも簡単に音を出せる“おもちゃ”ではあるが、だからこそ通常のピアノと比べて鍵盤は小さく、タッチも異なる。そのため、いくら全員が鍵盤奏者といえども、4人でテンポ感を合わせるのにはまた違ったスキルが必要とされるだろう。そういった意味でも、4人が向き合ってトイピアノを演奏する「ジルコニア(未発表曲)」は、音自体は軽やかでありつつも、程よい緊張感に包まれていて圧巻であった。

 演奏の合間には、使用されているトイ楽器の紹介も織り交ぜられていたのだが、良原は各楽器のマニアックすぎる特徴をあまりに流暢に語るものだから、思わずクスリと笑ってしまった。「『シェーンハット』はアメリカのトイピアノで、倍音が多め。弾いているうちにチューニングが崩れていきやすいんですけど、そこがかわいさでもあります」、「『ピアニカ』というのはヤマハの商標なので、鈴木の鍵盤ハーモニカは『メロディオン』と呼びます。ライブは鈴木、レコーディングはヤマハがオススメです」など、これまで聞いたこともないような豆知識が次々と披露されていく。

 ほかにも、「木の実が大好きなんです!」と言って、過去に収集したさまざまな木の実コレクションをキラキラと目を輝かせながら紹介するBabi。「(うまく鳴らすには)意外とコツが必要なんですよ」と解説しながら、恍惚な表情でひたすらトーンチャイムを鳴らしまくる伊藤。動物の顔が描かれたカスタネットを見て、「かわいい〜!」と少女のような笑顔を見せるコトリンゴ。それぞれが本当に心から“好き”なものに囲まれていて、その“好き”を音楽で、このメンバーで表現しているということが、ひしひしと伝わってきた。彼女たちの生き生きとした姿を見ていると、思わずこちらまでホッコリとした気持ちになって、頬もゆるんできてしまう。

 ラストソングでようやく、音源化されている「Chant」、そしてアンコールで「あいのかたち」を続けて披露。リリース音源では豪華なサポートメンバーらも名を連ねているが、今回のtoi toy toiのライブでは、あえてサポートを入れずに、4人で演奏することに重きを置いたという。それについて良原は、「レコーディングでは、演奏と歌は別、かつダビングで重ねているところをライブでは一度にやらなければならないので、本当に大変なのですが、それがまた楽しみでもあります」と語る。目まぐるしく楽器を持ち替え、時折真剣な表情を見せるさまを間近で見ると、これは本当に、本当に大変な作業なのだろうということが実感できる。だが、それでもやはり、この4人だからこそ生み出せる、音楽の枠組みを超えた表現が、確かにあの日、あの場所にあったように思う。

(撮影=三田村亮)

■まにょ
ライター(元ミュージシャン)。1989年、東京生まれ。早大文学部美術史コース卒。インストガールズバンド「虚弱。」でドラムを担当し、2012年には1stアルバムで全国デビュー。現在はカルチャー系ライターとして、各所で執筆中。好物はガンアクションアニメ。Twitter

■セットリスト
1.メイドラゴンのテーマ(曲:伊藤真澄 TVアニメ『小林さんちのメイドラゴン』より)
2.果実のマリア(曲:伊藤真澄 未発表)
3.木馬のチロイアン(曲:Babi 未発表)
4.Pumpkin Moonshine(曲:良原リエ 映画『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』より)
5.ジルコニア(曲:良原リエ 未発表)
6.クシコスポスト(カバー)
7.木ノ実ドロボウ(曲:Babi 未発表)
8.タンバリンと踊り子(曲:Babi 未発表)
9.Snow Dance(曲:伊藤真澄 未発表)
10.Door 〜Winter trip〜(曲:伊藤真澄 未発表)
11.不思議の国のアルパカ(曲:伊藤真澄 未発表)
12.Flip Flappin(曲:伊藤真澄 TVアニメ『フリップフラッパーズ』より)
13.Chant(コトリンゴ:詞、曲 TVアニメ『アリスと蔵六』エンディングテーマ)
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14.あいのかたち(コトリンゴ:詞 Babi:曲 『Chant』カップリング曲)

 

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