水曜日のカンパネラ、“日本・東京”テーマの新EPで迎えた転機 「5年で1周して初心に返った気持ち」
4.メロス
ケンモチ:「メロス」は日本ダービーの曲として書き下ろしました。馬が走る→走る→走れメロスということで、走れメロスに登場してくるメロス、ディオニス、セリヌンティウス、フィロストラトスの4人が、それぞれ競馬の関係者になっている話です。イントロはR&Bっぽく始まって、歌のブリッジを挟んでドロップが入る部分でファンファーレっぽいことをやろうかなと思って。ブラスが鳴った後に曇ったシンセと乾いたクラップが入るという構成を思いついた時に、この曲は勝った! と思いました。これを書くにあたって一度みんなで競馬場に行ったら、コムアイがバカ勝ちして。
コムアイ:競馬は賭けに出ようと思わなければ2~3千円は絶対勝って帰れるんですよ(笑)、安心なやつを選んで買えば。2回見て2回とも勝っちゃって、競馬が好きになった(笑)。
ケンモチ:コムアイ、「もう歌やめてこれで食べて行く~」とか言ってたもんね。MVはモンゴルに強行スケジュールで撮りに行きましたね。
5.マトリョーシカ
ケンモチ:「マトリョーシカ」は、フランスのバンドMoodoidのボーカル、パブロ・パドヴァーニと一緒にやりました。Moodoidの曲にもコムアイが参加していて、交換制作みたいなものに挑戦したんです。「水曜日のカンパネラは、いつも人物像を一つあげて、そこから曲を作ってるんだ。なにかフランス人の人名を教えてくれよ」ってパブロに言ったら、「OK、OK……。うーん、マトリョーシカ」ってなぜかロシアの民芸品が出てきたんですけど(笑)。途中に日本語の<般若心経>とかも出てきます。
コムアイ:マトリョーシカは、中にいくつ入ってるかは見ただけではわからないけど、開けるとずっと出続けるみたいな。パブロの中ではそれがずっと終わらないイメージだそうで、曲を聞いた時に、そういうトリッキーでサイケデリックな印象だったと言ってました。
ケンモチ:そのループ感は音楽でも表してまして、曲が1回終わったかと思ったところからまたタラララって逆再生で始まるという曲の構造になっています。
6.見ざる聞かざる言わざる
ケンモチ:「見ざる聞かざる言わざる」は、言わずと知れた東照宮の新厩舎の猿の彫刻のことです。ことわざではあるんですが、実は日本発祥ではなく、ローマや古代エジプト、アンコールワットから中国を経て、日本に入ってきた文化になります。実は中国にいた頃は猿は4匹いたんです。4匹目は股間を隠していて、“せざる”といいます。しちゃいけないよってことですね。徳川家康を守るための日光東照宮だったから、品位がないということで、3匹になってしまって。曲は、“せざる”がどこに行っちゃったのかな? と寂しそうにしているというストーリーなんですけど。品位がないとか言い出したら面白くないじゃないですか、お笑いでもコンプライアンスとか気にして。笑いたいんだ、こっちは! っていう気持ちで書きました。
7.愛しいものたちへ
コムアイ:以前、「ユタ」という曲を作っていただいたオオルタイチさんに、もう1回なにかお願いしようかと連絡したところ、タイチさんが「ちょうどコムアイちゃんに歌ってほしい歌がある」と。私もすごく気に入って、「これは大事なものを預かったな」と思いました。タイチさんがこの曲を思いついた瞬間は景色が2つあって。タイチさんが住んでいる奈良の山奥の家から見える夕映えが赤くて光悦で、世界の終わりみたいな景色だと言っていました。もうひとつは東京の国会議事堂前。タイチさんが行った時は、ちょうど安保法案が通る日の前夜で、人がいっぱい国会議事堂の前に集まっていたそうです。人が叫んでたりデモをしていた時の思いを歌詞に反映されていて。私が「<砂の城 くずれて>というのは国会議事堂のことですか?」と聞いたら「そうです」っておっしゃってました。
奈良のタイチさんの家で一度録ったのですが、私自身がちょっと納得いかなくて。もっとリラックスした状態で歌を入れたいと思って、zAkさんさんのスタジオで撮り直しました。オーケストラを録るような、部屋の全部の音を拾えて、空気全部入るような無指向性マイクを使いました。このテイクも結局1回しか歌ってないんですけど。「愛しいものたちへ」というタイトルはタイチさんに決めてもらい、結果的に人名縛りが崩れることになりまして。EPを作る前に私たちの中でも、そろそろ人名縛りなくてもいいよね、という話をしていたところでした。
8.キイロのうた
コムアイ:「キイロのうた」は、映画『猫は抱くもの』のために書き下ろした歌です。今はケンモチさんがほとんど曲も歌詞も作っていて、私自身はしばらくやっていなかったんです。今回私が書くとなった時、ケンモチさんに勝てるキャッチーさがなくても、自分が素直に“何かのために”書くのがいいなと思っていたら、犬童一心監督から『猫は抱くもの』のお話があって。やっぱりこのタイミングなのかと思いました。自分の成長を助けてくれた作品だったと思います。
去年、恋愛でのトラブルがすごく多くて。お互い大事で愛しているんだけど現実では離れなければいけない状況が、恋愛に限らず何度もあって。うまくお別れするためにはどう考えたらいいんだろうと思って、「人を惑星だと思ったらいい」という話を高校生の時に聞いたことがあるんです。人は惑うように生きてるけど、惑星の軌道はちゃんと決まっていて、それに沿うように生きている。人と人が会うのは軌道がクロスする瞬間だと思うんです。それがまた離れるけど、近くにいるからきっとまたどこかで会えるかもしれない。次会えるのが80歳かもしれないし、もしかしたら死んだあとかもしれないし、違う姿で違う匂いで気づかなくても、でも何万年先で惑星の軌道がまた重なるという。何かを手放せなくなっている、固執してしまっている人が手放せるように、この曲をラストに聞いてデトックスしてもらえたらいいなと思います。
(構成=若田悠希/撮影=Mariko Kurose)
■リリース情報
EP『ガラパゴス』
6月27日(水)発売
CD¥2,500(税抜)
アナログ¥3,500(税抜)
<収録曲>
01.かぐや姫
02.南方熊楠
03.ピカソ
04.メロス
05.マトリョーシカ
06.見ざる聞かざる言わざる
07.愛しいものたちへ
08.キイロのうた
■ライブ情報
『水曜日のカンパネラ・円形劇場公演』
日程:2018年6月30日(土)・7月1日(日)
※雨天決行・荒天中止
場所:河口湖ステラシアター 野外音楽堂
開場 / 開演:17:00 / 18:00
全席指定:5,500円(税込)
お子様:2歳以下は無料。親同伴
※ステラシアター会場限定販売有り
■関連サイト
水曜日のカンパネラウェブサイト
水曜日のカンパネラTwitter