HYUKOHのサウンドが生まれたポップミュージックの豊饒な地平 『24』が映す韓国音楽シーンの今

HYUKOHが映す韓国音楽シーンの今

めまぐるしく動く、韓国音楽シーンの現状

 ぼくは去年、リアルサウンドでHYUKOH『23』について記事を書いたわけだが(参考:HYUKOHが定義する、新世代のロック・ミュージック “メロウネス”とリンクした音楽性を紐解く)、その後の韓国におけるカルチャーシーンは大賑わいだった。リアルサウンドには映画部があるので映画の話をすると、光州事件時の実話を映画化した『タクシー運転手 約束は海を越えて』や、韓国初のゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』が日本でヒットしたり、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の新作『ブラック・パンサー』に釜山で撮影されたシーンがあったりと、何かと話題に事欠かなかった。

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 もちろんポップミュージックも盛り上がっている。ぼくも前回書いた記事で色々触れたが、最近リアルサウンドでimdkmさんが「韓国インディロックに新展開? Silica GEL、Say Sue Meら変わりゆくシーン牽引するバンド4組」という記事を書いており、それを読めば現在の韓国インディーにおけるバリエーションを知ることができる。

 ぼくなりの解釈をすると、韓国インディーシーンに顕著だったポスト渋谷系~ポスト・チルウェーブ(これについては前回の記事で少し触れてるのでそれと合わせて読んでほしい)と、imdkmさんの原稿にもあるように「ファンクやディスコ、R&Bのフィーリングを消化したものーーつまり、いわゆる『ブラックミュージック』の影響が色濃いもの」が同時並行的に存在し、そこからバリエーション豊かになった現在へ、という大まかな図式になるだろうか。

 他にもまだまだ注目すべき動きがある。こちらもimdkmさんの記事だが、「Yaeji、Peggy Gouらアジア系女性プロデューサーになぜ脚光? “異文化間のギャップ”越える存在に」にあるように、彼女らのワールドワイドな活躍は要注目だし、〈88risings〉所属のキース・エイプをはじめとしたコリアン・ヒップホップ勢はクオリティの高い楽曲を作り続けていることも忘れてはならない。「ビルボード200」のチャートで韓国人アーティストではじめて初登場1位を獲得したBTS(防弾少年団)の新作『Love Yourself』のクオリティには驚かされたものだ。また、「K-HIPHOPに新たな動き lute × Hi-Lite Records、業務提携の狙いは?」といったニュースもあり、状況はめまぐるしく動いている。

BTS (방탄소년단) 'FAKE LOVE' Official MV

HYUKOHを生で観る迫力は並大抵のものではなかった

 そんな韓国のポップカルチャーの現在を念頭に置きながら、HYUKOHの新作『24: How to find true love and happiness』(以下『24』)について書くわけだが、ぼくは去年、彼らの仙台公演を観る機会に恵まれたので、それについて少し触れておきたい。

 HYUKOH仙台公演は、結論からいえば期待をはるかに上回るライブだった。彼らのロックバンドとしての偏差値/完成度の高さはYouTubeで観たライブや作品を聴けば十分わかることだったにも関わらず、生で観る迫力は並大抵のものじゃなかった。

 シングルノートとカッティングを緻密に練り合わせてグルーヴを作り出してゆくかと思えば、カポタストをはめてトラディショナルなフレイバ―を楽曲に漂わせるなど、バラエティ豊かでありつつ、しっかりとツボを押さえた凄まじいセンスのギターワークや、ドラムのリズムキープの合間に絶妙に差し挟まれるフィルイン、静かなダイナミズムをたたえながらバンドを支えるベースが混然一体となって織りなす唯一無二のバンドサウンドに終始圧倒されていた。もうリズムのシンコペーションひとつとっても、ほんとに気持ち良い。エイトビートも無限に聴いていられそうなくらいの旨みが詰まっていた。全体的に、派手なことをやっているわけではないが、ひとつひとつのプレイが洗練されているところがすごい。中でも際立っていたのは、オ・ヒョク(Vo/Gt)のカリスマ性とそのボーカル。ステージ上での立ち居振る舞いはけっこうユーモラスでキュートなところがありつつ、歌っている時はすごくセクシー。ボーカリストとしての能力値は言うまでもなくずば抜けて高い。ファルセットは艶やかだし、エモーションをコントロールしながら歌い上げるバラードは魅力的、そしてなによりシャウトが最高にキマッている。ボビー・ウーマックみたいなやつだ。それはさすがにちょっと言い過ぎか。でも、それくらいカッコよかった。

[I'm LIVE] Ep7 - Hyukoh(혁오) _ Full Episode

 そんな感じで、ぼくは終始ライブを楽しんだ。そこで確信したのは、彼らを「韓国のロックバンド」という色眼鏡が付いた状態で聴くことは、単に間違っているということだ。これを読んでいる方はそんなことないよと思うかもしれないが、HYUKOHの日本での知名度はまだまだこれからだ。あと、少なくとも日本には、オーセンティックなロックやソウルミュージックにモダンな味付けを施して、あれだけハイレベルなバンドサウンドを奏でる20代のロックバンドなんてほとんど存在しないだろうなとも思った。

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