渋谷すばるは関ジャニ∞の“音楽的支柱”だったーーグループ脱退に寄せて

 ライブの最中、一貫して“関ジャニ∞の渋谷すばるです”と主張していたことも強く心に残った。MCでは「関ジャニ∞」「eighter」という言葉を何度も発し、「普段は関ジャニ∞というアイドルグループをやってます」と率直に語る渋谷からは、“あくまでもグループの一員としてここに立っている”という意志が伝わってきた。これもeighterであれば知っていることだろうが、彼は関ジャニ∞のライブでも率先してファンへの思い、グループへの愛着をはっきりと口にしてきた。その事実を知っているからこそ、脱退のニュースが報じられた際に多くのファンは「信じられない」「そんなはずはない」というリアクションを発信したというわけだ。しかし、いま振り返ってみると、渋谷がソロライブで“関ジャニ∞の渋谷すばる”を主張していたのは、“ソロとしてやりたいこと”と“グループとしてやらなくてはいけないこと”の距離が広がるなか、“自分はアイドルであり、関ジャニ∞のメンバーである”と自らに言い聞かせるためのギリギリの選択だったのかもしれない、と思う。

 もう一つ記しておきたいのは、少なくとも筆者が取材した範囲において、渋谷から“ソロアーティストしてもやっていきたい”“音楽一本でやりたい”といった発言を聞いたことは一度もないということだ。むしろ彼は「自分はアイドルであって、ミュージシャンでも何でもない」と明言していたし、ミュージシャンとして扱われることを嫌がっているようにさえ見えた。それはおそらく“今の自分にミュージシャンを名乗る資格はない”という思いの裏返しだったのだろう。

 グループ脱退後の渋谷がどんな活動をするのかわからないし、具体的なことは何も発表されていない(「海外で音楽の勉強をしたい」というのは、自分のことを誰も知らない土地でミュージシャンとしての第一歩を始めたいということでしかないと思う)。現時点でハッキリしていることは、アイドルとして生きることを自分に課してきた渋谷が、自分の心の声に正直になった結果、いちばん好きなことを追求する決心したということだけだ。ソロアーティストとしての彼のポテンシャルは未知数だし、この先どうなるかはまったく不透明だが“30代半ばの男が自らの人生を自分の意志で選び直した”という1点において、筆者は彼を全面的に支持したい。そして願わくは、一人のミュージシャンとして活動を始めたときは、その本心をじっくりと聞かせてほしいと思う。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

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