メジャー1stアルバム『Hi-Fi POPS』
ORESAMAがメジャー1stアルバムで表現したこと「楽しさも切なさもポップスに昇華できる」
「「無音」という音をうまく使えるかが大事」(小島)
ーーそんな手法の変化もあってか、歌詞の言葉の強度が上がっている印象です。今までの作品ではふわりとした、抽象的な言葉が多かったんですけど、今はテクスチャがはっきりしているというか。そうなったことで一つひとつの言葉が頭のなかにスッと入ってくるようになったように聴こえます。
ぽん:どんどん詞先で書くものが増えてるんですよ。そのぶん私は自分の気持ちを表現しやすいし、歌詞に集中できるというのもあるかもしれません。
ーー「ねぇ、神様?」「SWEET ROOM」が詞先なのは知っているのですが、今作においてはほかにどの曲が詞先なのでしょうか。
ぽん:「綺麗なものばかり」「誰もが誰かを」「耳もとでつかまえて」「ハロー・イヴ」もそうですね。
ーーということはアルバムの半数以上は詞先なんですね。それって小島さんにとっても挑戦なのでは?
小島:いえ、僕は詞先の方が作りやすいんです。メロディとリズムと詞の兼ね合いが曲にとって重要なものだと思っていて、歌詞が先にあると「このフレーズにはこういうメロディをつけたら強調できる」とか「こういうリズムが合う」とか「英語っぽくするとカッコよくキマる」という風にアイデアが浮かびやすいんです。感情を込めたエモーショナルな歌詞があると、音楽としてもその感情に合ったコード進行やメロディを作りやすくなるので、バラード曲は特に詞先が作りやすいし、良いものになるという実感があります。「cute cute」は曲が先なんですけど、トラックにもかなりの重心をおいた曲なので、これと「ねぇ、神様?」を並べると、歌のフォーカス具合がそれぞれ違っていて面白いですね。
ーーそういう意味でもこのアルバムって立体的なんですよね。
ぽん:「cute cute」ではボーカルが楽器に近い扱いをされていて、それが私の中ですごく新鮮でした。いままでと違うバランスでも成立しているし楽しい。歌詞に関しても、この曲では“このアルバムのための歌詞”を書きたくて、小島くんからどんな曲をもらってもそうすると決めていたので、「cute cute」の作詞は面白かったです。このアルバムは一見テンション差が激しくて、どれが本当なんだろうって思う人もいるかもしれません。でも、人間って生きていたら常に同じテンションではいられないじゃないですか。いろんな感情のなかで生きていく、それはきっとあなたも私も同じだよ、というメッセージをこの曲には込めました。
ーーやはり変化を楽しむハイライトは前半にありますね。小島さんが話した歌とリズムの関係性についてもう少し掘り下げたいのですが、ORESAMAってバンドというよりは打ち込みを主体とするユニットで、さらに生楽器のグルーヴに合わせて変化する歌唱というよりは、基本的に四つ打ちのポップスじゃないですか。そのうえでリズムを工夫するとなると、どういう工夫が挙げられますか。
小島:「間」なんですよね。「無音」という音をうまく使えるかが大事だと思います。僕はディスコが好きなこともあって、16分のリズムを取り入れることが多いんですが、それによってリズムのバリエーションは無数に増えるんですよ。16分で食ってかかってくるとか。ハーフテンポとか。
ーー変拍子的なものとか。
小島:そうです。そういった遊びを入れるときに、下のキックは四つ打ちで鳴っていたほうが成立しやすいんですよ。「cute cute」のサビもそうなんですが、少しリズムから外しても、下でちゃんと鳴ってくれているぶん、より自由に遊べるんです。
ーー確かに、ボーカルのスケールアウトが気持ちよく聴こえるし、すぐ戻ってきても四つ打ちだからか違和感がないですね。
小島:かつノリやすいですよね。逆に、「耳もとでつかまえて」でソウルっぽいリズムビートを作ったことも挑戦でした。最初にリズムを作ると、そのあとに作る音には良くも悪くも制限がかかるんですよ。しかもこの曲のように跳ねていてソウル寄りのリズムは、四つ打ちなら自然なアプローチができなくなってしまう。リズムに支配されてメロディを作るし、ベースやギターを乗せることにもなるので、ある意味リズムは曲を司っているといえますよね。
ーー「Hi-Fi TRAIN」はソフトポップだし、「流星ダンスフロア」はテクノ、「cute cute」はエレクトロスウィングと、前半ではこれまでにないジャンルへトライしていることも印象的でした。
小島:僕は元々ディスコが好きで、得意なBPMもあったので、その範囲の中でなるべく作っていたんですけど、「ワンダードライブ」がその前提を全部取っ払ってくれましたし、この1年で、ぽんちゃんの歌声が乗ればいろんなジャンルを取り入れても、最終的にはORESAMAの音楽になるというのが確信に変わりました。
ーー小島さんが作ればORESAMAになるというぽんさんと、ぽんさんが歌えばORESAMAになるという小島さん、という面白い構図が浮かび上がってきました。
ぽん:おおー(笑)。小島くんが外で受けた刺激というのはすごい大きいんだろうと思うし、私も負けていられないですね。
ーー後半の「ハロー・イヴ」は、前向きな春ソングですが、コーラスにボコーダーを使っていることにより、いい意味での違和感が生まれている一曲です。
小島:「春の歌を作ろう」と話し始めて作った曲で、歌詞が先にあったんですけど、PC上でカセットテープやレコードみたいな温かい雰囲気を表現できないかと思っていて。コーラスも当初はボコーダーではない和音で入れてたんですけど、作っている途中で「優しすぎるかな?」と考えるようになり、僕なりに春の不安感や明るい季節の裏にあるものを表現したくなって。違和感のある音を入れようと、コーラスの声をボコーダーにしました。
ぽん:歌詞を全部書いて出して、初めて聴いた段階でもうこの形になっていて、面白いなと思いました。
ーー曲が歌詞の裏側にあるメッセージを補完しているというのは面白い関係性ですね。
ぽん:本当にそうだと思います。この曲では、いつも歌詞を書くときに入れてしまいがちな不安みたいな要素を入れなかったので、音も含めて“日常に寄り添った、当たり前にやってくる春”のような曲になっていると思います。
ーーいままでのORESAMAから二歩大きく踏み出したところを、うまく小島さんが一歩くらいの歩幅に整えた、というバランス感ですね。
小島:Bメロも希望に満ち溢れた歌詞なんですけど、暗めのコード進行をつけていて。
ぽん:私はそれが逆に春っぽいなと思いました。前を向くって口では言いますけど、誰しも不安はあるわけなので。それが曲からにじみ出ているのが、また一段と春っぽいなと思います。
ーーそして、個人的に最後を「銀河」で締めるというのは、ORESAMAにとっても意味のあることですし、聴いている側にとっても感動的なフィナーレですよね。
ぽん:曲自体は2年以上前にはできていたんですが、ライブで歌っていることもあって、今も“最新のわたしのもの”という感覚なんですよ。ライブでも一番ORESAMAらしい雰囲気を作れる曲として信頼を置いているので、この再スタートを締めくくって、もう一度頭の「Hi-Fi TRAIN」を聴いてほしいという気持ちが強くて。マスタリングのときに「『銀河』から『Hi-Fi TRAIN』に行くのはどのくらいの秒数ですか?」って聴いたんですけど、「それは機材によります」って言われてしまいました(笑)。
ーーリピートの間隔はどうしても聴く環境に依存しちゃいますもんね(笑)。アレンジはこれまでの「銀河」よりも少しコンプのかかったような音に聴こえます。
小島:「銀河」「オオカミハート」あたりの僕らって、時代感も考えてドンシャリ気味なんですよ。で、僕らがいまやりたいのは、上から下まで綺麗に出たハイファイなもので。なので今回は音像をアップデートしようと思って、若干大人っぽくしたというか。
ーー潰したのではなく、ローとハイを少しずつ切ったということですか。
小島:潰したのもあるんですけど、中音域をしっかり鳴るようにして、音を濃密にしたというか。あとは太めのシンセを追加したりと、厚みを出したので、数年分だけ大人になったんですよね。初回限定盤のBlu-rayで「オオカミハート」と「銀河」を聴いていただけると、やんちゃな音作りをしているなと感じてもらえると思います。あと、Blu-rayはすべてハイレゾでマスタリングしています。
ーーそこに佐藤さんのこだわりが!(笑)。Blu-rayのMV集には、うとまる(THINKR/POPCONE)さんたちとやってきた“視覚効果ありきのORESAMA”も楽しめますね。
ぽん:「オオカミハート」も、YouTubeに上がっているMVはショートバージョンなので、何年か越しに初めてロングバージョンを見ていただけるんですよ。まさか「オオカミハート」のMVも一緒に連れていけると思っていなかったので嬉しいです。その流れが「Hi-Fi TRAIN」のMVで全部回収できますし、全てが繋がっている感慨深い作品になりました。
ーー「オオカミハート」のフルバージョンはライブのVJでしか流してなかったですもんね。「Hi-Fi TRAIN」の“これまでのORESAMAを連れて行く”というMVは、今回の楽曲にも作品にもピッタリな映像です。ちなみに、発売後の4月15日にはワンマンライブ『ワンダーランドへようこそ ~Hi-Fi PARTY in LIQUIDROOM~』も開催されますね。
ぽん:ワンマンライブは毎回オープニングを楽しみにしてほしくて。今回は「ワンダーランドへようこそ」と謳っているくらいですから、日常から非日常に連れていきたいという気持ちが強いんです。なので、始まりの瞬間を楽しみにしてほしいです。
小島:僕は「流星ダンスフロア」のパフォーマンスにも注目してほしいですね。特に2サビが終わったあとの間奏は、ライブで自分たちも想像してないくらいの熱量が生まれますし、音でコミュニケーションをしているという感覚になるんです。
ーーライブだとあの部分でバンド感が一気に出ますよね。
ぽん:ORESAMAはライブだと一気にエモーショナルになるので、初めての方は音源との違いを全体的に楽しんでもらえると思います。
(取材・文=中村拓海)
■リリース情報
ORESAMA メジャー1stアルバム『Hi-Fi POPS』
発売:2018年4月11日(水)
価格:初回限定盤(Blu-ray付)¥3,600(税抜)
通常盤¥3,000(税抜)
<収録曲>
01. Hi-Fi TRAIN
02. 流星ダンスフロア
03. cute cute
04. 綺麗なものばかり (Album Mix)
05. 誰もが誰かを
06. 耳もとでつかまえて
07.「ねぇ、神様?」
08. Trip Trip Trip
09. ハロー・イヴ
10. SWEET ROOM
11. ワンダードライブ
12. 銀河 (Album Mix)
<Blu-ray収録内容>※初回限定盤のみ
01. オオカミハート
02. ドラマチック
03. 乙女シック
04. 銀河
05. ワンダードライブ
06. Trip Trip Trip
07. 流星ダンスフロア
08. Hi-Fi TRAIN
■ライブ情報
【ワンダーランドへようこそ ~Hi-Fi PARTY in LIQUIDROOM~】
日時:2018年4月15日(日)
会場:LIQUIDROOM
■関連リンク
ORESAMA Official Website