1stフルアルバム『クリープ・ショー』インタビュー

Creepy Nutsが問う、ジャンルの定義「“いわゆる”を作ることって本当にヒップホップなの?」

 2017年8月に『高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。』で華々しくメジャーデビューを飾る……はずが諸般の事情により延期、11月に再リリースとなるなど、なんだがフワフワした形でのメジャー進出となったCreepy Nuts(以下クリーピー)。

 しかし、彼らのこれまでを総括し、これからを明示する、メジャー1stアルバム『クリープ・ショー』の充実した構成は、そのモヤモヤを晴らすに余りある快作。彼らの音楽的イズムや原点といった根本から、自分たちを取り巻く状況と音楽シーンといった現状認識、そしてこれからのクリーピーへの期待を呼び込むであろうこの先への希望など、幅広いテーマで彩られた本作は、彼らにしてはケレン味なくストレートに「クリーピーとはなんぞや」を打ち出した、1stアルバムらしい1stアルバムとして完成した。彼らの未来に期待せよ!(高木“JET”晋一郎)

「自分の主義を全力で主張できるのがヒップホップ」 (松永)

ーー3月まで行われた全国ツアー『高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけど“遂に”メジャーデビュー。』は、一昨年のツアー『いつかのエキストラ、ライブオンステージ。』の流れを汲んだ、バンドとの対バンツアーとして行われましたね。

R-指定:10年ぐらい前に、あるインタビューで般若さんが言ってたことが印象に残ってるんですよね。そこで般若さんは「いまラッパーとレゲエDeeJayが戦ったら、ラッパーはほとんど負ける。ヒップホップやラップの基礎知識がないオーディエンスに対して、ライブでいきなり『ヒップホップってヤバイ』って分からせるほどの力量を、ラッパーはまだ持ってない」という大意のことを話されてて。ずっとその言葉が自分の中にあるんですよね。それから時間を経て、いまは般若さんはもちろん、RHYMESTERやTHA BLUE HERB、サイプレス上野とロベルト吉野だったりが、他のジャンルの現場に行って、ヒップホップという武器で戦うようになってる。そうやってヒップホップへのリテラシーや共通認識がない人の前で、ターンテーブルとマイクでどれだけ上がらせられるのか、という意識で戦ってるそういう先人を見て、自分たちもそうありたいと思って、バンドとの対バンツアーにしたんですよね。

R-指定(左)とDJ 松永(右)。

ーーチャレンジの流れでもあると。

R-指定:ヒップホップシーンの中で勝負もしてるし、戦うことも好きなんだけど、一方で他のジャンルのアーティストやオーディエンスの前で、ヒップホップは格好ええんやぞ、ってことを見せたいんですよね。今回のアルバムに収録した「ぬえの鳴く夜は」にも繋がるんですけど、楽器もできへん、楽譜も読まれへんっていう、非音楽家というコンプレックスは俺も松永さんもお互いにあるんですね。でも、そういう奴らが作ってる“音楽のようなもの”で、音楽の奴らと戦いたいと思うんです。

DJ松永(以下、松永):だから毎回、武者修行感の方が強いし、そういう思いは、SANABAGUN.との対バンの時には良い方に作用したよね。

R-指定:それは顕著やったね。「楽器で大人数のグループがあれだけヤバいライブを見せてきたら、俺らはマイクとターンテーブルだけでやったろやないか!」って。

松永:でも、それは怒りとかじゃなくて、変な嫉妬のない、清々しい感覚でしたね。

R-指定:同じ村の奴と戦うだけじゃ得られない経験になってますね。

松永:そして、その武者修行で得たものを携えて、ヒップホップの人たちと戦えるのも面白い。

R-指定:だから、ヒップホップの現場に出ると、むちゃくちゃ燃えるし、むちゃくちゃ喰らうんですよね。最近は『Zephyren presents A.V.E.S.T project Vol.12』やね。

松永:あの時の般若さんとZEEBRAさんのライブはとにかく燃えたね、ふたりとも最強感がスゴかった。

R-指定:完全に範馬刃牙と範馬勇次郎(笑)。

R-指定:ホントに引き込まれた。「なんで未だにこんなにラップ上手いねん、ジブさん」って。

松永:TRAPのビートでラップしても、現行の乗せ方を全部1人で回収しつつ、しかもそれより上手いっていう。完全に奇跡だったよね。

R-指定:しかもTRAPやのに完全に生歌で。あまりに感動して2人で「感動しました。もっと上手くなろうと思います」って伝えに行くという(笑)。シンプルに初心にかえったよね。

松永:日本におけるヒップホップ像は、やっぱりこの人が作ったんだなって。

R-指定:そういうライブを通して、やっぱヒップホップ最強、ヒップホップが一番格好いいとも思ったし、自分たちもそうありたいなって。

R-指定

ーー『クリープ・ショー』には「新・合法的トビ方ノススメ」など、ロッキッシュな部分を感じる曲も多く、一般にイメージされるヒップホップサウンドよりも、ロックやミクスチャー的な感触で捉えられる楽曲も多いですが、それは意識的にですか?

松永:実はそこまで意識はしてなくて、計算よりも直感で、その時に格好いいと思ってるモノを作ったら、このサウンドになっていったんですよね。基本的にはサンプリングで作ってるんだけど、かなり細かく壊して再構築してるんで、完成するまで、どう転がるかが実は分かってなかったりもして。だから、完成形を見据えながら作った訳でもないし、事故的に良さが産まれた曲も多いんですよね。ただ一方で、分かりやすく既存の“ヒップホップなビート感、BPM、質感”のモノを焼き直しても面白くないし、自分のセンスで、自分の中でフレッシュだなと思うものを作ってるんですよね。だから、作る動機も手法も、滅茶苦茶ヒップホップだと思ってるし、逆に“いわゆる”を作ることって本当にヒップホップなの? って。

ーーそういったヒップホップ的な発想が、クリーピーの根本にはあるんだけど、クリーピーの活動場所が、ヒップホップシーンよりも、ロックやポップスのシーンとクロスすることが多くなってることから、いわゆる“ヒップホップ的なもの”から距離を置こうと思っているのかなと、穿った見方で捉えられかねないとも思うのですが。

R-指定:確かに、どこかやっぱり、俺らも色物の枠に収納されることも多くて。

松永:それは一番不本意なんですよね。

R-指定:「メジャーデビュー指南」みたいなふざけたMVを作ることは自分らも好きだし、作ってくれた人の技術とセンスがあるから、ちゃんと面白く伝わったと思う。そして、ヒップホップが世間に警戒心を持たれたり、誤解があるなら、それを解くために、そういう内容で作った部分があるんですよね。楽曲にしても、ヒップホップって頭を使えば面白いモノが作れる、音でいろんなことが表現できるという提示の意識で作ったのが「たりないふたり」や「助演男優賞」だった。でも、そこでのファニーな部分の方が強く伝わってしまって“面白いことをやる枠”に入ってしまったような気がするんですよね。格好いいモノを作ってるつもりなのに、ファニーな部分の方が強く広がってしまったのは、ちょっと残念にも思えて。

ーーWebラジオ番組『悩む相談室』や、これから始まる『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)のレギュラーも含めて、クリーピーのそういった面白さは大きな武器なんだけど、面白さがフィーチャーされすぎてしまい、ヒップホップ性が見えづらくなってしまったというか。

R-指定:極論、俺は自分のことを“日本語ラップ”だと思ってるんですよ。俺は日本語ラップを聴いて、日本語でラップを始めたから、確かにそれが(源流を意識したコンシャスな)ヒップホップではないと言われれば、それはそれまで、というか。でも、例えば梅田サイファーの仲間はそれでいいと思ってる奴らばかりやし、その潔さもヒップホップやと思うんですよね。だから、時代の流れを追うことも尊敬するし、新しい音楽を研究するのもカッコイイ、ヒップホップの歴史を考え直すことも素晴らしいことやけど、それを義務としてしまうのはどうなんやろうって。

松永:今までの道をなぞるよりも、オリジナルを提示する方が正義だと思うんですよね。ヒップホップ・ファッションと同じで、カテゴライズされたモノをなぞると、それが“制服”みたいになっちゃうし、それってみんなが「バビロン」って言ってたやつでしょ、って。

R-指定:俺がニューエラを脱いだのも、みんながニューエラを被るなら、俺は脱ぐっていう発想だったし、それが自分にとってのヒップホップだったんですよね。

松永:着たい服を着て、作りたいトラックを作って、自分の主義を全力で主張できるのが、ヒップホップだと思うんですよね。

R-指定:でも、バトルに出る若い子とかがありがちな大学生みたいな格好してるのを見ると「ニューエラ被れよ、一旦は通れよ」と思う自分もいるんですが(笑)。

ーーラップやDJ、サンプリングによるサウンド構築など、お互いの武器はヒップホップカルチャーの中で生まれたり研ぎ澄まされたものですね。それを二人共とにかく高いレベルでやってるんだけど、世の中にパッケージとして出た時に“ザ・ヒップホップ”ではないのが面白い。ただ、そうイメージするのは、自分の中にも王道のヒップホップを求める、“ヒップホップ警察”性があるからだとは思います。

R-指定:その気持ちも分かるんですよ。自分の中にもヒップホップ警察は確実にいて、王道のコンシャスなヒップホップも大好きだし、BAD HOPみたいな芯からヒップホップな連中も大好き。でも、自分たちはそれをなぞることが発想的にもできないから、俺らができるところは何かなっていうことを考えたら、今の動きになってるんやと思いますね。

松永:でも、今回のアルバムも含めて「クリーピーの動きはヒップホップじゃねえ」って言われたら、「分かってねえな! このファッション野郎! 上澄み野郎!」って返すと思いますね。

R-指定:まあまあ(笑)。

松永:スキルを高めるのも、絶対的な“地肩”の部分をパンパンにしておきたいからなんです。だから「文句があるならDJで勝負しようぜ」と思うし、そこで負けたくない。スキルで全員黙らせたいって気持ちは、今までと変わらないですね。

R-指定:確かに、俺もヒップホップじゃないと言われるなら「じゃあ同じビートの上でラップで勝負しようや」って思いますね。今までは、それがMCバトルやったかも知れへんし、いまはバトルに出てないから、ライブが勝負の場だと思ってて。ライブで勝負すれば、俺が最高のラッパー、松永さんが最高のDJ、クリーピーは最高のグループってことを表明できると思うし、負ける気はしないですね。

DJ 松永

ーークリーピーで今まで出してきた作品は、作品ごとにパッケージ・コンセプトが強かったですね。だけど今回のアルバムは、楽曲ごとにテーマ性は強いけど、アルバム自体には強いコンセプト性がない分、幅広い作品になっています。そして、そこに自分たちの根本性や今までの活動や道程を振り返ると構成が込められたことで、非常に1stアルバムらしい作品になっていますね。

松永:最初は全部新曲にすることも考えてたんですよ。

R-指定:そうなっていたら、もしかしたらもっとコンセプト性が強い作品になってたかもしれないんですけど、それだとリリースに間に合わなかったっていうのと(笑)、12曲全部、新しくテーマを立てられるほど、議題がなかったんですよね。

松永:心境的にも過渡期って感じだもんね。新しいフェーズに行き切ってる訳でもないし。

R-指定:それで、それなら今までの自分たちを完璧に出し切る作品にしよう、っていうテーマで固めて行ったんですよね。

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