米津玄師が「Lemon」に込めた想いとは? ドラマ『アンナチュラル』と特別ネット番組から紐解く
米津玄師「Lemon」
この“二人にしかわからない何か”は、中堂(井浦新)の殺された恋人・夕希子(橋本真実)が最期に所持していた絵本“ピンクのカバ”を彷彿とさせる。中堂は、“ピンクのカバ”とともに夕希子を100パーセント愛している。そして、彼女が<胸に残り離れない>。中堂は8年もの間、目に見えなくなってしまった彼女に対して“誠実な愛”を貫き通している。“誠実な愛”は、レモンの花言葉の一つ。またレモンは、アメリカやイギリスでは“欠陥品”という意味もある。夕希子がいなくなってしまったこの世界は中堂にとって“欠陥品”であり、そしてまた夕希子を亡くしたことで、中堂自身にも傷がつき、欠損してしまった。
だが、『アンナチュラル』は決して暗くて重いだけの物語ではない。コミカルさや小ネタを合間に挟んでくるからこそ、テンポがよく面白い。そして「Lemon」を作る上で米津もまた、「曲調に関しては、そもそもバラードを作ろう」と始めたが、「ただ平坦なリズムになってしまうのは、このドラマには果たしてあっているのか」と疑問に思ったという。そんな時に「踊るように、人の死を想う。ステップを踏むように、人の死を想う」というイメージが米津の中に生まれたのだとか。ヒップホップとバラード。対極にあるその二つの要素が、米津の手によって、ナチュラルに混ぜ合わせられたことで生まれたレクイエム「Lemon」。「美しいものになる確信があった」と米津自身も口にしているように、悲しくて優しいこの楽曲は、あまりに美しすぎる。
米津が「Lemon」に込めた「生きてる者の視点で、目に見えなくなってしまったものに対して、祈りを捧げる」という想いは、ミコト(石原さとみ)らUDIラボが胸に抱いている想いそのものだろう。つまり「Lemon」は、『アンナチュラル』という“死”と“未来”をテーマにした物語を、丸ごとそのまま表現している。そして、『アンナチュラル』のように、始まりの光を私たちに見せてくれるのだ。
(文=戸塚安友奈)