クラムボン・ミトの『アジテーター・トークス』:新春特別編 神前暁(MONACA)

ミト×神前暁が考える、それぞれの音楽的特徴と<物語>シリーズ楽曲の面白さ

 クラムボン・ミトと、音楽に携わる様々な“玄人”とのディープな対話を届ける対談連載『アジテーター・トークス』。今回は新春特別編として、彼と親交の深い音楽作家・神前暁と対談が実現した。

 2人が音楽作家として参加する<物語>シリーズの楽曲が、音楽ファン・アニメファンからここまで高い評価を得るのはなぜなのか、をメインテーマに据えながら、ミトと神前の交遊録や、音楽家としての共通点、神前によるミトの分析、神前が刺激を受けた若手音楽作家の話など、トピック盛り沢山のトークとなった。(編集部)

<クラムボン・ミトの『アジテーター・トークス』バックナンバー>

第一弾【クラムボン・ミト×大森靖子が考える、ポップミュージックの届け方「面白い人の球に当たりたい」】
第二弾【クラムボン・ミト×『アイマス』サウンドP内田哲也が語る、アイドルアニメ・ゲームに“豊潤な音楽”が生まれる背景】
第三弾【花澤香菜は声優&アーティストとしてどう成長してきた? クラムボン・ミト×花澤マネージャーが語り合う】
第四弾【クラムボン・ミトとbambooが考える“悪巧み”の重要性 バンドを長く続けるために守るべきことは?】
第五弾【クラムボン・ミトとTWEEDEES・沖井礼二が明かす、2人の「距離」と「伝家の宝刀」】
特別編【内田真礼×クラムボン・ミトが語り合う、歌手と作家における“表現の源”】

神前とミトが考える、互いの「音楽的特徴」

ーーミトさんと神前さんの出会いは、2010年に発行されたクラムボンのファンジンが最初ですよね。

ミト:そうそう。『化物語 第四巻 / なでこスネイク』のパッケージ版が出るタイミングでした。

神前:突然、メールをいただいたんですよ。クラムボンさんはデビューの時から聴いていたので、「おしゃれなJ-POPの人からなんか来たな」と驚いて会ってみたら、思いっきりこっち側の人だったという(笑)。

ミト:私の場合もファンとして入っているから、当時は「遠いところにいる人」という印象で。ゲームはあまりやらないので、神前さんの存在を認識したのはアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』が初めてで、衝撃を受けました。

神前暁(左)とミト(右)。

ーー実際会ってみて、距離が一気に縮まったのでしょうか。

ミト:MONACAと神前さんの家と僕の家が自転車で往来できる距離だというのが判明してから、異常なスピードで縮まっていきました。同じくらいの時期にmeg rockさんとも繋がって、3人で飲むことも多くなっていったんですよね。

神前:その3人で飲んで、僕の家で二次会をして、という流れが週に3~4回繰り広げられていました(笑)。

ミト:「なんでこんなに会うんだろう?」というくらい会ってましたね。各々が持ってる端末でデモを聴かせあったりして。

神前:僕の家でDAWを立ち上げて、作りかけの曲を聴いてもらったり。ミトさんが「ここのメロは上じゃね?」ってシーケンスを触ったりハモのラインを変えたり。学生の宅飲みみたいなノリでした。

ミト:普段の現場はもう少し漠然とした音楽の作り方の人が多かったんですけど、僕はテクスチャーをガチガチに組んで作るタイプで。そういう仲間があまりいなかったのもあったし、歌モノを作っていて劇伴をやっているという意味では、神前さんが一番距離も感性も近い作り手だった。だから、一緒に居て楽しかったんだと思います。

ーー近しいからこそなかなか話す機会もないかもしれませんが、お互いの作家性・音楽家としての特徴を挙げるとすると?

ミト:何でもできる人、というイメージは当初からありました。でも、最近の作家さんで聴いてすぐに「この人だ!」とわかるのはシャイニー(齋藤真也)さんと神前さんと、少し後発になるけどkz(livetune)くんくらいで。色んなことが嫌味なくできるのに、作家としての記名性を強く感じるというのは面白いですよね。

ーーその記名性の正体とは。

ミト:何だろう。いまだに正体を掴みきれてない部分があります。

神前:僕にはしっかりしたルーツというのがないので、「なんでもできる」というよりは「なにも得意じゃない」んですよ。根無し草的な感覚というか。でも、そのぶん特定のジャンルに依存しないので、歌メロや和音といった踏み入った部分の個性を見抜かれているような気がします。他の人みたいにパッと聴いてわかるテクスチャーの個性はないと思う。

ミト:確かに、メロは聴いたらすぐにわかりますね。上昇サビでも下降サビでも一発でわかる。

ーー様々なジャンルを横断して作るうえで、掛け合わせや配分を意識しているからこそ、オリジナリティが出ているのかもしれません。同じ連載で、沖井礼二さんがミトさんの個性について「混ぜのバランスが特徴的」と言っていたのですが、神前さんについてもそういったクセを感じます。お二人の音楽的な感性が近いのも、そのあたりが共通しているのかなと思いました。

神前:たしかに、よく言えばそんな感じかもしれません。例えば、「もってけ!セーラーふく」は萌え的な手法とミクスチャーロック・テクノ的なカットアップのギミックを入れて、「なんでも引っ張ってくるのが面白い」と思って作った曲なんです。結果的に、そういったところで出しているバランス感が、個性と呼ばれるものになったのかも。

ーーなるほど。神前さんが考えるミトさんの作家性とは?

神前:かなり特徴的な人ですよ。ピアノでいうと、白鍵を全部鳴らしたような響きを好んで使う人だと思います。極端な話、ミとファの音って濁るんですけど、それ以外は全部常に鳴ってるような。この音域にはド・ミ・ソがいるけど、その上にはレ・ファ・ラがいて、ベースがシで鳴ってる。クラシックやジャズの機能的な音楽とは違う考え方なんですよ。手が大きいからなんですかね?

ミト:あー、それは間違いないですね。僕の曲って、基本的に1のコードと5のコードしか使わない展開なんですよ。C(ド・ミ・ソ)って、ドが入っているだけで明るくて、ミとソを残しながらシを押すだけで、マイナーコードのEmになるじゃないですか。右手はあまり動かさず、基本的にその展開しかやってないんです。そのぶん左手で変化をつけて展開していくから、ダイアトニック・スケールが多い。

神前:でも、EDMをやってる時のミトさんは全然違うんですよね。エンジニアとしてのミトさんの、ミックスの巧さが活きているというか。一つ一つの音を音響的に捉えているような気がしますし、そこは僕にない感覚です。

ミト:まあ、バンドものと作り方から違いますから。私自身は昔からパソコンでしか音楽を作ってなかった人間ですし、世界でテクノミュージックが繁栄したころから、自分も同じテクスチャーと共に歩んできましたから。といっても最初はTM NETWORKの真似をしていただけですが。

神前:僕もTMは通りましたよ。YAMAHAのEOSシリーズ(小室哲哉のメインキーボード)って使ってました?

ミト:EOSシリーズとMacintosh SE30です(笑)。僕らはBOØWYじゃなくてTMで育ったし、彼らがやれハードロックだプログレだと言い始めたことで、洋楽の楽しさを教えてもらったんです。こと四つ打ちが好きだったから、その成分を追いかけているうちにアシッド・テクノ周りが盛り上がってきて、大きな影響を受けたりと、根本から「ラララ~」で曲を作る人ではないんです。でも、『triology』以降はメロ先で入るようになっていて、そこには神前さんから受けた影響がかなり大きいんです。

ーー神前さんがクラムボンに影響を与えていたというのは面白いですね。色んな方にお話を聞いても、やはり神前さんを影響元とする作り手は多いです。

神前:「神前さんの音楽が好きで~」と言っていただく方は多いんですけど、その方たちの曲を聴いても僕らしさを感じることはあまりなくて。それぞれ素晴らしく頑張っている、個性的な作家さんたちですし。

ミト:得てしてパイオニアと呼ばれる人たちは、みんな自覚がないんですよね(笑)。でも、掬い取って見ると神前イズムがあるんですよ。

神前:その人たちのほうが客観的に分析できているからこそ、僕の知らない僕らしさが出ているのかもしれませんね。

ーーちなみに、最近刺激を受けた音楽作家さんは?

神前:『関ジャム』でも「ようこそジャパリパークへ」を分析したオーイシマサヨシ(大石昌良/OxT)さんや、うち(MONACA)の田中秀和くんや広川恵一くんには触発されましたね。個人的に好きなのは、堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)さんや重永亮介さん、渡辺翔くん。翔くんが出てきたときに、「僕とはメロディとかの作り方が根本的に違う!」とショックを受けました。

ミト:翔くんは詞とメロが同時に出てくるタイプの作家、というイメージがありますね。

神前:言葉の力が強いですよね。ソングライター的な人という印象です。

ミト:「c.o.s.m.o.s」(内田真礼の楽曲。渡辺が作詞作曲、ミトは編曲で参加)でご一緒したときに思ったのは、伸び代がすごいということ。メロディーメーカーとリリシストのどっちにも振り切れるし、どちらも噛み合っているから、こちらが音響的に少し変化したくらいじゃブレないんですよ。

神前:それは堀江さんもそうで、下手をすると取っ散らかるんじゃないかと怖くなるところを、躊躇なくやれる人という感じですね。

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