渡辺志保が選ぶ、年間ベスト・ヒップホップ・アルバム10 “ラップが持つパワー”感じた1年に

 そして、今年のアトランタはいつにも増して豊作だった。ミーゴスとフューチャーのチャートアクションの良さも相まって、よりアトランタのトラップシーンがフォーカスされた一年だったのではないのだろうか。ミーゴスのメンバーは客演参加も多く、彼らの声を聴かない日はないというくらいであった。来年早々には『C U L T U R E 2』の発売も予定されているそうで、ミーゴス・フィーバーはまだまだ続きそうだ。

 逆にここ数年、常にアルバムとミックステープをコンスタントにリリースしてきたフューチャーは、今年がキャリアのピークだったのでは、という感じも否めない。来年はどんな攻勢で仕掛けてくるのか、楽しみだ。トラップの真髄を感じることができた2 Chainzのアルバムは、リリース前よりエリカ・バドゥらがアルバムと同じタイトルのプレイリストを作ってSpotify上にアップしたり、ジャケット写真に写るトラップハウスにて教会のサービスを施した他、無料のHIV検査所として活用したりするなどのプロモーションも素晴らしかった。泣く泣くチャートには入れられなかったが、アトランタ界のキング、グッチ・メインの『Mr. Davis』も十分気合の入った作品で、重厚な聴きごたえがあった。メンフィス出身のヤング・ドルフは今年、LAで撃たれながらもアルバムとミックステープ合わせて計4作をリリースするなど、かつてのグッチ・メインも驚くような多作っぷり、そしてブレないギャングスタっぷりを評価し、チャートに反映させた次第である。

 コダック・ブラック『Painting Pictures』やリル・ウージー・ヴァート『Luv Is Rage 2』など、若手アーティストのアルバムも白眉級の作品が多かったが、ここでは「Magnolia」のヒットで新たなトレンドを生み出した感のあるプレイボーイ・カーティーのデビューアルバムを選出した。かねてよりファッションシーンからも注目されていた彼だが、この作品をもってラッパーとしても正当に評価された向きもあり、プロデューサーのピエール・ボーンとともに今後が楽しみな逸材だ。

 XXXテンタシオン、11月に急逝してしまったリル・ピープらのようなエモさとグランジっぽさが同居したラッパーや、リル・パンプのようにかなり強烈な個性を持つラッパーたちも勢い良くアルバムをリリースした一年であり、「こんなにリリースが相次いじゃって、来年以降はどうなっちゃうのかしら」と今から気が気ではない。ただ、若者が刹那的な感情をサウンドに落とし込むという点では今年はここ数年で最もエキサイティングな一年だったのではないだろうか。その反面、オーバードーズが原因で自死を招いてしまったリル・ピープのような存在もあるわけで、つくづく皮肉だとも思う。

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