村尾泰郎の新譜キュレーション:特別編

村尾泰郎が選ぶ、2017年USインディーベスト10 実験精神と歌心を併せ持つ必聴作揃う

・Father John Misty『Pure Comedy』
・The National『Sleep Well Beast』
・Dirty Projectors『Dirty Projectors』
・Foxygen『Hang』
・Ariel Pink『Dedicated To Bobby Jameson』
・Thundercat『Drunk』
・Mount Eerie『A Crow Looked At Me』
・Tara Jane O'Neil『Tara Jane O'Neil』
・Grizzly Bear『Painted Ruins』
・The War On Drugs『A Deeper Understanding』
(順不同)

Father John Misty『Pure Comedy』

 今年のUSインディーシーンは、近年注目を集めてきたアーティストの新作が次々とリリースされた実り多き一年だった。なかでも、今後ますますその存在感を増していきそうなのがFather John Mistyだ。新作『Pure Comedy』ではソングライティングやボーカルの表現力が深みを増すなか、ギャヴィン・ブライアーズがオーケストラアレンジを手掛けるなど細やかに作り込まれたサウンドも聞き応え充分。また、彼がかつて在籍したバンド、Fleet Foxesが6年振りの新作『Crack-Up』をリリースしたことも話題を呼んだ。

 彼ら同様、アメリカーナなサウンドを幅広い音楽性を通じて独自に昇華させてきたThe National『Sleep Well Beast』は、これまでより自由度の高い音作りで新境地を開拓。シーンを牽引していくバンドとしての風格を見せた。一方、ここ数年、新作を出すごとに話題を呼んできたDirty Projectorsは『Dirty Projectors』でデイビット・ロングストレスのソロユニットへと変化。よりパーソナルな性格を持ったアルバムになり、これからの展開が気になるところだ。

Foxygen『Hang』

 昨年、The Lemon TwigsやWhitneyといった注目のニューカマーをプロデュースしたジョナサン・ラドのバンド、Foxygenは、オーケストラを従えて『Hang』を発表。ロックオペラ的な壮大さで独自の世界を作り上げた。そして、Foxygenにも通じるサイケデリックな感覚とマッドなポップセンスを持つアリエル・ピンクの『Dedicated To Bobby Jameson』は、彼の原点ともいえる宅録作品。実在したLAのミュージシャン、ボビー・ジェームソンを題材にしたコンセプトアルバムでアリエル節を全開させた。また、同じく奇才ぶりで注目を集めるThundercatの『Drunk』は、ジャンル分けできない多彩な音楽性を持ったアルバム。とくに今回はソングライターとしての才能が発揮されていて、マイケル・マクドナルドやケニー・ロギンスの参加にも驚かされた。

Mount Eerie『A Crow Looked At Me』

 Mount Eerie『A Crow Looked At Me』は、今年亡くなった妻、ジュヌヴィエーヴ・カストレイの死をテーマにしたアルバム。ジュヌヴィエーヴが闘病した自宅のベッドルームで録音された本作は、剥き出しの感情がそのままシンプルなメロディとなり、穏やかな歌声となって胸に沁みる。悲しさよりも深い優しさを感じさせるアルバムだ。同じくシンガーソングライターでは、タラ・ジェイン・オニールの『Tara Jane O'Neil』も親密な歌を届けてくれた。元Deerhoofのクリス・コーエンやMy Morning Jacketのジム・ジェームスなど多彩なゲストが参加した本作は、これまで以上にメロディと歌に焦点があてられていて、タラの歌声は風や光のようにナチュラルで美しい。こうしたシーンの流行と関係ないところで歌と真っ正面から向き合っているアーティスト達の作品が、しっかりと対訳もつけて日本盤として届けられるのは嬉しい限りだ。

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