西廣智一の新譜キュレーション:特別編
西廣智一が選ぶ、2017年HR/HM/ラウドロックベスト10 暗いニュースの裏にあった傑作たち
1. Mastodon『Emperor Of Sand』
2. Kreator『Gods Of Violence』
3. Converge『The Dusk In Us』
4. Linkin Park『One More Light』
5. ONE OK ROCK『Ambitions』
6. Boris『DEAR』
7. Code Orange『Forever』
8. Dead Cross『Dead Cross』
9. OUTRAGE『Raging Out』
10. Arch Enemy『Will To Power』
HR/HMが誕生してから、今年でどれくらいになるのだろう? いわゆる“ラウド”な音楽の創始者は数えるほどいるので、どこを起点と決めるのは非常に難しいが、その後の影響を考えるうえでBlack Sabbathの誕生はひとつの基準になるかもしれない。そのBlack Sabbathが今年2月、バンドの故郷であるイギリス・バーミンガムでのライブを最後に50年近くにわたる活動に幕を下ろした。
また、5月にはSoundgardenのクリス・コーネル、7月にはLinkin Parkのチェスター・ベニントンがそれぞれ自ら命を絶つという不幸な出来事もあった。そういう事実を顧みて、2017年はHR/HMやラウドロックなどエクストリームミュージックシーンにおいて暗い1年だったと言うこともできるが、それでは今年発表されたHR/HMやラウド系のアルバムを聴いてみるとどうだろう。そんな暗い空気はまったく感じさせない、むしろ傑作揃いの1年だったのではないかと改めて実感している。
心を鬼にして10枚選び、しかも順番をつけてみたのだが、1位は何の迷いもなくMastodonの傑作『Emperor Of Sand』だった。同作の国内盤ライナーノーツを書いたからという理由ではなく、純粋に2017年においての「ヘヴィメタルとは何か、ラウドな音楽とは何なのか」という問いに歌詞、サウンド、歌、アレンジ、すべての面で答えを出してくれたのが本作だったからだ。死刑囚が“生と死”と向き合い、終末にたどりつくその構成には何度聴いてもシビれ、そして考えさせられる。2017年にこういう作品が誕生した事実を受け、この先の未来がまだ明るいものであると確信できた、そんな1枚だった。
2位にはドイツの大御所スラッシュメタルバンドKreatorの5年ぶり通算14作目のスタジオアルバム『Gods Of Violence』を選んだ。スラッシュメタルというある種享楽的なスタイルを選び音楽活動を始めた彼らだが、活動歴35年の中ではゴシックロックに傾倒したりインダストリアルロックに目覚めたりした時期もあった。そんなバンドが自身の原点を見つめ直しつつ、これまでの寄り道すらすべて肥料となっていることを証明してみせたのが、『Gods Of Violence』というアルバムだ。間違いなく、本作は彼らのキャリアにおける新たなピークと言える。それは、本作が本国ドイツのアルバムチャートでキャリア初の1位に輝いたという事実からも伺えるのではないだろうか。
また、Convergeの5年ぶり新作『The Dusk In Us』も、その素晴らしさに圧倒された1枚だ。彼らならではの無軌道かつカオティックなハードコアサウンドは健在ながらも、実はもっとも強いインパクトを放つ楽曲が叙情的なミディアムナンバーという新鮮さを味わせてくれた本作は、古くからのファンには賛否あるかもしれないが、年齢を重ねた者こそが奏でられる/表現できるこの音楽こそが新たな方向性を示してくれるのではと思っている。そういう意味では、Convergeのカール・バルー(Gt)がプロデュースを手がけたCode Orangeの新作『Forever』にも同じものを感じずにはいられない。
4位、5位には2000年代以降に誕生したラウドロックの未来に対する、日本とアメリカからの回答とも受け取れるアルバムを選んだ。Linkin Parkの『One More Light』はそのポップに昇華されたサウンドが従来のファンから非難されたが、チェスターの死によってその論争が有耶無耶になってしまったところもある。本来なら同作を携えたツアーと併せて、この後の在り方を評価すべきだったのかもしれない。同じように、ONE OK ROCKの意欲作『Ambitions』に対しても以前からのファンの否定的な声は少なくないようだが、こちらに関しては今年行った海外ツアー、そして来年に予定されている国内ツアーで何かしらの答えを示してくれることだろう。筆者自身はこの2枚は2017年を語る上で重要な作品だと認識しているので、来年以降のシーンの動きを楽しみに待ちたい。