Little Glee Monster、『陸王』カバー劇中歌で“ドラマタイアップ”の定石を崩す

 役所広司が主演を務める、現在放送中の日曜ドラマ『陸王』(TBS系)。ドラマもいよいよ終盤に突入するが、登場人物同士のアツい関係性や人間ドラマに加え、挿入歌の存在も日に日に話題を呼んでいる。

 第一話が放送されたのは、10月15日のこと。同枠の大ヒットドラマ『半沢直樹』と同じく原作に池井戸潤を迎えた作品ということもあり、コアなドラマファンからライト層まで、多くの人が注目する初回2時間スペシャルのなかで、挿入歌として突如聴き覚えのある歌声が聴こえた。使用されていたのは「Jupiter」だが、歌っているのは平原綾香ではなく、5声のハーモニーによるもの。エンドクレジットを見てやはりと思ったが、ガールズボーカルグループ・Little Glee Monsterがサプライズ起用されていた。

Little Glee Monster『OVER/ヒカルカケラ』(通常盤)

 このことはSNSでも大きな話題になり、直後のニュースも反響を呼び、同記事で「今後はシーンによって流れる曲が変化する」とあったため、次の楽曲が流れるのを楽しみにしながら、ドラマの展開を追い続けていた(参考:ドラマ『陸王』、劇中歌「Jupiter」はLittle Glee Monsterが歌唱)。

 ドラマは、業績不振に悩む老舗足袋会社の4代目社長・宮沢紘一(役所広司)が新規事業としてランニングシューズの開発を決意し、零細企業ながら世界のスポーツブランドに挑んでいくという物語は、飯山晴之(寺尾聰)や茂木裕人(竹内涼真)というキーパーソンを巻き込みながら、次第にかつてない軽さのランニングシューズ「陸王」の完成へと向かっていく。そして11月19日放送の第五話、宮沢大地(山﨑賢人)が己の殻を破ったその感動的な瞬間に、2曲目の「糸」(中島みゆきカバー)が歌われたのだった。大地がスローで工場へと駆け込む場面と、同曲の歌唱は、感情を強く揺さぶる相乗効果を生んでいた。

 リアルサウンドで以前に行ったインタビューにて、メンバーのアサヒも「私たちもいつどこで流れるのかわからなかった」(参考:『紅白』初出演も決定! Little Glee Monsterが明かす『陸王』劇中歌起用の裏側&新作での挑戦)と語っているように、彼女たちが歌ったのは、本人たちにも視聴者にもどのタイミングで流れるのかわからない「劇中歌」であり、誰しも聴き馴染みのある楽曲の「カバー」だ。主題歌として、エンディングに流れることが大前提だったドラマタイアップ曲に、リトグリは「劇中歌」かつ「カバー曲」という2つの新たな衝撃をもたらしたのだ。

 もちろん、この大胆な起用は偶然の産物ではない。先述したニュース記事にあるとおり、同ドラマのプロデューサーである伊與田英徳氏は、今年の春にLittle Glee Monsterのライブを観る機会があり、今作品での起用を決めたという。春のライブといえば、4月9日に東京都・国際フォーラムAで行なった『リトグリライブツアー 2017 〜Joyful Monster〜』か、新体制の幕開けとなった4月28日の『新曲披露ミニライブ』のことだろうか。前者では、盤石のバンドメンバーとともに、中盤で「歓喜の歌(喜びの歌)」を軸に、「うれしい!たのしい!大好き!」(DREAMS COME TRUE)や「じょいふる」(いきものがかり)、ファレル・ウィリアムス「Happy」の日本語詞バージョンなどをミックスしたアカペラメドレーを披露していた。楽曲に新たな解釈を与え、より幅広い世代に高い技術で歌を届ける彼女たちのパフォーマンスは見事なものだったし、これがきっかけとなって今回の『陸王』劇中歌が決まったのかもしれない(参考:Little Glee Monsterは世界への階段を着実に登るーー春のホールツアーでの発見と充実)。後者も、アカペラの「SEASONS OF LOVE」が新たな5声のハーモニーで披露された場所。“現在”のリトグリを観た上で起用に至ったとすれば、それもまた納得がいく(参考:Little Glee Monsterは立ち止まらず進み続けるーー5人体制初ライブに見た希望)。

 今年は初めての『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)出演を果たすなど、快進撃を続けるリトグリと日曜ドラマが破壊した「ドラマタイアップ」の定石。この試みが、今後のドラマ主題歌・劇中歌に与える影響は大きいに違いない。

(文=中村拓海)

※記事公開時、一部事実に誤りがございました。訂正してお詫び申し上げます。

関連記事