稲垣、草なぎ、香取が示した〈芸能〉の振る舞い 『72時間ホンネテレビ』鮮烈さの背景を読む
『72時間ホンネテレビ』の鮮烈さは、ネットテレビというメディアによるものではない。「ホンネ」を暴露したからでもない。越境的で撹乱的な〈芸能‐人〉たちの振る舞いこそが、本番組に清新な風を呼び込んだのだ。それは例えば、森且行がオートバイで走る姿だったり、あるいは、爆笑問題の太田光がジャニーズの話をしてみたり、狩野英孝がおそるおそる「森さん」と口にしたり、という振る舞いだ。メディアは違えど、〈芸能〉というものはつねに、そういう緊張感をはらんだときめきとしてあった。草なぎ剛は番組中、「自分の心をときめかせてくれる人が年齢問わずアイドルなんじゃないかな」と言っていた。
そういえば、小西康陽による「72」という番組曲は、シュガーベイブ「DOWNTOWN」を強烈に想起させた。EPO版の「DOWNTOWN」は『オレたちひょうきん族』のエンディング曲だった。『オレたちひょうきん族』も、そのようなときめきに満ちていただろう。『72時間ホンネテレビ』の裏で『めちゃイケ』『とんねるずのみなさんのおかげでした』の終了が発表され、『オレたちひょうきん族』に端を発する「楽しくなければテレビじゃない」のフジテレビおよびテレビの凋落が言われる。メディアのありかたも、社会のありかたも変わっていく。しかし、わたしたちの日常を活性化させる〈芸能〉の役割は終わらないだろう。〈芸能〉が終わらなければ、なんらかのかたちで中居正広や木村拓哉が加わる可能性もあるだろうか。『72時間ホンネテレビ』は、そういうことを感じさせる番組だった。
■矢野利裕(やの・としひろ)
1983年、東京都生まれ。批評家、ライター、DJ、イラスト。東京学芸大学大学院修士課程修了。2014年「自分ならざる者を精一杯に生きる――町田康論」で第57回群像新人文学賞評論部門優秀作受賞。近著に『SMAPは終わらない 国民的グループが乗り越える「社会のしがらみ」 』(垣内出版)、『ジャニーズと日本』(講談社現代新書)、共著に、大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)、宇佐美毅・千田洋幸編『村上春樹と一九九〇年代』(おうふう)など。