BENIが挑んだ“ポップスの実験”とは? サカナクション、ユニゾンら楽曲を再構築したカバー盤を考察
なかでも、SUNNY BOYとタッグを組んだ曲が多いのだが、先にあげた「新宝島」と「シュガーソングとビターステップ」も然りで、楽曲を一旦細かく解体して、潔い取捨選択と大胆に新要素を持ち込んだ再構築をしている。「新宝島」では、原曲でシンセや楽器が担当する音響をBENIの伸びのあるボーカルで表現し、フィジカルなダンスミュージックに焦点をあててアッパーで都会的なトラックへと仕上げた。原曲でのキーとなるフレーズはこぼさず、いいアクセントで使っており、原曲へのリスペクトも感じられる。なじみ深く、でも新しい雰囲気を持っているのだ。「シュガーソングとビターステップ」では、原曲でのメロディのグルーヴを残しつつ、テンポ感を抑えてソウルタッチの洒落たトラックになっている。バンドサウンドの性急さとは対極の、開放感抜群のムードにしているのもおもしろい。そのぶん、原曲のテンションやめくるめく感情をボーカルの表現力で昇華した。UNISON SQUARE GARDENの曲よりも主人公の年齢が上がった、アダルティな感じもいい。SUNNY BOYの手がけた曲では、BEGINの「海の声」をチルアウト感のある心地よいダンスミュージックに、福山雅治の「家族になろうよ」を、ラバーズロック風アプローチで甘美な1曲に仕上がっており、こちらも原曲の風味を感じさせながらも新鮮な聴き心地だ。曲の調理の仕方としては、リミックス的なアプローチにも近く、このあたりは今回起用したクリエイター陣は、得意とするところでもあると思う。カバーするには難易度の高い曲をあえて選び、BENIとクリエイター陣がそのクリエイティビティを発揮して遊び尽くしたアルバム。それが『COVERS THE CITY』なのだ。
歌謡曲の再発見やボーカリストとしての魅力を最大限発揮してきた、これまでの『COVERS』から一歩、二歩進んで、BENIのこれからの作品へも繋がるようなポップスの実験場にもなっている『COVERS THE CITY』。シリーズ化したカバーアルバムという定番の枠を超えて、BENIのディスコグラフィーのなかでも、ユニークな存在感を発揮する1枚になるのではないだろうか。
(文=吉羽さおり)
■リリース情報
COVER ALBUM『COVERS THE CITY』
発売日:2017年9月13日(水)
初回限定盤(CD+DVD)¥3,980(税込)
通常盤(CD only)¥2,980(税込)
<CD収録内容>
「新宝島」(サカナクション)
「海の声」(桐谷健太)
「恋音と雨空」(AAA)
「Nandemonaiya (English ver.)」(RADWIMPS)
「ひまわりの約束」(秦 基博)
「ヘビーメロウ」(スピッツ)
「魔法って言っていいかな?」(平井 堅)
「シュガーソングとビターステップ」(UNISON SQUARE GARDEN)
「家族になろうよ」(福山雅治)
「ずっと好きだった」(斉藤和義)
「R.Y.U.S.E.I.」(三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBE)
「もう一度…」(童子−T feat. BENI)※BONUS TRACK
<DVD収録内容>
新宝島(Music Video)
“COVERS THE CITY” Behind the Scenes