13thアルバム『ぼくたち わたしたち』インタビュー

BUGY CRAXONE すずきゆきこが明かす、新作での挑戦とクアトロ公演リベンジへの思い

 結成20周年を迎え、今年1月に2度目のメジャーデビューを果たしたBUGY CRAXONEが、9月20日に13枚目のオリジナルアルバム『ぼくたち わたしたち』をリリースする。太さと鋭さを備えながら心地よく響くバンドの音と、優しさと強さを感じさせながらもどこか飄々とした歌。ふんわりとハッピーな気分にさせてくれるブージーの、しっかり地に足のついたバンドとしての姿をこれまで以上に感じることのできるアルバムだ。

 ベストアルバムの後のオリジナルアルバムである本作に込めたもの、17年前に“辛酸をなめた”リベンジでもある11月の渋谷CLUB QUATTROワンマンへの想いを、すずきゆきこ(Vo&Gt)にたっぷりと語ってもらった。(冬将軍)

テーマは「バンドを自分の手から放す」 

ーー空の色といい、構図といい、すごくいいジャケット写真ですね。

すずき:あー、そうなんです! 今回はデビューシングル(『ピストルと天使』1999年)を撮ってくれたカメラマンの関めぐみさんにお願いして。関さんの写真ってすごく独特で、奇抜じゃないんだけど、絶対に関さんだってわかるんですよ。音楽以外の広告もやったりしてる方なんですけど、すぐにわかる。それが今の自分たちにあってるなって。

ーーアーティスト写真もメンバーのみなさん、いい表情してるなぁと。

すずき:主張とかキャラを出していくとなると、どうしてもがっつり前を見て、みたいになりがちだけど、私たちのいいところってそこじゃなくて、こういうさりげなさなんじゃないのかなって思ったんです。

ーーアルバムタイトルになっているリード曲「ぼくたち わたしたち」も、強い自己主張ではなく、素のままの飾らなさを歌っていますし。

すずき:〈あっけらかんと生きるのだ〉というのが自分でもしっくりきていて。良い意味で“とぼけている”、“抜けている”ということが、生きる力として気合や努力と同じくらい大事なんじゃないのかと思ったんです。それをこうして歌詞として書ききれたことも自分の中では大きい。20周年とかクアトロのワンマンとか、正直胸がぎゅうっとなったこともあったんですけど「ホームランか空振りするかわからないけど、とりあえず大振りするわ!」みたいな気持ちになれたのが良かったですね。

ーーアルバムにおけるコンセプト的なものはあったのでしょうか? 全体的な印象として、どこか1stアルバム『blanket』(1999年)のような、昔のブージーを感じたんですよ。何が似ているというわけではなく、雰囲気というか、においみたいなものなんですが。

すずき:ベストの後のオリジナルアルバムなので、まとめや振り返りの作業はもういいなと思ったんです。もう一回チャレンジするというか、バンドの根幹となるところを強く打ち出せる作業がしたいなと。私はこれまでバンドをコントロールしていたというか、ここ何年かはアルバムの全体像みたいなものを自分でイメージして、「こういう曲が足りないんじゃないか」と書き足したりしてたんです。でも、ブージーのコンポーザーは私一人じゃない。笈川(司/Gt)くんも作るし、バンドみんなでも作る。だから、私だけのイメージに収めちゃうと、可能性や伸びしろも小さく収まっちゃってるんじゃないのかなと思ったんです。だから今回は「BUGY CRAXONEというバンドを自分の手から放す」っていうのを一つのテーマにしました。なので、あまり収録曲のバランスも取らなかった。今回、ミディアムテンポの曲が多いんですけど、そうした曲が多いということは、みんなそういう心境なんでしょうね。そういうところを素直に出す。形を整えるというよりも、「現在のブージーはどうなんだろう?」ということをただただ作っていく。それをベストを出した今だからこそやりたいと、私は挑んだんですね。

ーーええ。

すずき:逆に笈川くんは、この20年を振り返ったらしく。「上京してきたとき、こういう音楽に影響受けていたな」とか、「昔使っていた機材をもう一度使ってみよう」とか、この20年を消化させるトライをしていたんです。笈川くんが書く曲というのは独特だと思うし、そこにリズム隊の2人が共鳴して、自分のライブラリの中からアプローチしていく。ヤマダ(ヨウイチ/Dr)はとくにそういうタイプだし、旭(司/Ba)くんもオルガンを習ってたりしたから、旋律を作るのはすごく上手くて。そういうみんなが思いつくことを持ち寄った結果どうなるか? っていう作業方法に今回はしてみたんです。だから、1stの感じが出てるというのはまさにそうで。その経緯があったからですね。

ーーそうした方法で制作してみて、実際どうでしたか?

すずき:みんな、完成形が見えないまま作っていったので、しんどかったですね。全曲撮り終わったとき、「曲の並べ方によって色が変わるアルバムになるな」って思ったんです。「危ないぞ、方法を間違ったらずっこける」と、みんなそう思っていて。2曲目の「花冷え」は、今までであれば後半に持っていくんですよね。エンディングに向かっている曲というか。そこはヤマダも旭くんも同じ意見だった。だけど、笈川くんだけ「これは前半に持ってこないとずっこけるぞ」って。最終的にはそこにみんな同意したんですけど。後半に持って行きたかったのは私の作詞の国語的な考えであって、音楽というところで考えたときに、そこまでストーリー性を重視しなくとも良いんじゃないかって、考え直しました。そっちに気持ちを切り替えることができたのも新たな発見でしたね。

ーー「バンドを自分の手から放す」ことによって、違う見方ができたと。

すずき:自分がいちばんこだわりがちだったところを手放すというのは、勇気がいったことなんですけど。でも、バンドじゃなくとも、この時代を生きていく人間として考えたときにも、手放す作業って大事な気がするんですよ。一つのことにこだわりすぎないというか、自分の気持ちに少し遊びを持たせるとでもいうか。しんどかったけどやってよかったと思います。これでまた次が生まれていくと思うんです。

ーーそうやって「手放した」ことが、具体的に楽曲やサウンドとして表れているところはありますか?

すずき:「花冷え」は、このビート感でこのコード進行でいくと、普通はわりとガサツな感じになっちゃうと思うんですよ。でも、そうならないのが笈川くんの曲であり、このバンドならではの持ち味でもある。最初、私が原曲を聴いたときそういうガサツなイメージを持ちがちだったので、自分を黙らせました。結果、みんなの可能性を信じるというところで作り上げられたので、ホント良かったなと思いますね。「花冷え」というタイトルも、笈川くんが昔やってたバンドで唯一歌詞を書いた言葉だった、というのを前に聞いたことがあって。自分が考えていない言葉をタイトルにすることってあんまりないんですけど。いろんな意味で私の、ブージーのこれまでのトライの仕方では完成できなかった曲だし、アルバムの中で大きなフックになってる曲だと思います。

ーーアイリッシュ民謡テイストの「ばっくれソング」も印象深かったのですが、ここまでルーツ的なものを見せることって、今までのブージーにはなかったアプローチですよね。

すずき:笈川くんはこの曲でオマージュをしっかり入れ込む、というのを今回はやりたかったらしく。私はそれをあまり好まないんですよ。音に引っ張られて歌詞を書くことが多いので、ここまで直球にやられちゃうと書きようがない。でも「バンドを自分の手から放す」ところで、そこをもう一踏ん張りするというのがあったから。歌と歌詞に集中させてもらえたこともあって、完成できた曲です。

ーー「シャララ」は故郷である、HTB北海道テレビのニュース番組『イチオシ!』のテーマ曲として書き下ろしたそうですが。

すずき:お話をいただいて「こういう風なことを書いて欲しい」ということが、私がブージーでやろうとしていることと、ほぼ一致していたんです。月曜から金曜まで、夕方にやっている報道番組の金曜日のエンディングで、週末を前に「また来週がんばろう」という気持ち。世代的にも番組を見ている人たちと一緒なんですよ。家族のために夕食を作りながら見ていたり……、そういう人たちの生活に寄り添うこと。それはこのバンドでやっていることだから問題なかったんですけど、何しろ流れる尺があるんでね(笑)。サビまで何分何秒という、きっちりとした制約があったのはビビりましたね(笑)。だけど、無理だとは思わなかったので。私、無理だと思わないことは絶対にできるんです。でも途中、「歌詞が書ける気がしませんっ!!」なんてメンバーに弱音を吐きましたけどね、へへへ(笑)。

ーー〈さよならさんかく〜〉の印象的なフレーズといい、どこか童謡的でもあり、懐かしい響きのある曲ですね。

すずき:誰もが自分の中に、ずーっと、ずーっと、あるもの。「人間ってなんだろう?」「心ってなんだろう?」という。けれど、日常を過ごしてるとそれどころじゃない。でもなんとなく、綺麗な景色を見たとき、ハッとそこに立ち返らされるというか。そんなとき、ふと流れてくれたらいいなと思って書きました。

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